2019年6月17日8:00
「韓国IT EXPO in Japan 2019」が東京で開催
韓国のICT輸出3大重要地域(アメリカ、日本、中国)で海外IT支援センターを運営し、有望なICT企業のバイヤーマッチング、ネットワーク構築、投資誘致などのローカライズを支援するKOTRA(大韓貿易投資振興公社)が主催する「韓国IT EXPO in Japan 2019」が、2019年6月13日、東京・千代田区のホテルニューオータニで開催された。このセミナーに、韓国に本拠地を置き、グローバルな市場でICカードの製造・販売を手がけるKONAの日本事務所 カントリーマネージャーの笹井幸一郎氏が登壇。世界最高水準のキャッシュレス比率を実現している韓国の決済事情と、日本との相違、また、同社のキャッシュレス化への取り組みを紹介。会場の聴講者は笹井氏の言葉に熱心に耳を傾けた。
韓国の決済市場はキャッシュレス比率9割、うちクレカが8割
アジア通貨危機後にとった国の経済政策が奏功
KOTRA(大韓貿易投資振興公社)が主催する「韓国IT EXPO in Japan 2019」において、KONAインターナショナル 日本事務所 カントリーマネージャーの笹井幸一郎氏が、「キャッシュレス先進国 韓国のキャッシュレスの現況と今後」と題したセミナーに登壇した。KONAは韓国に本拠地を置き、アジアのみならず米国、ブラジル、ナイジェリアなど世界各地で事業を展開するフィンテック企業。韓国では仁川広域市および京畿道の地域電子マネーの導入支援・運用代行も行っている。
笹井氏はまず、韓国が世界に名だたるキャッシュレス大国になるに至った歴史について解説した。
1997年のアジア通貨危機の際、韓国は経済的に大きなダメージを受け、IMFの支援を受けることに。ここからの経済回復を狙って韓国政府がとった政策が、クレジットカードの普及促進だった。キャッシング限度額の廃止、所得控除制度の導入、賞金が当たる月1度の宝くじの実施といった思い切った施策によって、クレジットカードの利用が急速に拡大。結果、早くも2000年初頭には、現在の日本を大きく上回るキャッシュレス比率30%を達成。ところがこのクレジットカードバブルの反動で、債権焦げ付きが急増し、社会問題化。キャッシュレス比率は、一時、大きく低下してしまう。しかし2005年以降、政府は与信管理の厳格化とインフラ整備を推進。2017年には法改正を行い、異業種参入を促進して、市場を拡大。このような紆余曲折を経て、現在、韓国のキャッシュレス比率はほぼ9割、金額ベースで63兆円に至っている。そしてその8割を、クレジットカード決済が占めているのである。
国際規格EMVに準拠したKONA CARDプラットフォームが
韓国のキャッシュレス化推進に貢献
クレジットカードの中でも、韓国のキャッシュレスの要になっているのは国際ブランドカード。つまり、国際規格のEMVに準拠し、基本的に世界中どこでも使えるクレジットカードだ。
KONAが提供しているKONA CARDプラットフォームはEMVに準拠している。同社は、①KONAブランドの自社発行プリペイドカード、② ①をベースとした政府・企業へのペイメントプラットフォームの貸し出し、③ASPサービスの3パターンでサービスを提供。韓国のキャッシュレス化の推進に貢献している。
クレジットカードの決済には、①磁気ストライプ(擦る)、②ICチップ接触(挿し込む)、③ICチップ非接触(タッチ)、④スマホ非接触(タッチ)、⑤スマホQRコード(見せる)といった方式があるが、韓国で多いのは②の挿し込み方式。日本と異なり、韓国の決済端末にはPIN(暗証番号)入力装置が付いていない。カードを挿し込むだけ、もしくは、挿し込んで電子サインをすることで決済が完了する。
CVM(Cardholder Verification Method)、つまり本人確認の方法にはお国柄があると笹井氏は指摘した。日本で発行されたカードと、韓国で発行されたカードとではCVMの設定が異なる。そのため、日本で発行されたカードでは暗証番号を求められるところを、韓国で発行されたカードを日本で使うとサインを求められたりすることがある。これは、システムがカードと決済端末のCVM方法を照合して、最もセキュアな方法で本人確認を実施するために起きる動作であり、偽造カードなどのカードの不具合によるものではない場合がほとんどだという。
日本には、日本に合ったキャッシュレス施策が必要
官民一体となったキャッシュレス習慣化プログラムが求められる
転じて、日本のキャッシュレス比率は、いまだに20%弱。キャッシュレス決済をクレジットカード決済が牽引してきたことは韓国と同様だが、電子マネーが一定の比率を占めていることなどが、韓国の事情とは異なっている。
笹井氏は日本がキャッシュレス化を推進する上で必要なポイントを、3つ挙げた。
1つは、政府・地方自治体の主導による経済的なインセンティブ。地域内の消費に付与するポイント・割引や所得控除など。ただし一過性の施策とならないような工夫が必要だと付け加えた。2つ目は、習慣化の設計。官民一体となったプログラムが必要だと述べた。3つ目は、国際規格に準拠することによる、カードや端末の標準化。特殊なツールを開発・利用すると、コストアップになるばかりでなく、万一ツールの製造会社がつぶれたりした場合に、施策そのものが立ち行かなくなる恐れがある。
日本と韓国はキャッシュレスに関して歴史も事情も異なるものの、日本が韓国に学べることは少なくない。笹井氏は、KONAインターナショナルは、日本企業の要望をていねいに聞き、かつスピードを重視しながら、コンサルティングや要件定義のサポートをしていきたいと述べ、セミナーを締めくくった。