AIエージェントが巻き起こすショッピングの大変革 消費者の決済体験を変える可能性を秘める

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2026年3月26日8:00

ユーザーに代わって目標を達成するために、自律的に考え、判断し、外部ツールの操作などの行動を実行するソフトウェアをAIエージェントという。ECやショッピングの分野では、「エージェンティック・コマース(Agentic Commerce)」による大きな変革が起こっている。検索によって「おすすめを表示する」段階から、AIが「判断・交渉・決済」までを完遂する段階へと進化している。

合同会社コンクリエ 小島清利

AIエージェントは実務をこなす「デジタル部下」

ChatGPTなどの生成AIが対話による課題解決に特化していたのに対し、AIエージェントは実行に重点を置いている。つまり、指示を待つだけではなく、目標を与えられると、それを達成するための計画を自分で作成する。例えば、「予算10万円で北海道旅行を計画してください」と頼むと、航空券の比較やホテルの選定、現地の予約までを一貫して行うことができる。AIは、単なる相談相手から、実務をこなす「デジタル部下」へと進化しているのだ。

Google とAlphabet CEO のスンダー・ピチャイ(Sundar Pichai)氏。Google の検索は現在、毎月20 億人以上のユーザーに利用されている。Google は1 年前の2024 年12 月にAPI で8.3兆トークンを処理していたが、1 年後には90 兆トークン以上を処理しており、前年比で11 倍以上の増加となった

AIエージェントはさまざまな分野で実用化が進んでいるが、ECやショッピングの領域では、AIエージェントを使ったソリューションを「エージェンティック・コマース」と呼ぶ。ショッピングの領域でAIエージェントが買い手側にもたらすメリットは、商品を探す手間が劇的に減り、AIエージェントがコンシェルジュのように機能することだ。

「月末のバーベキューに使うコンロを3万円の予算内で探して、来週金曜日までに自宅に届くように買ってください」と指示すると、AIエージェントが価格を比較し、在庫を確認したうえで、配送日時の調整や決済までの手続きを代行する。売り手の事業者側のAIエージェントとやり取りし、最適な価格を導き出すAIエージェント間交渉も始まっている。

一方、売り手である事業者側のメリットは、販売・運営の高度化だ。「接客」や「店舗運営」をAIエージェントに委託し、売上向上とコスト削減を図っている。例えば、Salesforceなどは、商品発見から購入完了までを会話で支援するAIエージェントを提供している。トレンドや需要、競合の状況をAIがリアルタイムで分析し、ダイナミックプライシングや在庫配置を自動で最適化する。このほか、顧客一人ひとりの好みだけでなく、場所、天気、現在の気分などを考慮した最適なプロモーションを自律的に生成・実行する。

さらにユーザーが検索エンジンを使わずAIエージェントに買い物を頼むようになるため、企業は「AIに見つけてもらいやすいデータ」を整備することが重要になっており、SEOからGEO(Generative Engine Optimization、生成AI最適化)への転換の動きも加速しそうだ。AIエージェントの普及により、ショッピングは「探して選ぶ」体験から「希望を伝えるだけで最適な結果が届く」体験へと進化している。

デジタルガレージグループ、
StripeなどがAIエージェント活用

すでに、AIエージェントを活用したビジネスは始まっている。GMOペイメントゲートウェイ(GMO-PG)は、国内の決済サービスプロバイダ(PSP)として初めて、連結会社のGMOイプシロンが提供するスタートアップが成功するためのオンライン決済インフラ「fincode(フィンコード) byGMO」を、「MCP(Model Context Protocol)」に対応したと発表した。また、GMO-PGとGMO-EPは、2025年6月25日から「fincode(フィンコード) byGMO」と、Allganize Japanが提供する生成AI・LLMアプリプラットフォーム「Alli LLM App Market」の自社専用のAIエージェントをノーコードで作成できるツール「Agent Builder」との連携を行っている。

デジタルガレージと、デジタルガレージ子会社のDGビジネステクノロジー(DGBT)は、ハイブリッド型AIパッケージ「DG AI Drive」の新たなラインナップとして、決済まで連携するAI検索最適化サービスの提供を開始している。「DG AI Drive」は、マーケティング業務の効率化と高度化を実現する、ハイブリッド型、オールインワン型のAIパッケージだ。すでに2025年8月に第一弾としてAIによる「広告運用自動化ソリューション」および、AI×クリエイターによる「ビジュアル制作サービス」をローンチしている。今回のGEO支援をはじめ、今後さまざまなAIソリューションを統合的に提供し、事業者のマーケティングDXを多角的に支援するプラットフォームとして、対応領域を拡大していく構想だ。

Stripe は、企業が複数のAIエージェントを通じて販売を開始することができる新しいソリューション「Agentic Commerce Suite」を展開している。このソリューションにより、Coach、Kate Spadeなどの企業や、Squarespace、Wix、Etsyなどのeコマースプラットフォームは、エージェンティック・コマースにおける新しいパラダイムでの収益機会を活かすことが可能になるという。

また、2026 年に最も注目されたのはGoogleの動きだ。Googleは、2026年1月11日~13日まで、米国ニューヨークのジャビッツ・センター(Javits Center)で開催された全米小売業協会(NRF)主催の小売業界向けイベント「NRF 2026: Retail’s Big Show(NRF)」で、エージェントコマースのための新しいプロトコル「Universal Commerce Protocol(UCP)」について発表した。UCPの機能は、商品の発見から購入、購入後のサポートまで、ショッピング ジャーニー全体で機能する。また、既存の業界プロトコルと互換性があり、さまざまな業界分野で利用できるように設計されているそうだ。UCPとの統合により、Google 検索の AI モードと Gemini の対象となる商品リスティングに購入手続きボタンを実装可能だ。

決済革命が進行中、Visa、
MastercardがAIエージェント導入

決済の分野でもAIエージェントによる大革命が始まっている。国際ブランドのクレジットカードでは、VisaやMastercardなどの決済基盤がAIエージェントによる決済に対応し始めている。VisaとMastercardは、AIを活用したショッピングアシスタントをそれぞれの決済ネットワークに接続できる新しいツールを展開している。

Visaは2025年4月、AIプラットフォーム向けの商用パートナープログラム「Intelligent Commerce」をスタートした。このプログラムは、運用者に対し、本人確認や支出管理などの決済機能をAIエージェントに統合するためのAPIやツールへアクセスできるようにするものだ。

AIを活用したエージェントの利用により、消費者は食料品の注文や衣料品の購入などの日常的なタスクをAIに任せることができるようになり、支払い方法とタイミングに関するルールは自身で設定できるようになるという。

Mastercardは2025年4月、AIエージェントがユーザーに代わって購入を完了できるようにする独自のプログラム「Agent Pay」をリリースした。「Agent Pay」は非接触型決済、カードオンファイル、トークン化を含む既存の決済インフラを基盤として構築した。特に会話型AIプラットフォームへの統合を目的として設計した。

ある女性が誕生日パーティーを計画している場合、自分のスタイル、会場の雰囲気、天気予報に基づいて、地元のブティックやオンライン小売事業者から衣装やアクセサリーのセレクションをAIエージェントとチャットすることで、提案してくれる。彼女の好みやフィードバックに基づいて、AIエージェントが購入し、「Mastercard One Credential」などの最適な支払い方法を推奨できる。

AIエージェント市場拡大も、
データの信頼性の向上が課題に

VisaとMastercardの決済分野の革命の背景には、AIエージェントの利用を検討している事業者が増えていることがある。SalesforceがCIOを対象にした調査によると、AIの導入率は前年比282%と急増している。しかし、同じ調査の中では、多くの経営者が自律型AIエージェントをメーンにした戦略への移行に躊躇していることも明らかになった。その理由としては、自律的な行動をとることによるリスクがあり、データへの信頼性が十分ではないことを懸念する事業者は多い。

一方、独立系ITコンサルティング・調査会社のアイ・ティ・アール(ITR)の予測によると、国内のAIエージェント基盤市場は、2024年度の売上金額が1億6,000万円となり前年度の8倍に急拡大し、2025年度も同等の伸びを維持すると見られている。AIエージェント基盤とは、生成AIモデルを利用して自律的な計画立案や外部ツール連携、タスク管理といった機能を持つ「AIエージェント」を開発・実行・管理するための法人向け環境を指す。2024年後半からAIエージェント製品・サービスの提供が始まり、2025年度も市場参入ベンダーが増加したことで、市場の認知度が急速に高まっている。

企業におけるAIエージェント基盤の導入は初期段階にあり、多くの企業では試験的な利用にとどまっているが、生成AIの進化も手伝い、より複雑で広範な業務プロセスの自動化を実現する手段として期待が高まっている。このため、今後さらなる導入拡大が見込まれ、2024~2029年度までの年間平均成長率(CAGR)は142.8%に達し、2029年度には市場規模が135億円に達すると、ITRは予測している。

しかし、AIエージェントへの信頼感が十分でないことは、市場の拡大に伴い大きな懸念材料になる。AI出力の正確性と公平性が担保されるのかどうかや悪用へのリスクを懸念する声がある。また、AIエージェントに関する消費者感情も二分されている。Salesforceが2025年3月に発表した「Connected Shoppers Report」によると、消費者の65%が、自身が決めた価格に達したらAIを使用して商品を購入することに関心がある一方、「レコメンドされた商品をAIエージェントが自分に代わって購入することに抵抗がない」と答えたのは47%で半数を下回った。今後、AIエージェントが普及するに伴い、ガバナンスやデータの整合性、利用者からの強力な信頼の醸成が重要になりそうだ。

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