2018年4月13日7:55

日本の電子マネーが採用する「FeliCa」や世界中の金融機関が対応する「ISO/IEC14443(Type-A/B)」の取引に加え、近年、中国や日本のモバイル決済が注目を浴びている。そこで、日本のモバイル決済の現状と展望について、野村総合研究所 金融デジタル企画二部 上級コンサルタント 宮居雅宣氏に説明してもらった。 

株式会社野村総合研究所 金融ITイノベーション事業本部
金融デジタル企画二部 上級コンサルタント 宮居雅宣

1.NFC決済とQRコード決済を取り巻く状況

2018年6月から改正割賦販売法によってクレジットカード取扱店にはカード番号非保持化が義務付けられる。リアルの加盟店には2020年3月までに端末の「100%IC対応」が義務化されており、クレジットカード売上の8割を占めるといわれる大型POS加盟店では、接触型ICカードのみならず、接触型ICと同じデータ仕様の非接触型ICにも同時対応する動きが広まっている。クレジットカードの非接触ICは日本の電子マネーが採用するFeliCaではなく、世界中の金融機関が対応するISO/IEC14443(Type-A/B)であり、データ仕様はISO/IEC7816に準拠したEMV電文だ。改正割賦販売法の対象はクレジットカードであるが、2016年6月に日本列島が震撼したATM18億円不正引出事件を鑑みると、不正使用はデビットカードでも、さらにはプリペイドカードでも同様に発生するリスクであり、消費者保護や預金保護、不正使用対策を考えれば、クレジットカードだけIC化すればよいという話ではないとわかる。

日本では2004年におサイフケータイが始まり、世界から「最も非接触IC決済が進んだ国」と言われた。90年代後半から接触型ICカードが普及していた欧州金融機関では、最近やっと非接触ICが広まってきたが、NFCモバイルを活用してクレジットカードやデビットカードの利用データから顧客の消費動向やライフイベントに応じた優待を配信し金融商品の利用につなげている。IC化が遅れて国際犯罪組織の標的になることが懸念された米国でも、オバマ大統領が大統領令に署名して以降IC化が進み、2014年10月に始まったApple Payで非接触IC決済も増えつつある。MCX とのアライアンスでQRコードの採用が話題になったチェース銀行もカードには非接触ICを搭載済で、Apple PayやGoogle PayなどNFCモバイルにも対応している。mVisaなどQR決済を推進する国際ブランドの本社は、QR決済を加盟店端末の無い発展途上地域向けのソリューションと位置づけており、サンフランシスコやニューヨークでは非接触IC端末を見る機会が増えている。

₁ MCX:Merchant Customer Exchange。ウォルマートを中心に立ち上げた小売業者のモバイルコマースネットワーク。QR コード決済サービス”Current C” を立ち上げたがサービスは終了

一方、中国ではQRコード決済のAlipay Wallet(アリペイ、以下Alipay)やWe Chat Payment(ウィチャットペイ、以下WeChat Pay)が急伸。QRコード決済を使い慣れた中国人観光客の来日も増えている。そのAlipayは日本でもQRコード決済を展開すると発表したほか、日本でもOrigami PayやLINE PayなどQRコードを使った決済サービスが登場し、おサイフケータイでiDを推進するNTTドコモがQRコード決済「d払い」を発表するなどQRコード決済が存在感を高めている。

新千歳空港は世界で初めてWeChat Pay の「旗艦空港」に(編集部撮影)
ネスレ日本では、2018 年2 月9 日から25 日までの期間限定で、東京・浅草にロボットがコーヒーを提供、お土産品をAlipay 決済できるカフェ「ネスカフェ 和もてなし 無人カフェ」をオープン(編集部撮影)

日本ではなぜか「電子マネーは非接触IC。クレジットカードは接触IC。」と、インターフェイスで支払方法を判別しがちだ。磁気カードの「au Wallet」は当初「すんごい使える電子マネー」と宣伝し、「かざしても反応しない」「どの電子マネーのボタンを押せばいいのかわからない」などとコンビニの店頭で混乱を招いたほどである。しかし元来、支払方法とインターフェイスは別物だ。国際ブランド決済カードでは1台の端末で、どの国のカードも、どのブランドのカードも、クレジットカードもデビットカードもプリペイドカードも、磁気カードでも接触型ICでも非接触型ICでも世界中で共用できる。モバイル決済において、現在最も注目の集まるNFCとQRコード決済にもそれぞれ異なる特徴がある。それらの特徴をよく理解して、提供するサービスや用途に応じてインターフェイスを選択すべきであろう。

2.NFC決済とQRコード決済の特徴

QRコード決済には、加盟店店頭に表示したQRコードを利用者のスマホで読み取るプッシュ型決済と、利用者のスマホ画面に表示したQRコードを加盟店端末で読み取るプル型決済がある。プッシュ型の場合、紙などにQRコードを印刷して店頭に貼るだけで支払いを受けられるので、加盟店端末が不要だ。利用者のスマホにはQRコードを読み取るカメラがあればよく、ICチップは不要なので利用できるスマホの機種が多い。プル型でもスマホのアプリでQRコードを表示できればよいので、ほぼ全てのスマホが利用可能である。QRコード決済はスマホの機種を選ばず、加盟店端末も不要という大きな特徴を持つ。加盟店端末が整備されていない地域では圧倒的に優位だ。故に屋台など端末の無い店が多い中国やインド、東南アジアの国々で普及しやすく、端末が普及済で不正使用の手痛い経験を持つ欧州ではあまり使われていない。

中国ではAlipayとWeChat Payの競争が過熱しており、採算度外視の大胆な割引合戦を展開している。もともと偽札が多く、店側も消費者側も電子決済の方が安全で好まれるという背景も大きい。例えば500円の商品の売買でも、店が偽1万円札を掴まされればお釣りも商品代も丸々損することになるし、消費者も真札の1万円札を出して9千円の偽札を渡される可能性を警戒する。何せ真贋判定機さえ騙される精度の偽札が出回っているのだ。現金は危ない。仮に電子決済が不正使用と判断されて商品代の負担を強いられたとしても、偽札よりずっと被害は少なくて済む。現金よりもモバイル決済の方が断然安全なうえ、加盟店手数料は国が廉価で整備した銀聯より安く設定され、利用者も得するとなれば利用は拡大する。

注目すべきは多彩なサービスとの連携だ。例えばチャージ代金が増える投資信託。Alipayでいえばユエバオというオンライン投資信託にチャージ代金を移すことができ、チャージ代金が金利で増えつつ買い物代を引き落とせる。紅包というお年玉サービスで宝くじが当たるイベントは大流行したほか、Didi Taxiという配車アプリでUberのようにタクシーを呼び、降車時に支払い行為不要で自動的にAlipay決済できたり、Zhima CreditというスコアリングサービスではAlipayの支払実績のみならずシェア自転車の返却実績などさまざまな行動履歴が個人の信頼情報として点数評価に反映され、その評価をさまざまな企業が活用して評点の高い人を信頼できる人物として優遇する。AlipayもWeChat Payも決済単体ではなく、グループのさまざまなサービス利用の中に決済手段が溶け込んでいることが、日本の決済サービスが学ぶべき大きな特徴である。

スマートフォン決済サービス「Origami Pay」では、2017 年10 月末からQR コードを印刷して固定提示する新しい決済方式(ステッカーQR コード決済)を提供している(Origami オフィスにて)

一方のNFCにはFeliCaとType-A/Bがあるが、いずれも技術的なセキュリティは高い。そもそもスマホアプリは比較的容易に中のデータが読めてしまうが、NFCではICチップのセキュリティ領域にプログラムを書き込み、その領域へのアクセスを管理することで解読が非常に困難となっている。Apple Payでは指紋認証や顔認証を使った本人認証も活用しており、さらに技術的なセキュリティが高いといえる。また、日本の電子マネーはもともとカード番号では決済できないほか、Apple PayやGoogle Payではカード番号をトークンIDに置き換えているので仮に中のデータが読み取られても不正使用できないようスキーム的にもセキュリティを高めている 2 。何よりアプリを立ち上げる必要がなく、そのままスマホをかざすだけで決済できるので、非常に使い勝手がよく、加盟店にとってもレジスピードが早く、販売機会喪失を防止できる特徴がある。ICチップには演算機能もあり、海外では会員によって端末読取時の動き方を変えるキメ細かな対応もされている。

₂ Apple Pay では米国でも当初他人のカードを登録する不正使用が発生。会員の登録携帯電話番号の変更が容易にできるとこの不正使用ができることは知られており、技術の問題ではなくスキームの問題。日本ではこの手口の不正使用犯を逮捕したところOrigami Pay でも同様の手口で不正使用していたように、QR コードでも発生する手口

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