3.カード決済取引に係る法律のポイント

(1)割賦販売法
①規制対象範囲について

カード等の証票を発行しなくても、顧客識別番号などで、二月を超える後払いを認める場合も該当する。また、あらかじめ番号等を交付せず、個別に二月を超える後払いや分割払いを認める場合は、自己の商品等の販売であるときを除き、「個別信用購入あっせん」に該当し、取引条件等の表示や書面交付義務、民事ルールの適用がある点に留意する必要がある。

なお、デジタル財布、モバイル財布、スマートフォンアプリ、QRコードを使った決済手段を提供する場合であって、特定の包括信用購入あっせん業者と提携し、その取り扱いができる販売業者・サービス業者を自ら選択し、契約を行う場合には、「クレジットカード番号等取扱契約締結事業者」に該当し、経済産業省への登録義務が生じていることに留意する必要がある。

②クレジットカード番号等取扱契約締結事業者

「クレジットカード番号等取扱契約締結事業者」とは、カード会社のアクワイアリング業務を担う役割であり、クレジットカード会社のほか、決済代行会社が該当する場合がある。該当する場合は、経済産業省に登録しなければならず、そのためには、カード番号等の情報の漏えい、滅失または毀損の防止その他のクレジットカード番号等の適切な管理のために必要な措置を講じなければならない。クレジットカード番号等の取扱いを一部でも委託を受けた者(二以上の段階にわたる委託を含む。)(「クレジットカード番号等取扱受託者」)も、経済産業省令で定める基準にしたがい、委託元からの必要な指導その他の措置に対応しなければならない。万一、カード会社・加盟店及びクレジットカード番号等取扱受託業者の役員・職員(退職者も含む)がその業務に関して知り得たクレジットカード番号等を自己もしくは第三者の不正な利益を図る目的で、提供し、または盗用したときは、3年以下の懲役または50万円以下の罰金に処せられることになっている。

③安全管理措置

「必要な措置」については、クレジット取引セキュリティ対策協議会において策定された「クレジットカード取引におけるセキュリティ対策の強化に向けた実行計画2018」をセキュリティ対策の実務上の指針とすることとしており、包括信用購入あっせん業者、立替払取次業者及び加盟店は、実行計画に掲げられた措置を講ずるか、もしくは、それと同等以上の措置を講ずることが必要となる。

ただし、どのような規定を制定し、体制整備を図っていたとしても、結果としてカード情報などの個人情報を漏えいさせた場合は、体制不備として、経済産業省の行政処分とともに、個人情報保護委員会の行政処分を受ける可能性があることに留意する必要がある。

したがって、「クレジットカード番号等取扱業者」は、「クレジットカード番号等取扱受託業者」を含め、その従業員等のクレジットカード番号等の取扱状況を定期的に点検し、監督することが求められている。

(2)犯罪収益移転防止法

犯罪収益移転防止法では、非対面取引における取引時確認の方法の見直しが進み、新たに(図表3)の本人特定事項の確認方法が認められた。

1つは、IC運転免許証などの電子証明書データの利用であり、もう1つが、専用のスマートフォンアプリを利用した写真や動画と本人確認書類の撮影データの送信による方法である。

これらの新しい方法を採用することで従来かかっていた郵送等の手間と時間、そしてコストの削減が可能となっている。

(図表3)本人特定事項の確認方法(新たに認められている方法)

4.FinTech企業が留意したいポイント

(1)電子決済等代行業

決済業務に関連して、決済の担い手である銀行やクレジットカード会社と提携した決済指図の伝達サービスが行われるようになってきた。例えば、複数の振込先への銀行振込の依頼をワンクリックで行うことができるサービス、預金口座の残高や利用履歴等の情報を銀行から取得・集計し、自動的に家計簿を作成するサービスなどがあるが、今後これらのサービスを預金者向けに提供する場合は、銀行法に新しく規定された「電子決済等代行業者」(以下電代業者という)の登録を行い、銀行と契約をしたうえで行う必要がある。振込人登録や振込限度額変更のみを行う場合、代金決済などの目的で行う定期的な口座振替などは該当しないが、振込や振替などをインターネット画面に誘導して本人に行わせる場合であっても、電代業者に該当する場合があることに留意する必要がある。また、「銀行に預金の口座を開設している預金者の委託」がインターネットなど「電子情報処理組織を使用する方法」によるものでない場合であっても、預金口座に係る資金を移動させる為替取引を行うこと等の個々の指図を銀行に伝達する事業者が、当該指図を「電子情報処理組織を使用する方法」によって受け、かつ、当該事業者から銀行に対する個々の指図の伝達が「電子情報処理組織を使用する方法」によって行われる場合には、当該事業者の行為は電子決済等代行業に該当する。

クレジットカード会社に対する指図の伝達は、割賦販売法に規定はないが、経済産業省から2018年4月に「クレジットカードデータ利用に係るガイドライン」が公表されており、これに準拠する形でAPI連携を進める必要がある。

(2)消費者契約法の改正

2018年の改正により、2019年6月15日の施行時から、消費者契約法8条の無効となる不当条項について、その見直しと追加が行われている。また、民法も2020年4月1日から改正法が施行される。

特に、消費者契約法は以下の下線の通り、事業者の責任に関する決定権限を有する条項が無効条項として追加された。民法の定型約款とともに、サービスを運用する約款の定め方にも留意が必要である。

①事業者の債務不履行により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除し、又は当該事業者にその責任の有無を決定する権限を付与する条項
②事業者の債務不履行(当該事業者、その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失によるものに限る。)により消費者に生じた損害を賠償する責任の一部を免除し、又は当該事業者にその責任の限度を決定する権限を付与する条項
③消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除し、又は当該事業者にその責任の有無を決定する権限を付与する条項
④消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為(当該事業者、その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失によるものに限る。)により消費者に生じた損害を賠償する責任の一部を免除し、又は当該事業者にその責任の限度を決定する権限を付与する条項
⑤消費者契約が有償契約である場合において、当該消費者契約の目的物に隠れた瑕疵(かし)があるときに、当該瑕疵により消費者に生じた損害を賠償する事業者の責任の全部を免除し、又は当該事業者にその責任の有無を決定する権限を付与する条項
⑥事業者の債務不履行により生じた消費者の解除権を放棄させ、又は当該事業者にその解除権の有無を決定する権限を付与する条項
⑦消費者契約が有償契約である場合において、当該消費者契約の目的物に隠れた瑕疵があることにより生じた消費者の解除権を放棄させ、又は当該事業者にその解除権の有無を決定する権限を付与する条項

したがって、「サービス変更、停止または終了により会員に不利益または損害が生じた場合でも、これらについて一切責任を負わないものとします」などの条項が無効なだけでなく、「当社が認めた場合を除き、損害賠償には応じない(契約の解除は認めません)」といった事項は、規定が無効となり、民法の定める基本原則通りの損害賠償義務を負うことになる。

(3)特定商取引法

特定商取引法では、サービスや商品のインターネット通信を利用した契約の勧誘と契約は、通信販売に該当する。特定商取引法では、通信販売には主に広告規制が採用されているが、最近の改正で返品制度が設けられた。販売する商品の特性等により、返品できない旨の表示をする場合は、商品説明と一緒に、もしくはサイトのわかりやすい場所に表示する必要がある。表示がない、説明が見つけにくいなどの場合は、法定の返品制度が適用される可能性がある。返品に応じない、返品に時間がかかりすぎるなどの場合には、行政処分の対象となる点に留意が必要である。

(4)景品表示法
①表示に対する規制

事業者が自己の商品やサービスを提供する際、その表示内容に留意する必要がある。表示には、顧客を誘引するための手段として、事業者が自己の供給する商品または役務の内容または取引条件その他これらの取引に関する事項について行う広告その他の表示が該当する。商品等に表示すべき事項が法定されている場合は、その規定に従う必要があるほか、次に掲げるものは不適正な表示として禁止されていることに留意する必要がある。表示には、商品等の説明欄に記載したものが該当するほか、サイトの他の個所、リンク先なども含めて対象になる点に留意する必要がある。不正な表示は、行政処分の対象になるほか、課徴金の制裁の対象になる。
㋐優良誤認表示
商品または役務の品質、規格等の内容について、一般消費者に対し実際のものよりも著しく優良であると示し、または事実に相違して当該事業者と同種もしくは類似の商品もしくは役務を供給している他の事業者のものよりも著しく優良であると示す表示で、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるもの
㋑有利誤認表示
商品または役務の価格その他の取引条件について、実際のもの、または競争事業者同種もしくは類似の商品もしくは役務を供給している他の事業者のものよりも著しく有利であると一般消費者に誤認される表示で、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるもの

②不公正な取引
以下のような不公正な取引方法として公正取引委員会が定める取引方法は、禁止されており、行政処分の対象となる。
㋐不当廉売
不当に商品または役務を低い対価で供給し、他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがある取引
㋑ぎまん的顧客誘引
自己の供給する商品または役務の内容または取引条件その他これらの取引に関する事項について、実際のものまたは競争者に係るものよりも著しく優良または有利であると顧客に誤認させることにより、競争者の顧客を自己と取引するように不当に誘引する取引
・抱き合わせ販売
相手方に対し、不当に、商品または役務の供給にあわせて他の商品または役務を自己または自己の指定する事業者から購入させ、その他自己または自己の指定する事業者と取引するように強制すること
・排他条件付取引
不当に、相手方が競争者と取引しないことを条件として当該相手方と取引し、競争者の取引の機会を減少させるおそれがある取引
不公正な取引かどうかは、利用者や取引先、競業する事業者などから、寄せられる意見等が大きく影響する。疑問が生じたら、企画の段階で専門家のチェックを受けたり、相談するのがよいと考えられる。
③罰則と課徴金制度
課徴金納付命令は、優良誤認表示、有利誤認表示を対象に行われる。不当表示と判定されたとき、または不実証広告規制で不当表示と推定されると課徴金が賦課される。賦課金額の算定は、3年間を上限として対象商品・役務の売上額に3%を乗じて算出される。なお、違反事業者が相当の注意を怠ったものでないと認められるとき、課徴金額が150万円未満となる場合は、課徴金は賦課されない。

(5)利用者と加盟店の保護

代金等の支払いを「カード決済」により受ける側(商店・サービス事業者等)からすると、決済システムを提供する事業者から確実に代金が支払われることが保証されていれば、問題はない。「カード決済」の手数料率の違いや代金の精算サイクルが異なるものの、現金に代わる有力な決済手段として、受け止められている。現金を扱うことが少なくなれば、現金の管理や集計、釣銭の用意などに時間をとられず、現金のハンドリングコストを削減できることも知られるようになり、「カード決済」を通じたキャッシュレス化が進んでいるようである。

しかし、利用者サイドは、一見同じ「カード決済」であっても、カードの選択とそれに伴うわずかなオペレーションの違いにより、取引の実解釈と決済機関との契約内容に基づく法的な規制の差と保護レベルの差が生じている。また、決済の受け手側である加盟店も、決済の安全性を確保するために、法的な義務を負担することがある。

消費者の利便性、既存金融サービス提供機関の取り組まないニッチ分野を開拓して、新しいサービスを提供する場合、あらゆる法律を調査し、確認し、法律のどのような規制を受ける可能性があるのかを正しく認識してサービスを開始する必要がある。

以後の事業展開に大きな影響が考えられる場合は、あらかじめ解決策を確実に実施する必要がある。事業展開に影響が軽微と考えられる問題は、開業準備とともに、解決することになろうが、真実軽微なのかどうかは、経験豊富な専門家の意見を聞くなどして、問題を軽視せずに進めることが肝要である。

5.今後の見通し

現在、金融庁では、金融審議会 金融制度スタディ・グループにおいて、為替(送金)、融資、決済、保険を対象に現在の業態別法規制から、同一業務に同一ルールを適用するとの基本的な方針の下、横断的法規制の検討が始まっている。

決済分野に限れば、プリペイドカードのような事前にプールした資金からの支払(前払い)、デビットカードのような預金口座からの支払(即時決済)、クレジットカードのような立替を経由しての後払いの異なった方式であっても、加盟店側からすると、電子的な方法で決済が完了し、決済機関から一定期間後に自銀行口座に入金されるという仕組みをほぼ同一のオペレーションで完了することから、決済前後のルールを統一することに違和感はないだろう。

しかし、決済機関と決済システム利用者との間には、異なる法律関係が存在する。これを共通化するには、特に利用者保護の厚いクレジットカード取引を見直す必要がある。その原因は、割賦販売法の規制にある。したがって、割賦販売法の消費者保護規制のない2カ月以内の後払い、(これは現行法上規制のないマンスリークリア方式のクレジットカードと同じであるが)を対象に、プリペイドカード、デビットカードと利用上のルールを共通化することが考えられよう。このような見直しに対し、利用者保護が実質的に後退するとの懸念が表明される可能性があるが、海外で国際ブランドが適用しているチャージバック制度を国内でも共通して導入するなど、商品の未納やサービスの未提供に対する利用者保護を図ることでほぼ解決するのではないかと考えられる。

なお、割賦販売法では平成28年の改正により、加盟店に対する立替金の引き渡しを担保するために設けられていた営業保証金制度が廃止された。割賦販売法においては、最低資本金制度が導入されており、登録制度の下に財務健全性が確保されているため、営業保証金制度は、すでに実質的な役目を終えていたから、問題はなかった。しかし、スマートフォン決済、ECモールでの決済、QRコードによる海外事業者の決済を仲介する決済代行業者が多数乱立しており、法規制が及ばない事業者も存在する。かつて、小規模であったが、決済代行会社が倒産し、加盟店は、カード会社から決済代行会社に支払われた立替金の資金の引き渡しを受けることができなかったことがある。当時と比較して、決済代行会社の種類や数は、大幅に増加しており、海外の決済機関と提携している決済代行会社も大幅に増加している。競争の激化や地政学リスク、不正利用などを原因として、経営が悪化することも考えられ、利用者保護とともに、加盟店保護も検討の俎上に上がる可能性がある。

カード決済&リテールサービスの強化書より

関連記事

ペイメントニュース最新情報

決済領域を起点に多様なビジネスニーズに応える各種ソリューションを提供(インフキュリオン)
ReD ShieldやSift等の不正検知サービスを提供し、お客様の不正対策を支援(スクデット)
「お金の流れを、もっと円(まる)く」決済ゲートウェイ事業のパイオニアとして、強固なシステムでキャッシュレス決済を次のステップへと推進します。(ネットスターズ)

国内最大級のクレジットカード情報データベース(アイティーナビ)

現金とキャッシュレスの売上をリアルタイムに確認可能なIoTプラットフォーム「IoT Cube」/Pay BOX(飛天ジャパン)

BtoCもBtoBも。クレジットカード決済を導入するならSBIグループのゼウスへ。豊富な実績と高セキュリティなシステムで貴社をサポートいたします。(ゼウス)
TOPPANの決済ソリューションをご紹介(TOPPANデジタル)
多様な業界のニーズに対応した、さまざまなキャッシュレス・決済関連サービスを提供する総合決済プロバイダー(DGフィナンシャルテクノロジー)
決済業務の完全自動化を実現する「Appian」とクレジット基幹プラットフォームを合わせてご紹介!(エクサ)

国内最大級の導入実績を誇る決済代行事業者(GMOペイメントゲートウェイ)

チャージバック保証、不正検知・認証システムなどクレジットカード不正対策ソリューションを提供(アクル)
電子マネー、クレジット、QRコード、共通ポイント、ハウスプリペイドなど、43サービスをご提供(トランザクション・メディア・ネットワークス)

非対面業界唯一!!カード会社とダイレクト接続により、安心・安全・スピーディーで質の高い決済インフラサービスを提供。Eコマースの健全な発展に貢献する決済代行事業者(ソニーペイメントサービス)

決済シーンにdelight(ワクワク感)を!PCI P2PE 認定国内実績 No.1の「確かな信頼」を提供します(ルミーズ)
stera terminalでお店のポイントがつけられる「VALUE GATE」(トリニティ)

Spayd スマートフォン、タブレットがクレジット決済端末に!(ネットムーブ)

DNPキャッシュレス 決済プラットフォームをご紹介(大日本印刷)

PAGE TOP