2019年6月5日8:00
■PCI セキュリティスタンダードカウンシル
2020年に向けた日本での取り組み、日本語サイトへの対応を強 化
次に、2019年から年末にかけての取り組みについて紹介します 。まず、P2PEですが、現在バージョン3.0が準備されていま す。すでにRFCは行われていまして、皆様からご提示いただいた ご意見に基づき修正作業をしています。早ければ年内に3. 0が出る予定です。
それから「カード・プロダクション・アセッサー・プログラム(C ard Production Assessor Program)」 ですが、これはカードを製造したり、あるいはエンボス、エンコー ドをする事業者向けのPCI 基準(Card Production Physical Standard / Card Production Logical Standard)があり、毎年各ブランドが独自にレビューし評 価をしています。そのため事業者側に大きな負担がかかっています ので、PCI SSC が評価者を認定し、その人が1回レビューをすれば、その結 果を5ブランドで共有することで、事業者の負担を大幅に軽減でき ます。
次に「Contactless on commercial off-the-shelf (COTS)」ですが、例えばスマートフォンやタブレットなどで 行われる非接触決済はこれからさらに進展していく事業分野ですが 、この決済スキームのセキュリティ基準としてまとめ上げたもので す。これも年内にリリースすることを目標としています。
最後にPCI DSS4.0で、今年の後半にRFCが、POに向けて行われる予 定です。ドラフトをご覧いただき、皆様から意見をいただいて、 必要な修正を施して、早ければ来年中のリリースを目指していきた いです。
続きまして、日本において、2020年に向けてPCI SSC がどんな取り組みをしていくかを紹介させていただきます。
PCI SSC は2019年から2020年にかけて、日本のカード会社、 加盟店、サービスプロバイダが改正割販法あるいは実行計画の要件 の達成をしていくための支援をしてまいります。 具体的には特にPCI DSSに準拠されようとしている事業者を支援するために、それに 必要なトレーニング、審査員などリソースを増強してまいります。 また一方で、P2PE、PA-DSSというソリューションもでき るだけ増やし、選択肢を多くして、皆様に使いやすいものを選べる 柔軟性を持たせていきたいと考えております。
加盟店やサービスプロバイダから伺う声の中には、PCI をやりた いと思っているのだけどリソースが不足している、特に、「 QSAに連絡をしてもスケジュールがいっぱいです」という声を聞 くことがあります。ですので、このような課題に取り組んでまいり ます。
併せて、いろいろなチャネルを使ってPCI 関連のセキュリティ基 準に対する理解を向上、 改善していただくための活動もしてまいります。
次にPCI SSC が提供する人材育成プログラムについて紹介します。まず最 初に、インターナル・セキュリティ・アセッサー(ISA:企業内 部セキュリティ評価者)で、これは加盟店、サービスプロバイダ、 カード会社など、企業の内部のセキュリティ評価者となります。PCI SSC は、PCIDSSの準拠状況を自社で自ら評価できる人材を 育成し、その方々を認定しています。認定された方々はPCI SSC のサイトに登録されます。ISAは、PCI DSSの要件を理解し、一方で自社の状況、システム運用の状況を 理解していらっしゃる中で、必要な対応をとるための指揮をとって いただくことになります。同時に、 QSAのオンサイトレビューが入ったときに、いろいろな調整役を 果たしていただくわけですが、もう1つ、ISAはQSAの代わり にオンサイトレビューをすることが認められています。ですので、 現在、QSAのレビューを受けていらっしゃる方々も、できるだけ ISAを活用していただくことによって、結果的にコスト削減につ なげることもできると思います。PCI DSSの準拠を目指していらっしゃる企業には、やはりこういうスキルを持たれた方を最低1名は育成されるべきと考えております 。
次にPCIP (PCI Professional)という資格がございます。これは組織 内の人材育成という意味では、ISAのような内部監査を前提とし ているわけではなく、PCI の基準に精通した人材をより広く育成 するための制度であり、 海外などを見るとこのPCIPという資格は、むしろSAQ、自己 診断をご自身でやるときに、PCIPの方がリーダーシップを発揮 して取り組んでいるケースもあります。PCIPは、 オンサイトによる1日のトレーニング、あるいはオンライントレー ニングとテストを受けて資格を取得することも可能です。 合格者はPCI SSC のサイトにお名前が登録されます。2019年4月8日と9 日に東京で、ISAとQSAのオンサイトのトレーニングを開催し ます。受講料は一般の企業は3,100ドルですが、 POの方々は1,800ドルとなっております。ISA、QSAと もに事前にオンライントレーニングがございまして、それを受けて いただいた上で、2日間のオンサイトによるトレーニングを受けて いただくことになります。その上でテストを受けていただき、 合格すると、ISAの個人のお名前と会社名の2つが登録されます。資格の有効期限は1年 ですが、更新はオンラインのトレーニングで可能となっております 。日本の企業がISAやQSA、あるいはPCIPといった資格を 取得するときにネックになるのが、言語の問題ですが、日本で行う トレーニングはすべて日本語のサポートが付きます。講師の説明は 同時通訳が付きますし、テキストは日本語のものが提供されます。 テストも日本語で受けていただくことが可能です。ISAは昨年東 京でトレーニングを行った結果、40名強ぐらいの方々が新規にI SAになっていただき、その方々が今年更新するわけなのですが、 その更新のトレーニングもオンラインで日本語でできるようになり ます。
PCI SSC には日本語サイトがあります。URLの頭にJa.を付けて いただくといきなり日本語のサイトにアクセスできます。このサイ トをご覧いただくと、日本語のいろいろな教材ツールがアップされ ています。特に加盟店、中小の加盟店も含めて、今どんな事故が起 きているのか、どんな事案があるのか、それに対してどんな対応が 好ましいのかを、日本語で解説している資料、あるいはカード決済 や情報セキュリティでよく使われる用語解説集など、 すべて日本語で用意されておりますので、ぜひ一度お時間のあると きにご覧いただき、ダウンロードしてお役立ていただければと思い ます。
PCI DSSはペイメントセキュリティのベースライン
最後に、PCI SSC が主催するイベントをご紹介します。2019年はインドに 加え、ラテンアメリカ、北米、ヨーロッパ、アジア太平洋の各リー ジョン単位でイベントが予定されております。 アジア太平洋では昨年5月に、東京(恵比寿)で開催しましたが、 300名強の方にご参加いただきました。今年はオーストラリアの メルボルンで11月20日・21日の2日間をかけて開催いたしま す。POに参加されますと、2名まで無料で参加いただけますし、 併せてISA、PCIPのいろいろなトレーニングもセットで行っ ておりますので、 もし興味があればぜひ参加をご検討いただければと思います。
まとめとしまして、PCI SSC として考える今後の課題について、説明させていただきます 。PCI DSSは、今年で丸15年になりますが、日本においては、ようや くカード情報を取り扱う事業者の皆様の認知を得られるようになっ てきたと実感しております。これまで大変多くの方々にご協力やご 支援をいただいてきました。これは行政当局、経済産業省、あるい は業界団体の日本クレジット協会(JCA)、日本カード情報セキ ュリティ協議会(JCDSC)、あるいは国際ブランド、 メディア関連の方々、もちろん加盟店、サービスプロバイダ、 アクワイアラ、ベンダ、いろいろな方々のお取り組みを経てなんと かここまでこれたということで、 この場をお借りして深く御礼を申し上げたいと思います。ありがと うございます。
ただ、PCI DSSは、私の感覚で申し上げますと、登山に例えるとまだ5合目 ぐらいではないかなと思っています。特に、 多くの加盟店からすると、実行計画の中で求められているPCI DSSよりも、非保持化を目指しているケースが圧倒的に多いと聞 いています。その理由の1つは、PCI DSSは要件が多くてハードルが高いと、マイナスの印象を持って いらっしゃるからなのだろうと思います。
一方で、PCI DSSというのは、あくまでペイメントセキュリティのベースライ ンだと言われています。PCI DSSをやれば絶対に安全だということではなくて、常に新しいリ スクに備えるべきだということになっています。例えばPCI DSSの要件の中には、3カ月に1回、脆弱性テストを受けると規 定されています。また、カード情報にアクセスするパスワードは少 なくとも90日に1回は変更すると規定いています。 これらを行えば、絶対に安全であると誰にも断言できないわけです 。PCI DSSに対する考え方として、対応を求められる加盟店と、実際こ れを推進している側には、まだまだ大きなギャップがあると考えて います。
このギャップを埋めていく努力が必要です。加盟店にとってPCI DSSが、きちんと選択肢として位置付けられるようになっていく まで、理解を進めていく必要があるのだろうと考えています。
あらためて、PCI DSSとはいったい何なのだろうと考えてみたときに、カード情報 を安全に管理していく手段を突き詰めていくと、PCI DSSの要件に行き当たるものだと思います。ですので、カード情 報の安全な管理方法を考えていくと、自然とPCI DSSの要件が見えてきますので、PCI DSS準拠を目的化してしまうよりも、本質的に、自社にどんなリ スクがあって、何をすべきなのかという観点から入っていくと、P CIに対する理解が深まっていきます。ある意味、発想の転換のよ うなことが必要になってくるのではないかと思うのですが、 そのときにやはりカギになるのが、人材だと思っています。 組織の中で、そのような知見やマインドを持った人材を育成してい ただいて、組織の内側から変えていくことが必要だろうと考えてい ますので、PCI SSC としては次の5年、これを課題の1つとして、ぜひ取り組ん でまいりたいと思っております。
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※本内容は、2019年3月13日に開催された「ペイメントカー ド・セキュリティフォーラム2019」のPCI セキュリティスタ ンダードカウンシル(PCI SSC )日本アソシエイトダイレクター 井原 亮二氏の講演に加筆を加え、紹介しております。