2015年5月18日8:30地域通貨の国内での展望
地域通貨には通常使われる現金とどのような違いがあるのだろうか? また、全国さまざまな地域で地域通貨が展開されているが、その現状は明るいものではないという声も多い。そこで、サービスの現状や成功への方向性について、野村総合研究所 ICT・メディア産業コンサルティング部 上級コンサルタント 冨田勝己氏に説明してもらった。
野村総合研究所 ICT・メディア産業コンサルティング部 上級コンサルタント 冨田 勝己
導入により期待される効果
① 地域通貨とは?
現時点において地域通貨の明確な定義は存在していないものの、法定通貨ではないが、(法定通貨と同程度の価値を保つ場合も含め)何らかの価値を有するものとして、特定の地域やコミュニティでの利用を目的として発行される貨幣が、地域通貨と呼ばれることが多い。なお、法定通貨ではないものとして「Suica」や「WAON」、「nanaco」といった電子マネーも挙げられるが、これらは利用できる地域が幅広いため、地域通貨には該当しない。
日本には600を超える地域通貨が存在しているが、その目的や運用形態はさまざまである。大別すると、地域通貨には2つの目的がある。1つは商店街の活性化などの、地域経済の活性化で、もう1つは街の清掃活動や介護支援など、特定の地域やコミュニティにおける非経済的な活動の活性化である。とはいえこれらは相反するものではなく、双方の目的を有している地域通貨も多数存在する。また、獲得方法についても種類があり、現金での購入のほか、ボランティア活動やエコ活動などの行為の対価として入手できるものなどがある。同様に、使用方法としては特定の事業者の商品購入やサービス利用に際して、その代金への充当や対価として用いることができる。
② 地域通貨の現状
地域通貨の現状は、決して明るいものではない。今でも新たな地域通貨が導入されている一方で、休止・廃止となっている地域通貨も多数存在している。
休止・廃止となった地域通貨の中には、もちろん清掃状況の改善やコミュニティの活性化など、目的を達成したことによるものもあるが、当初の目的達成に支障をきたした結果であるものも多い。そして後者においては、主に以下のような要因が複数存在している。
1. 年間獲得額が少ない
地域通貨も一種の通貨であり、そのメリットは実際に使用してはじめて体感できる。しかしその額が一定量を下回る場合には、使用する意欲が相対的に低下する。結果として「持っているけれども使わない」人(以降、休眠者)の割合が増えるなど、実質的な利用者の規模減少を招いてしまう。
2. 使用シーンが少ない
一定量以上の地域通貨を獲得できる環境下にあったとしても、利用者が進んで使いたくなるような用途が少ないと、地域通貨の使用が停滞し、中には失効に至ることもある。この場合も利用者は地域通貨のメリットを十分には見いだせなくなるため、実質的な利用者の規模減少を招いてしまう。
3. 有効利用者が少ない
休眠者を除いた実質的な利用者(以降、有効利用者)が少ないと、参加事業者や組織にとっては、定量的な導入効果があまり期待できなくなる。そのため参加を思いとどまる、あるいは参加を取りやめにする企業や組織の増加を招いてしまう。
4. 導入・運営コストが高い
地域通貨の導入・運営は決して安価ではない。発行残高の管理や参加事業者の新規開拓、有効利用者拡大のための各種イベント企画など、そこには一定数の人員を割く必要がある。また、認証・残高の管理等に磁気カードや非接触ICカードといった媒体を利用する場合には、情報システムの構築・運営のほか、カード媒体や読取端末媒体のコストなどが発生する。これらは参加事業者にとって多大なコスト負担となることも多く、期待される導入効果を超えてしまうと判断した事業者の不参加、あるいは参加取りやめを招く要因にもなる。
5. 参加事業者・組織が少ない
参加事業者や組織の数が少ないと、利用者が地域通貨を獲得できるシーンや、使用できるシーンの減少に直結する。
なお、これらの要因は相互に連関している。導入直後はいずれの要因も問題なく地域通貨の運営が軌道に乗っていたとしても、いずれかの要素が悪化し、他の要素へと波及し、最終的には休止・廃止へと至るケースも見られる。
③ 地域通貨の成功に向けた方向性
地域通貨の中には、提供者視点重視で企画され、利用者にとってのメリットを十分に提供できていないものも散見される。参加者は、多く獲得でき、さまざまな用途で便利に使えるほど、その地域通貨を自分にとって欠かせないものであると感じ、積極的に利用するようになる。参加事業者や用途のバリエーションを増やし、またより利便性の高い媒体を選択するといった工夫をすることが、地域通貨の成功には欠かせない。以降では、地域通貨を成功させていくための方策について述べる。
【参加事業者の拡大】
参加事業者や用途のバリエーションを増やすという観点では、当初の目的・趣旨に必ずしも沿わない事業者を巻き込むという選択肢も検討に値する。例えば環境保護を目的とした地域通貨で、環境保護に関するボランティア活動で貯められるものであったとしても、それをコンビニエンスストアなどの一般的な商業施設で使えるようにすることで、有効利用者の規模拡大、ひいては環境保護活動の規模拡大が期待できる。
【カード媒体の活用】
地域通貨の利便性を高める取り組みとしては、カード媒体によるバリュー管理方式が挙げられる。多くの地域通貨では紙幣を用いているが、近年ではカード媒体によるものも増えてきている。
カードは紙と比べてあまりかさばらない、(紙幣を何枚も取り出さずに済むので)利用時のオペレーションが比較的早い、といったメリットがあるため、参加者からも支持されやすい媒体である。ただし、カード発行費用と端末設置、システム運営費といった種々の追加コストを要する点が課題である。流通量が多くなると、それに比例して増刷しなければならない紙幣に比べ、カードの場合は、バリューの増発に伴うコストは比較的安価である。したがって、一定規模以上の流通量が予想される地域通貨の場合には、カード媒体を選択した方がコストを抑えられる可能性が高い。
また、近年ではタブレットを活用することで導入・運営コストを抑えられる決済やポイント管理のシステムも普及しつつある。これらを活用することによって、各事業者の参加を促進させることが期待される。
【ポイントサービスとの連携】
地域通貨の利用を促進させるべく、ポイントプログラムとの連携を行い、利用意識を高めようという取り組みも存在している。例えば東京都練馬区のニュー北町商店街振興組合では、商店街や地域ボランティア活動の謝礼として獲得でき、商店街の約40店舗で使用できる地域通貨「ガウ」を運営しているが、別途運営している商店街ポイントカード「かるがもカード」と連携させている。具体的には、規定量(400ポイント)貯めたポイントカードを500円相当の「ガウ」に交換できるようにしており、「ガウ」の利用促進をはかっている。
④ 今後の展望
地域通貨は地域経済やコミュニティの活性化を実現させるための手段である。その費用対効果を高めるべく、今後は従来の枠にとらわれない連携が必要になると考えられる。地域通貨の獲得~使用のすべてを目的に準じた範囲に限定するよりも、必要に応じて制限を取り払う方が、目的が達成されやすい可能性がある。
例えば環境貢献を目的とした地域通貨であれば、獲得自体は環境貢献活動に付随させるものの、使用については(レートが悪くなるものの)特定事業者以外でも利用できるようにするといった運用にすることで、有効利用者の規模拡大が期待できる。また、地域経済活性化を目的とした地域通貨であれば、当該店舗で使用した際に他社のポイントを貯められるようにすることで、地域通貨の利用促進、ひいては当該地域の経済活性化が期待される。
今後は、共通ポイント事業者や電子マネー事業者など、今までは地域通貨と直接の関係のなかった事業者を巻き込み、相互に役割を補完する関係を構築していくことが、地域通貨をより成功させていくための鍵になると言えよう。