2019年5月8日8:00
一口に、「カード決済」に使うペイメントカードといっても、世界中で使えるユニバーサル型、国内汎用型、自家発行型という利用範囲についての区分があり、決済の時期による前払い型、即時払い型、後払い型に分かれる。また、最近は、決済時点でカードの現物を必要とせず、カード情報を使用するカードレス型もある。本稿では、汎用型のペイメントカード(以下単に「カード」という)を中心に、決済を巡ってどのような国内法での規制が存在し、カード発行をはじめ、その取扱いに関連する当事者がどのような点に留意すべきかの概略を解説する。
現代ビジネス法研究所 代表 博士(法学) 吉元利行
1.ペイメントカード決済に関する法律の全体像
「カード決済」を「カード」を媒体とする決済ととらえれば、J-Debitカード、ブランドデビットカード、クレジットカードから、前払い式の電子マネーを含むプリペイドカード、決済にも利用できるポイントカードまで範囲は極めて広い。そのカードも、プラスチックカードが中心であるが、紙製の場合やカードを発行せずに、カード番号などの記号番号のみをスマートフォンのアプリやICチップにデータとして保存されている場合もある。
これらの決済手段を利用者の支出の時期と決済の種類ごとに分類し、適用される法律関係を示したのが次の(図表1)である。
なお、前払いには、プリペイドカード機能に、資金移動機能を加え、外貨でも決済ができるマネパカードのように、金融商品取引法の適用がある金融先物取引事業者の発行するカードがある。
2.カード決済に関する主要な法律の規制
(1)クレジットカード取引の規制対象
①登録
クレジットカード取引において、割賦販売法では、制定初期はクーポンやチケット、クレジットカードなど分割で後払い可能な証票を発行する会社をその規制の対象としていた。また、その規制対象は、二月以上の期間、かつ、3回払い以上の後払いを行う場合に限られてきた。
しかし、最新の改正を踏まえると割賦販売法の適用を受ける包括信用購入あっせんに関係する事業者の範囲、適用される後払い取引が(図表2)のように大幅に拡大している。
分割払いやリボルビング返済ができるクレジットカードを発行するためには、割賦販売法の規制対象となり、経済産業省に包括信用購入あっせんの登録の申請を行い、認められなければならない。2千万円以上の資本金、財務健全性、クレジットカード業務の公正かつ的確な実施を適切に履行するための十分な社内規則を定めることなどが要件となっており、法令遵守のための社内規則やマニュアル、個人情報保護の適切な管理体制、利用者の苦情処理、加盟店調査義務の履行体制などを備えておく必要がある。
後払いできるカード、もしくは、番号や記号等の情報を消費者に交付・提供しておき、その提示・通知等により、特定の販売店等から商品等を購入できるようにし、あらかじめ定められた時期に、その代金等に相当する額、または、一定の算式に基づいて算出された金額を受領する業務を行う場合には、従来は「包括信用購入あっせん」に該当する事業者のみが登録が必要であり、書面交付等の義務や民事ルールの適用の対象となっていた。規制の対象となるのは、後払いの方法が分割払いやリボルビング払いだけでなく、ボーナス一括、二括払い、二月を超える一回払いが割賦販売法の全面適用を受ける。また、二月以内の後払い(例えば、5日後の返済でも)は、「二月払購入あっせん」に該当し、「クレジットカード番号等取扱業者」と「クレジットカード等購入あっせん事業者」としての義務を履行しなければならない。カード等の券面を使用せず、顧客識別情報でEC取引の決済を行ったり、スマートフォンアプリに登録された情報を利用した決済を行う場合も同様である。
②業務規制
包括信用購入あっせん業者には、「カード交付時」、「取引時」、「請求時」に書面交付等の義務が課せられている。また、クーリングオフや支払い停止の抗弁権など民事ルールの適用があり、利用者の保護が図られている。さらに、カード取引の健全な発展と利用者保護のため、クレジットカード取引の安全性を高めるための体制整備や加盟店調査義務などが定められている。
次に、クレジットカード会社に加え、クレジットカード会社のために、加盟店契約を行う決済代行会社(PSP)業者は、「クレジットカード番号等取扱契約締結事業者」と新たに定義され、登録制の下でクレジットカード取引の安全性を高めるための体制整備や加盟店調査義務など取引の特性に合った義務が課されている。クレジットカードを利用した販売時に、現金販売価格等の法定事項の書面交付の義務のみを課されていた販売店等も、現在では、クレジットカード番号を適切に取り扱うべき義務その他不正利用防止のための義務付けが課されている。
③取引時の確認義務
包括信用購入あっせん業者は、自然人や法人に対して、クレジットカードを交付するに際して、犯罪収益移転防止法の規定により、本人特定事項の確認と取引時の確認項目を確認すること、その記録を保存することなどが義務付けられている。
自然人の場合、氏名・住所・生年月日を原則として運転免許証のような写真付きの公的証明書により確認し【現在は(図表3)記載のように確認方法が拡大された】、取引の目的、職業を書面等により確認する。法人の場合は、名称・本店や主たる事務所の所在地、事業内容を登記事項証明書などで確認し、来店された方の氏名・住居・生年月日等を上記と同様確認したうえ、委任状を徴求し、取引を行う目的と当該法人の議決権保有比率の合計が25%超等の個人の方の氏名・住居・生年月日を確認しなければならない。
④QRコード決済
なお、最近増加しているQRコード決済には、さまざまな形式があり、実質的にクレジットカードで後払いするスキームでは、当該事業者がクレジットカード等購入あっせん業者に、加盟店開拓と契約を担当する事業者は、クレジットカード番号等取扱契約締結事業者に該当することがある。また、あらかじめ登録された個人の情報に紐付けられたメールアドレスや記号・番号等の識別情報に基づいて、特定の取扱事業者から購入した商品やサービスの代金等をキャリア決済(電話料金とあわせて口座引落やカード決済による決済)やコンビニ収納などを利用して後払いをうける方式も、「二月払購入あっせん」として、「クレジットカード等購入あっせん」に該当し、加盟店契約を締結する事業者は、「クレジットカード番号等取扱契約締結事業者」に該当することがあるので、留意する必要がある。
(2)プリペイドカード・ 電子マネーの規制対象
①登録
前払方式のプリペイドカードは、カードなどの証票や電子機器など(以下「カード等」という)に記載(記録)された金額、もしくは数量等に応じた対価をあらかじめ受け取って、カード等を交付等して、商品やサービスの引渡しを受ける取引方法である。プリペイドカードを発行し、加盟店等で商品の購入やサービス代金の決済に利用できるようにするには、「前払式支払手段」として「資金決済に関する法律」に基づく金融庁への登録が必要である。このカード等には、商品券やカタログギフト券のような紙製、磁気ストライプのあるカード型、ICチップ付きのカードだけでなく、情報がサーバに登録され、ICチップやスマートフォン、従来型携帯電話などを使用する方式も該当する。なお、銀行は、銀行法第10条第2項のその他の付随業務として、プリペイドカードや電子マネーの発行に係る業務を実施することが認められている。
②供託等
前払式支払手段の発行事業者(第三者型)は、発行の対価として受け取った額のうち、基準日(毎年3月31日と9月30日)時点で未使用となっている額の半額を原則として供託する義務が課せられている。
一方、銀行などの金融機関が資金を預かる場合は、銀行法に基づく「預金の受入」として、預金保険機構に銀行等が保険料を支払い、銀行が破たんした場合は、1名あたり1,000万円までの預金の払戻しが保証されている。そして、預入期間に応じた利息の支払いがなされている。
しかし、前払式支払手段の発行事業者は、預かり未使用残高に対して、利息を付与することが禁じられている(出資法の「預かり金の禁止」)。したがって、利用額に対してポイントやキャッシュバックができても、未使用額に対しポイントなど利息類似のものを付与することは許されない。
なお、前払式支払手段の発行事業者は、未使用残高の二分の一を供託すると当該金額を自由に利用することも、担保に提供することもできない。そこで、前払式支払手段の発行事業者には、銀行等に手数料を支払って未使用残高相当額の支払いを保証してもらう、または、発行保証金を信託会社に信託して、破たんの場合の発行保証金の還付に備えるなど、資金を有効に活用する方法が認められている。
以上は、第三者型に関する規定であるが、自社、または自社グループ内での利用に限定するとき(自社型)は、カード等を発行し、基準日時点の未使用発行残高が1,000万円に満たない場合は、登録制度もなく、未使用額の供託の必要もない。しかし、基準日の未使用残高が1,000万円を超えれば、その二分の一を供託所に供託するなど、第三者型と同様の対応が必要となる。
③業務規制
前払式支払手段については、原則としてカード券面上に㋐発行者名㋑支払可能金額など㋒有効期限㋓ 問合せ先(住所、連絡先)㋔利用可能な場所㋕利用上の注意㋖残高およびその確認方法㋗約款、説明書などがある場合はその旨を記載する必要がある。しかし、㋓~㋗については、発行者は、資金決済業協会に委託して周知することが可能となっている。
ところで、前払式支払手段として、一旦前払いしたり、発行者の設けるアカウントに入金した後は、法律でその払戻は禁止されている点に注意が必要である。例外的に、当該前払い支払式支払手段の利用できない地域への転勤などのようなやむを得ない場合は払い戻しができるが、上限が定められている。また、発行者が発行の業務を廃止した場合や、第三者型発行者が登録を取り消された場合、残高が残っている場合は、所定の手続きで払い戻しが可能である。
このように払い戻しが制限されていることから、金融庁の登録を受けただけでは、前払いした資金を利用して、他人に送金して、他人がこれを引き出すことも認められない。また、銀行が行う場合を除き、自己の銀行口座に送金して資金を引き出すこともできない。これを行うためには、銀行免許を取得するか、100万円以内の資金移動が可能となる「資金移動業者」としての登録を行う必要がある。
(3)デビットカード取引の法律
銀行が発行するデビットカード取引は、国内、または国外でクレジットカードやプリペイドカードのように代金決済に使えるが、専用の法律はない。銀行が扱う預金業務の一環として、預金を引き出すキャッシュカードと同様と位置付けられている。ATMの代わりに、デビットカード用の端末機を操作し、契約者(預金者)の口座から、決済に必要な資金を引き出し、相手方の口座に即座に資金を振り替えていることになる。
銀行口座を開設する時点で、クレジットカードと同様に、反収法に基づく取引時確認を行わなければならない。
なお、銀行自身がインターネットバンキングやスマホアプリで口座残高情報を確認できたり、他の口座への振込・送金等が可能なサービスを行っているが、これを当該銀行以外の業者が行うには、「銀行代理店」として金融庁に登録が必要になる。ただし、㋐預金者の銀行口座から他の銀行口座への振込等の指図を預金者の代わりに銀行に対して伝達することおよび㋑預金者の銀行口座に係る残高や利用履歴等の情報を銀行から取得し、これを預金者に提供することについては、電子決済等代行業者(以下「電代業者」という)が登録により営むことができる。サービスを提供する前に、銀行との間で当該サービス提供に関して所定の事項を含む契約を締結することで営業が可能となる。㋐の事例として、「複数の振込先への銀行振込の依頼をワンクリックで行うことができるサービス」、㋑の事例として「預金口座の残高や利用履歴等の情報を銀行から取得・集計し、自動的に家計簿を作成するサービス」などが考えられる。
なお、クレジットカードや電子マネー(銀行プリペイドカードを除く)を利用する者に対してのみ、㋐㋑のようなサービスを提供する場合には、電代業者の登録は不要である。