3 ソーシャルスコアで変わる 購買行動
中国で最も衝撃を受けたのが、ソーシャルスコアによってあらゆるサービスが適切に利用されるインフラが整備されていたことだ。
中心は、アントフィナンシャルが運営するソーシャルスコア「芝麻信用(ジーマクレジット)」である。アリババのあらゆるサービスを適切に利用することでスコアがあがるもので、所定のスコアまで到達すると、モバイルバッテリーや傘などのレンタルをする際にデポジットが免除されるなどの特典がある。
端的にいうと中国での生活の質を高めるための存在だ。このスコアがあるおかげで、ある程度のマナーレベルが要求される店舗やサービスの運用が可能になっている。
例えば無人コンビニ。中国の無人コンビニの多くは入り口のドアにロックがかかっており、店頭に表示されたQRコードをスマホでスキャンしてロックを解除する。この際、ジーマスコア◯点以上の人が入店できるなどの制約をつけることで、リスクの高い人の入店を抑制することができる。
無人コンビニの場合は入店後、買いたい商品を選んでセルフレジに持って行き、商品のバーコードをスキャンしたうえでモバイル決済をすると、自動ドアのロックが解除され外に出られるようになっているパターンが多い。決済は顧客がAlipayやWeChatのアプリでバーコードを表示して読み取らせる形式だ。
また、ソーシャルスコアは冷蔵庫型自販機でも活躍している。上海や杭州には、飲料や冷凍食品が陳列されている冷蔵庫(冷凍庫)が設置されており、所定のスコアを持った人が冷蔵庫のドアに貼り付けられたQRコードをAlipayのアプリでスキャンすると、ロックが解除され、商品を取り出すことができる。
どの商品を取り出したのかを特定する方法は冷蔵庫のメーカーによって異なるようだ。商品にRFIDタグをつけてセンサーで特定するケースもあれば、冷蔵庫に魚眼レンズ式のカメラを取り付け、商品の取出前と取出後の画像を自動撮影、AIが比較して特定するケースもある。
いずれかの方法で取り出した商品が特定され、代金がAlipayの口座から自動的に引き落とされる。利用者にとっては、ドアを開けて商品を取るだけで良いため商品購入のハードルが低い。
冷蔵庫型自販機の多くはドアのQRコードをスマホでスキャンする方式が主流であったが、芝麻信用の旗艦店(エリア)的な存在の自販機では、もはやスマホさえ不要で買い物ができるようになっていた。自販機に据えられた認証端末でユーザーの手のひらの情報とジーマスコアを紐づけておくことで、次回以降は手のひらをかざすだけでロックを解除して買い物ができる。
前述のモバイルバッテリーや傘のレンタルでは、貸出機にQRコードが貼り付けられており、それをAlipayのアプリでスキャンするとジーマスコアが参照され、約99元のデポジットを支払う必要なく利用料のみでレンタルできる仕組みになっている。
こうしたシェアリングサービスは特にジーマスコアとの相性が良い。「借りた人が返さないと次の人が使えない」という特性上、適切なマナーレベルが求められるなかで、「ちゃんと返さなければスコアが下がる(次回から使えなくなる)」という状況を作り出すことで適切にサービスを運営することにつながっている。
Mさんは「スコアを上げるために私企業へあらゆる情報を連携することには抵抗がある」としながらも、「そうした抵抗感よりも利便性が上回っているため、結局は(ジーマスコアを)活用して生活する」と話していた。
現在(2018年1月31日)では芝麻信用のほか、テンセントも微信支付分(WeChat Payment Score)という名前でWeChatユーザー向けにソーシャルスコア機能の提供を開始。今後、中国におけるソーシャルスコアビジネスはさらに発展していく様相だ。
4 まとめ
視察に行く前は、(個人的に)まさに第1章で取り上げたような「紙1枚のQRコード決済」という印象が強かった中国だが、実態はまったく異なっていた。
中国におけるQRコードは決済だけでなく、あらゆるサービスをスマホで利用するための窓口としての存在感が強いことがわかった。ユーザーのスマホとサービス(マーチャント)を繋ぐための、最もコストのかからない架け橋がQRコードという整理である。
日本ではモバイルQRコード決済が過熱気味であるが、「QRやNFC」という規格単位ではなく、決済+αで社会的な課題をどのように解決するかの視点からサービスを設計することが重要になるであろう。