越境EC消費者トラブルに見る決済サービスの役割〜クレジットカード決済を中心に〜

過剰な期待も

相談機関から見ると、カード会社は「頼りになる存在」であり、まともなコミュニケーションが難しい悪質事業者とのトラブルに関しては「ラスト・リゾート」である。したがって越境トラブルを抱える相談者には、直接交渉の進め方とともに、必ずといって良いほど「カード会社への相談」という助言が加わることになる。イシュアの顧客対応窓口には負担がかかっているものと想像されるものの、このような仕組みを知らない消費者からは、貴重なアドバイスとして感謝される。

他方、詐欺的でも欺瞞的でもない事業者とのトラブルにおいて、消費者の主張や要求を事業者が拒否しているといった場合には、どちらの主張に理があるのかを客観的に判断することは難しい。消費者側の操作ミスや見落としが原因でトラブルになっていると見えるケースや、消費者の主張を裏付ける十分な証拠がない場合も少なくない。

そのようなケースにおいても、相談機関が(ダメもとで)カード会社への相談を薦めることについては、筆者は疑問を感じている。「話し合いが整うまで引き落としを待って欲しい」という依頼であれば理解できるが、「カード会社が独自の判断で返金してくれるかも」という助言は、取引当事者ではないイシュアに対しトラブルの「仲裁役」や事実上の「補償」を求めることになり、過剰な期待と言うべきではないだろうか。

割賦販売小委員会における議論

それでは、このようなクレジットカード会社の対応は、どのような法的根拠に基づいて行われているのか、まずは現行割賦販売法(以下「割販法」)との関係を見る。

CCJやECネットワークに寄せられる越境ECトラブルのうちクレジットカード決済のケースは、旅行商品のように比較的高額なものを含め、ほとんどがマンスリークリアで決済されている。2カ月以上の分割払いはもちろん、リボルビング方式での支払いも数えるほどしかない。つまり、ほとんどのケースが割販法の適用対象ではなく、販売事業者とのトラブル事由をもって消費者がイシュアに請求停止の抗弁を行う法的な権利(割販法第30条の4)は認められない。イシュアの対応は、法的義務ではなく自主的なものといえる。もちろん割販法は、チャージバックについては一切触れていない。

次に、今般の割販法改正の検討の中でどのように議論されてきたかを見る。

2014年8月に消費者委員会から発出された「クレジットカード取引に関する消費者問題に関する建議」7を受け、同年9月、経済産業省において、産業構造審議会商務流通情報分科会割賦販売小委員会(以下「割販小委」)8が設置された。

直近では、加盟店を含むカード決済関連業者に対するセキュリティ対策の義務化や強化に注目が集まっているが、本稿のテーマである越境ECトラブルに関しては、2014年9月から2015年7月にかけて検討され、報告書「クレジットカード取引システムの健全な発展を通じた消費者利益の向上に向けて」9が取りまとめられた。ここでは、法改正に向けた方向性として、次の諸点が合意されている。

(1)オフアス取引に対応した制度見直し:イシュアとアクワイアラの機能に応じて規制内容を整理
(2) アクワイアラへの措置:登録制を導入し、一定水準の加盟店調査を求める
(3)PSP10への措置:任意登録制の導入
(4)加盟店調査における相談・苦情情報の活用
(5)マンスリー取引に係るイシュアへの制度的措置(抗弁の接続や苦情処理義務)は不要

越境ECトラブルという観点で注目すべき点は、上記(2)である。割販小委に提示された消費者相談・苦情の状況から、海外アクワイアラ経由の取引は、国内アクワイアラ経由の取引に比べ、より多くトラブルを生じさせていることがわかった。そこで、国内加盟店との取引を行うアクワイアラは、国内外いずれに立地するかによらず、登録義務を課すこととしたのである。

ただし「国内に営業所を有すること」が登録要件となっているため、海外に所在し、日本国内に営業所を持たないアクワイアラは登録を受けることができず、割販法による規制は及ばない。越境ECトラブルの未然防止や早期解決にどこまで効果があるか、現時点では不明である。

イシュア側に関しては、マンスリー取引への抗弁の接続を中心に、消費者相談サイドから制度的措置の提案や要望が出ていた。しかしトラブルの原因はマンスリークリアという決済方法にある訳ではなく悪質加盟店の問題である等の理由により、措置は不要との結論となった。前述の通り、実際には、法的義務を超えて対応するイシュアも多数あり、この結論には筆者も賛成である。

この段階での法案提出は見送られ、2016年4月に再開された割販小委において、セキュリティ対策について追加的な議論が行われた。同年6月に「クレジットカード取引システムの健全な発展を通じた消費者利益の向上に向けて<追補版>」11が取りまとめられ、これに基づく改正法案が2016年12月に第192回臨時国会で可決された。

その後、さらに政省令の方向性が割販小委で議論され、2017年5月、「クレジットカード取引及び前払式特定取引の健全な発展を通じた消費者利益の向上に向けて」12という報告書が公表された。越境ECトラブル関連については、従前の結論に特に変更はない。

₇ http://www.cao.go.jp/consumer/iinkaikouhyou/2014/0826_kengi.html
8 http://www.meti.go.jp/committee/gizi_1/32.html

₉ http://www.meti.go.jp/committee/sankoushin/shojo/kappuhanbai/pdf/report_02_01.pdf10 Payment Service Provider;いわゆる決済代行事業者
11 http://www.meti.go.jp/committee/sankoushin/shojo/kappuhanbai/pdf/report_03_01.pdf
12 http://www.meti.go.jp/report/whitepaper/data/pdf/20170510001_1.pdf

改正割販法での位置づけ

改正法に係る政省令も公表され、本稿を執筆している2018年2月時点は、6月1日の施行を待っている段階である。改正法では、クレジットカード決済に関係する各プレイヤーが越境ECトラブルに関して何を期待されているのか、改めて条文ベースで見ていくこととする。

アクワイアラには登録制が導入され(第35条の17の2)、加盟店調査が義務づけられた(第35条の17の8)。任意で登録するPSPも同様である。具体的には、アクワイアラ及び登録PSPは、「クレジットカード番号等取扱契約締結事業者」として、加盟店に関し、「クレジットカード番号等の適切な管理又は利用者によるクレジットカード番号等の不正な利用の防止に支障を及ぼすおそれの有無に関する事項であって経済産業省令で定める事項」を調査しなければならない。これには、加盟申込時の「初期調査」と、その後の定期的な、もしくは必要に応じた「途上調査」の両方が含まれる。

セキュリティ対策のみが想定された規定に見えるが、悪質加盟店排除についてもここで読むこととされ、具体的な調査項目が省令に列挙された。アクワイアラ・登録PSPは、カード番号の保護や不正使用対策の状況とともに、加盟店の「利用者又は購入者等の利益の保護に欠ける行為に係る苦情の発生状況」(施行規則第133条の5第6号)、「そのような行為の防止体制・苦情処理体制」(同第7号)を調査することを義務づけられたのである。

もしもアクワイアラが「消費者の利益に欠ける行為により苦情を発生させている」海外事業者を加盟店に抱えている場合は、国内加盟店と同様、是正指導や加盟店契約の解除など必要な措置を講じなければならないことになる。ただし、国内のアクワイアラや日本国内に事業所を有する海外アクワイアラが、そのような(問題のある)海外加盟店と契約する例は多くはないと思われ、越境トラブルの未然防止にどれだけ役立つかは不明である。

次にイシュアへの期待について見る。改正法では、前述の通り、マンスリークリア取引への制度的措置は見送られ、条文上は、現行法から特に変わるところはない。しかしながら、改正法案の国会審議の過程で衆参ともに附帯決議が提案され、その中に「イシュアからアクワイアラへの苦情情報の迅速な伝達」という内容が含まれた。

さらに、「政府が業界の実効的な取組促進と実施状況を検証し、必要に応じてマンスリークリア取引についてイシュアの苦情伝達の義務のあり方等を検討すること」という文言が盛り込まれ、マンスリークリア取引への将来的な規制の可能性が残された。

「イシュアからアクワイアラへの苦情情報の迅速な伝達」という点は、「割賦販売法(後払分野)に基づく監督の基本方針」に反映されることとなる。2018年1月の意見募集案においては、イシュアに課される苦情処理義務について、「加盟店に関する苦情をアクワイアラに通知するべき基準を定めていること」「アクワイアラから提供された加盟店調査の結果につき、苦情を申し立てた消費者への情報提供等所要の措置を講じていること」といった規定が新設され、従来よりも一歩踏み込んだ対応を求める意向が見える13

ただし、イシュアからの通知先として想定されているのは登録を受けたアクワイアラであるため、苦情を発生させている海外事業者が、登録義務のない海外アクワイアラの加盟店であるケースについては、割販法上は「通知先が存在しない」、すなわち越境取引の多くについては、イシュアに通知の義務はないと予想される。

13 2018 年1 月末現在、「監督の基本方針」の最終版はまだ公表されていない。

結びに代えて

以上見てきたように、今回の割販法改正は、越境ECトラブルの解決という観点では、あまり期待できる内容とはなっていない。消費者にとって最も現実的な救済方法がイシュアによるチャージバックであるという状態は、今後も変わらないであろう。

そもそも筆者は、国内取引であれ越境取引であれ、売買契約におけるトラブルの解決を決済サービスに過剰に期待することには懐疑的であり、法規制には反対の立場であるが、クレジットカード事業者が、他の決済手段にはない顧客サービスの一環として、自主的なトラブル対応を売りにすることは大いに歓迎する。

現状、マンスリー取引におけるイシュアの苦情対応は当然ながらまちまちである。それを前提に、イシュアには、消費者に対し、クレジットカード決済の仕組みやカード会社の役割について正確な情報を提供するとともに、消費者がイシュアを選択する際の判断要素となるよう、加盟店に対する消費者の苦情をどのように取り扱うかのポリシーを積極的に公開し、カード会員規約に反映させることを求めたい。

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