中国のコンタクトレスペイメントとモバイルペイメント(上)

2016年5月6日8:00

日本でも中国人観光客の来店を促すために銀聯(ぎんれん)カードの導入が加速しているが、2016年の中国の大型連休「春節」(旧正月)では、モバイルのQRコードを活用した「支付宝(Alipay)」、「微信(We Chat)」の「微信支付(We Chat Payment)」が注目を集めた。また、将来的には、「NFC(Near Field Communication)」にも対応可能なコンタクトレスペイメント「Quick Pass」およびモバイルバージョンの「Cloud Quick Pass」が日本でも広がる可能性もある。そこで、中国のコンタクトレスペイメントとモバイルペイメントについて、和田文明氏に解説してもらった。

和田 文明

中国に世界のペイメントカード業界の関心が集まる

今、世界のペイメントカード業界の関心は、中国に集まっている。何故なら、銀聯カードが99%を独占している中国のペイメントカードと電子決済の市場をWTO(世界貿易機構)が2012年にアメリカからの訴えを受けて市場解放を中国に求め、中国政府は2014年にバンクカード業務の外資への解放を決めたからである。一方、受けて立つ中国銀聯も2012年に中国銀聯インターナショナルを設立し、海外における銀聯ブランドのクレジットカードやデビットカードの現地発行を含め、より一層の海外での事業展開を目指している。

世界のGDPの13%、貿易額の15%を占め“経済大国”となった中国のデビットカードやクレジットカードなどの銀聯カードは、2015年6月に50億枚を超えたといわれている。こうした銀聯カードは、コンタクトレスペイメントを伴ったデュアルインターフェースのICカードを用い、独自のスタンダードによるICカード化と「NFC(Near Field Communication)」にも対応可能なコンタクトレスペイメント「Quick Pass」の受入体制が強力に推進されている。

一方、インターネットやスマートフォンの急速な普及により、中国では“E-コマース”や“M-コマース”が急速に拡大し、ノンバンクのオンラインペイメントやインターネットバンキングやモバイルバンキングによるオンライン決済が急速に増加し、スマートフォンを用いた「O2O(オンラインからオフライン)」の店舗型のオンラインペイメントソリューションでもあるアリババグループの「支付宝(Alipay)」や中国版のLINEであるチャットの「微信(We Chat)」の「微信支付(We Chat Payment)」などのQRコードを用いたモバイルペイメントが2014年頃から急速に拡大している。

支付宝や微信支付などのノンバンクのモバイルペイメントの急速な拡大に対して、50億枚以上の銀聯カードのネットワークとコンタクトレスペイメントソリューションのQuick Passの500万店以上のカード加盟店ネットワークを擁する中国銀聯は、モバイルバージョンの「Cloud Quick Pass」を2015年12月に発表し、「Apple Pay」や「Samsung Pay」などのNFCによるモバイルペイメントにより、中国のリテールペイメントにおけるイニシアティブの確保を目指している。

中国銀聯とペイメントカード

中国銀聯(China Union Pay)は、銀行間のオンライン決済とバンクカードの決済業務の発展を目指して、中国の中央銀行である中国人民銀行が主導し、14年前の2002年3月に上海に設立された。この中国銀聯によって中国におけるATMとバンクPOSのネットワークとデビットカードやクレジットカードなどのペイメントカードの飛躍的な成長・発展が成し遂げられた。(図表1)は、中国における銀聯カード発行枚数の2008年から2015年6月までの推移を示したものである。 2008年末の18億枚から2015年6月末の50億枚へと6年6カ月の間に2.8倍も増加している。その大半はデビットカード(借記カード)であるが、クレジットカード(貸記カード)も2008年末の1億4,232万枚から2015年6月末の4億3,300万枚へと3倍に拡大している。

(図表1)中国における銀聯カード発行枚数の推移(2008年~2015年6月)(万枚) 出典:「Committee on Payment and Settlement Systems」、Bank for International Settlement 刊
(図表1)中国における銀聯カード発行枚数の推移(2008年~2015年6月)(万枚)
出典:「Committee on Payment and Settlement Systems」、Bank for International Settlement 刊

(図表2)は、中国銀聯ができる前の1990年代に発行されていた中国農業銀行のATMデビットカードである。(図表3)は、2004年頃に発行された交通銀行の初期の銀聯カード(デビットカード)である。(図表4)は、2004年に発行された招商銀行(本店:広東省)の銀聯VISAカード(クレジットカード)である。こうした銀聯ブランドとVisaやMasterCardなどの国際ブランドマークが付いたクレジットカードやデビットカードは、およそ2億枚が流通しているといわれている。

(図表2) 1990年代に発行された中国農業銀行のATMデビットカード
(図表2) 1990年代に発行された中国農業銀行のATMデビットカード
(図表3) 初期の交通銀行の銀聯カード(デビットカード)
(図表3) 初期の交通銀行の銀聯カード(デビットカード)
(図表4) 初期の招商銀行の銀聯VISAカード(クレジットカード)
(図表4) 初期の招商銀行の銀聯VISAカード(クレジットカード)

中国銀聯がネットワークしているカード加盟店は2002年末でわずか3万5,000店であったが、2013年末には763万5,000店へと218倍に拡大し、POSカード決済端末機の設置台数も2002年末の5万2,000台から2013年末の1,063万2,000台へと204倍に拡大している。ATM(図表5)も2002年末の4万9,000台から、2013年末の52万台へと10.6倍に拡大している。

(図表5)中国工商銀行のATM
(図表5)中国工商銀行のATM

中国銀聯は設立からわずか2年後の2004年から特別行政区の香港や澳門を皮切りに銀聯カードの国際化が始まり、韓国やタイ、日本など海外の金融機関による銀聯カードの発行も始まった。2012年11月には、中国銀聯インターナショナルが設立され、国際化がより強力に推進されるようになった。2014年末には、150以上の国で400以上の金融機関とタイアップし、2,600万店以上のカード加盟店と180万台以上のATMで銀聯カードが受け入れられ、4,600万枚の銀聯カードが海外で発行されるようになっている。日本でも2014年末でおよそ16万枚の銀聯カードが発行され、約40万店の銀聯カード加盟店と銀聯カードに対応するATMが約8万台あり、2014年度のATMを含む銀聯カードの日本での取扱は277億元(約5,540億円)で、2015年度はさらに大きく拡大しているものと思われる。

中国銀聯と金融ICカード

中国では当初社会保障などのカード機能を銀聯のバンクカードに搭載する目的でコンタクトICカード(図表6)の発行が始まった。2005年12月には、中国最大の商業銀行である中国工商銀行による中国で最初のEMVスタンダードのICカードのバンクカードが登場した。一方、中央銀行の中国人民銀行(PBOC)のイニシアティブのもと、セキュリティの向上や金融、交通、社会保障、医療などマルチアプリケーションに対応し、セキュアな独自の電子財布「UPcash(銀聯電子マネー)」の導入を図るため、中国人民銀行による独自のスタンダード「PBOC2.0(2005年バージョン)」を2005年3月に定め、2007年11月に「PBOC2.0」に基づいた銀聯カードを中国工商銀行が最初に発行している。

(図表6)2004年頃発行された社会保障カード機能付き銀聯カード
(図表6)2004年頃発行された社会保障カード機能付き銀聯カード

(図表7)は、社会保障カード機能と中国農業銀行の銀聯カード(デビットカード)機能を搭載したPBOC2.0スタンダードに基づいた広州市のスマートシティカードである。このように社会保障カードに銀聯カード機能を付けるのは、決済機能の付与ならびに金融機関に社会保障カードをサポートさせることが目的ともいわれている。

(図表7)2013年発行の社会保障カード機能が付いた銀聯カード
(図表7)2013年発行の社会保障カード機能が付いた銀聯カード

2008年の北京五輪や2010年の上海万博を機に、ICカードの各種トライアルが行われ、2010年4月にPBOC2.0(中国金融集積回路(IC)カード仕様)(2010年バージョン)が発表され、併せて中国におけるICカード化のタイムスケジュールが示された。その中で、2012年末までにICカードの発行開始や、2013年末までにすべてのカードターミナルとATMのICカード対応の完了、2015年から新規に発行されるバンクカードはICカードに限られることなどが定められている。また、2012年2月からデュアルインターフェースのICカードを用いた中国銀聯のコンタクトレスペイメントソリューションのQuick Passがリリースされている。現在、中国におけるバンクカードのICカードは、2013年にバージョンアップされた「PBOC3.0」スタンダードに準拠したICチップが採用されている。このPBOC3.0の主なアプリケーションは、次の通り。

・デビットカードペイメントアプリ
・クレジットカードペイメントアプリ
・コンタクトレスペイメントアプリ
・マイクロペイメントアプリ
・電子マネーデュアル通貨決済アプリ、など

中国ではICカードによるバンクカードは “金融ICカード”と呼ばれ、その金融ICカードの切り替えを含む発行が本格化し始めたのは、(図表8)のようにQuick Passがリリースされた2012年以降である。2011年末の金融ICカードの発行枚数はわずか2,400万枚で、銀聯カードに占めるICカードの割合もわずか0.8%に過ぎなかったが、2012年末には5.12倍の1億2,300万枚に拡大し、3年6カ月後の2015年6月末には14億3,700万枚となり、銀聯カードに占める割合も28.5%にまで拡大している。金融ICカード化は、銀聯ブランドのクレジットカードのみならずデビットカードでも行われている。(図表9)は交通銀行のデビットカードの金融ICカードのパンフレットである。

(図表8)金融ICカード発行枚の推移(2011年~2015年6月) 出典:中国人民銀行、他
(図表8)金融ICカード発行枚の推移(2011年~2015年6月)
出典:中国人民銀行、他
(図表9)交通銀行のデビットカードの金融ICカードのパンフレット
(図表9)交通銀行のデビットカードの金融ICカードのパンフレット

(図表10)は、大手商業銀行の中国銀行の金融ICカード(デビットカード)で、コンタクトICとコンタクトレスICのデュアルインターフェースのICカードが採用され、Quick Pass機能や電子財布のUPcash(銀聯電子マネー)機能が付いている。(図表11)は中国銀行の金融ICカードのパンフレットで、社会保障カード機能が付いている中国銀行銀聯カードなどが紹介されている。

( 図表10)中国銀行の金融ICカード
( 図表10)中国銀行の金融ICカード
(図表11)中国銀行の金融ICカードのパンフレット
(図表11)中国銀行の金融ICカードのパンフレット

金融ICカードへの移行期である中国では、2015年の新規発行のカードから磁気ストライプが付いていない金融IC カード(ICチップのみ)に切り替わっているが、磁気ストライプのみの銀聯カード(非金融ICカード)や磁気ストライプの付いた金融ICカードの3つのタイプが併存している。現在のところ、ATMもPOSカード決済端末機もICチップと磁気ストライプの両方が読取可能であるが、今後新たに設置されるATMやPOSカード決済端末機の中にはICカード専用機種が登場してくるものと思われる。

コンタクトレスペイメントソリューション

国際ブランドのコンタクトレスペイメントソリューションには、(図表12)のようにMasterCardのMasterCard Contactless(旧PayPass)のほか、VisaのVisa payWave、American ExpressのExpress Pay、ディスカバーのZIP、中国銀聯のQuick Pass、JCBのJ/Speedyがある。これらはEMVスタンダードに準拠し、クレジットカードのみならず、デビットカードやプリペイドカード、NFC(Near Field Communication)共通のコンタクトレスペイメントソリューションである。

(図表12)世界のコンタクトレスペイメントソリューション
(図表12)世界のコンタクトレスペイメントソリューション

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