スマホ活用のNFCタグ乗車で成果、今後は利用の都度モバイルSuicaで決済可能に

2022年7月27日8:00

JR東日本は、kmモビリティサービスの協力を得て、品川・田町~お台場エリアまで運行するお台場レインボーバスにおいて、利用者のスマートフォンによるNFCタグによるNFC乗車サービス実証実験を2021年9月16日から継続して行っている。2022年7月からは、東京都神津島村が運行する村営バスでもNFC乗車サービスをスタート。これまでの実験の成果と今後の展望について、JR東日本に話を聞いた。

左からJR東日本 マーケティング本部 戦略・プラットフォーム部門 決済・認証ユニット 課長 信田美貴子氏、同部 柴田聡氏、同部門 MaaSユニット 林田明子氏

記事のポイント!
①Suica導入がコスト面で課題のバス事業者に訴求
②お台場レインボーバスでは処理速度、品質面で成果
③アプリで使い方を分かりやすく説明
④東京都神津島村での運用スタート
⑤「Ringo Pass」使用の間口を広げる
⑥持続可能な運用に向けての課題とは?
⑦バスに限らないユースケースを検討へ
⑧「モバイルSuica」ネット決済、車載器なしでもSuica支払いが可能に
⑨JR東日本管内のエリアから導入を広げる
⑩「変革2027」での重要なインフラ目指す

NFC乗車の処理速度、品質面で成果
複数人乗車は想定以上の利用に

JR東日本では、20年以上にわたり交通系ICカード「Suica」を展開しているが、タッチするだけでスピーディに交通乗車できるUX(ユーザーエクスペリエンス)が受け入れられている。連携するJR各社を中心に全国で便利に利用できる一方で、バス事業者ではコスト的な面から導入が進まないところもある。JR東日本 マーケティング本部 戦略・プラットフォーム部門 決済・認証ユニット 柴田聡氏は「タッチのUXを広げていくため、NFCタグを検証してみようというのが発端でした」と説明する。NFCタグとは、ICチップを内蔵する媒体で、スマートフォンのNFCリーダーモードでNFCタグにタッチするだけでさまざまなサービスが利用可能だ。バス事業者側でも、交通系ICカードのリーダー端末の導入に比べて大幅に費用を抑えながら、省スペースで導入できる。

お台場レインボーバスでの乗車の様子。人数を選択しての利用も可能

JR東日本では、まず2020年3月2日にケイエム観光バス(現・株式会社kmモビリティサービス)の東雲車庫でUXを含めた技術検証を実施。その際は、3分で62名が乗車できるなどスピード面で成果を生んだ。それを踏まえ、2021年9月16日からお台場レインボーバスで実証実験を開始し、現在も運用を継続している。

利用者は、JR 東日本の MaaS アプリ「Ringo Pass」のバスのアイコンまたは地図上に表示されるバス停留所を選び、「タッチで乗車する」ボタンを押し、乗車人数を選択して、「タッチする」ボタンを押すとNFCリーダーモードが起動する。車内に設置されたNFCタグの「Ringo Pass」マークにスマホをタッチすることで、乗務員タブレットへ即座に利用が通知され、乗車できる仕組みだ。乗車金額は登録したクレジットカードから2週間に1回引き落とされる。

お台場レインボーバスは約半数の利用が現金だが、NFCタグによるタッチの利便性を訴求して利用を促している。柴田氏は「処理速度、品質的にも問題なく、一定数の安定したご利用をいただけています」と成果を述べる。Suica等の交通系ICカードではできなかった複数人乗車にも対応しており、当初の想定以上に利用があるという。

NFC乗車サービスでは、JR東日本が提案するNFCタグの共通のタッチマークとして「s-Touch(エスタッチ)」マークを作成し、アプリ内でも画像を出して案内するなど、ユーザビリティを意識した。「NFCの仕組みでは、スマホが画面点灯した状態になると自動的に読取りを開始してNFCタグを読み取ってアプリを起動する処理が行われますが、多くの方はスマホが画面点灯しているだけで読取りを行っていると思われず、使い方がうまく伝わりません。現時点ではまだ完全にアプリレスで運用するのは難しいとみています」(柴田氏)。そのため、アプリで使い方を分かりやすく説明することで、スムーズな利用を促している。

神津島村が運行する村営バスで利用開始
マイクロバスやワンボックスカーにNFCタグ設置

JR東日本では、2022年7月から、第2弾の導入として、東京都神津島村が運行する村営バスで「Ringo Pass」によるNFC 乗車サービスをスタートした。同サービスは、東京都神津島村とNTT東日本の「ICT を活用した地域活性化に向けた連携協定」(2022年4月1日締結)に基づいたキャッシュレス化の推進および島内交通整備の取り組みを受けて、JR 東日本が村営バスへNFC乗車サービスを提供するものだ。神津島村の村営バスは、マイクロバスやワンボックスカーを移動手段として利用している。観光シーズンには1日600~1,000人が利用することもあり、また、スキューバダイビングやトレッキングなどの観光が盛んなため、海水に濡れた小銭を受け渡されることも多い。そのため、水や塩分に弱い運賃箱などは設置しづらい。また、Suicaなどの交通系ICカードの導入はコスト面で課題があるが、低コストで設置や導入が可能なNFC乗車サービスを利用することとなった。

東京都神津島村のマイクロバスでNFCタグにタッチして乗車(JR東日本提供)

なお、「Ringo Pass」は、2022年4月からシェアサイクルの「HELLO CYCLING(ハローサイクリング)」でも利用できるようになっている。サービス認知に向けたキャンペーンも実施しており、NFC乗車サービス、タクシー乗車など利用シーンが広がることで、稼働も伸びている。現在、「Ringo Pass」は数万ダウンロードされているが、同部門 MaaSユニット 林田明子氏は利用シーンの間口は今後も広げていきたいと意気込む。

持続可能な運用に向けての課題は?
一回限りの利用者へのアプローチも重要に

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