2025年3月21日8:00
東京都中野区が2024年11月にスタートしたデジタル地域通貨事業は、初年度は想定を上回る好発進となった。東京23区では初となる公募で決定した愛称は「ナカペイ」。プレミアム付デジタル地域通貨の抽選販売などの促進策が奏功し、2025年1月時点で、ダウンロード数は6万6,000、加盟店舗数は初年度の目標である1,000店舗を上回る1,250店舗となった。新年度は、区が賛同するSWC(スマートウエルネスシティ)の実現に寄与するコミュニティポイント付与などの機能を追加する予定だ。

同係長 和田英樹氏
手数料無料が奏功
3カ月で1,250店舗が加盟
中野区の加盟店で使えるナカペイは、区民、在勤者、在学者、来街者の誰でも利用することができる。プレミアム率30%のデジタル地域通貨の発行で、1セット5,000円で1,500円分のポイントを付与するキャンペーンを実施。アプリをダウンロードした全員に500円分のポイントが付与される。2024年8月から利用店舗の登録を開始し、9月下旬にスマートフォンアプリがリリースされた。10月にはプレミアム付デジタル地域通貨の抽選販売の申し込みを開始し、11月に決済サービスが開始された。
スマートフォンアプリをダウンロードし、対象の加盟店でMPM(店舗側のコードを買い物客のスマートフォンでスキャンして決済する)方式で決済する仕組みだ。開始から約5カ月の2025年3月末時点でダウンロード数は9万件以上、加盟店舗数は1,000店以上の目標を掲げ、加盟店数は11月時点で目標値を上回った。
加盟店の負担に関しては、初年度は初期費用、決済手数料、換金手数料はいずれも無料に設定している。区民部産業振興課長 国分雄樹氏は「商店街など、中小事業者の支援を目的の1つにしており、手数料無料はなるべく続けたいと考えています。2025年度以降、流通額が増え、商店街などで買い取ってイベントで利用していただけるような、魅力ある地域通貨になれることを期待しています」と話す。
区内還流とデータの活用を狙う
中野区を応援するナカペイに
中野区は、2023(令和5)年の経済対策で、「東京都新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金」と「地域産業デジタル化推進事業費補助金」を活用し、新しい日常における生活応援を図るとともに、区内商業のデジタル化の推進、地域経済の活性化を図ることを目的として、決済事業者のコード決済を区内の対象店舗で利用した場合にポイントが付与される事業を展開したが、利用が伸びなかったという。
ナカペイのプロジェクトリーダーを務める区民部 産業振興課 地域経済活性化係 若林泰一氏は「決済事業者のコード決済を活用した場合、区が付与したポイントが他の自治体に流れてしまうといった課題がありました。地域で還流させることができる地域通貨を活用する自治体が増えつつある中で、中野区でも、地域通貨の購買データと産業振興課が持っている人流データを掛け合わせるなど、データを裏付けとした区政課題の解決や政策を推進するためのツールとして、地域通貨を活用することを決めました」と話す。
「ナカペイ」は、2024年4月にプロポーザル形式で選定したJTBと、フェリカポケットマーケティングが提供しているシステムを採用している。若林氏は「地域通貨のミニアプリとしてコミュニティポイントを発行しやすいなど区の要望に沿った拡張性と、ユーザー目線で使いやすく、分かりやすいシステムであることなどのメリットを感じています。加盟店開拓はJTBと連携して目標を達成したほか、2回に分けたプレミアム付デジタル地域通貨の応募数も多数で、4億5,000万円分の還元原資を充てるだけの人数は確保でき、ここまでの成果は満足できるものです。3月までの短期間に18億円を区内経済に投入できたわけで、加盟店からも『ナカペイを使うお客様が多いです』との声が寄せられています」と手応えを口にする。
ダウンロード数の6万6,000の内訳は、8割は中野区民で、残り2割が在勤者、在学者、来街者。年齢別では40代、50代、30代、60代、20代の順。ナカペイに加盟してもらいたい魅力ある店舗についてアプリを使ってアンケートを取り、スーパーのライフなどの人気店や中野駅周辺の商店街の飲食店や居酒屋などを加盟店に加えた。区民部 産業振興課地域経済活性化 係長 和田英樹氏は「区民利用は想定より多かった印象で、今後は在勤者や在学者、来街者にも拡大したいです」と話す。区では、60代以上の利用を促進するため、購入サポート窓口を開き、QRコード決済を始めるきっかけづくりにもなったという。さらに、中野区は学生が多い街なので、若年層向けにも情報発信を強化する。
2025年度は通常利用が始まり、ナカペイの底力が試される。区の施設利用や各種手続きの支払いへの活用も検討するほか、各課でそれぞれの事業者と取り組んでいる区の給付事業を「ナカペイ」に一本化するなど利用を拡大することを検討している。またふるさと納税の返礼品としての活用も視野に入れている。
中野区は住民が健康で元気に幸せに暮らせる新しい都市モデル「スマートウエルネスシティ」構想の推進に参加しており、4月以降は、ウォーキングの歩数や介護予防イベント参加に応じたコミュニティポイント付与の機能を充実させる予定だ。また、スタンプラリー機能を搭載し、アニメ制作会社が区内に9社あるなどの地域の特徴を生かし、イベントなどにも活用したい考えだ。
国分氏は「地域通貨を購入することによって、地域を応援できるというメッセージを発信していきたいです。プレミアムなどのインセンティブがなくても、地元の商店街を応援したいという気持ちを込めて、ナカペイを使っていただければ幸いです」と意気込みを見せた。
「決済・金融・流通サービスの強化書2025」より