2011年10月4日8:24
米国でEMVチップの導入を高める対策を発表
ICカード化の推進でPCI DSSの審査が免除に
ビザ・ワールドワイド(Visa)は、古くからペイメントカードの安全性を高めるため、「PCI DSS」や「ビザ・アドバンスド・オーソリゼーション(VAA)」などの情報セキュリティ対策、「VISA認証サービス」、「EMV」などの本人認証強化に力を入れてきた。Visaの国内外でのセキュリティ対策の最新動向について話を聞いた。
米国でもライアビリティシフトを適用へ
2015年10月からは偽造被害の損失をアクワイアラが負担
ビザ・ワールドワイド(Visa)は、米国時間の2011年8月9日、接触型および非接触型EMV (Europay、MasterCard、Visa)チップの導入を米国内で促進させる計画を発表した。
Visaでは、2012年10月1日から、Visa取引の75%以上をICカード決済端末で処理している加盟店においては、その年度についてPCI DSSの審査が不要となる「テクノロジー・イノベーション・プログラム(TIP)」を米国内に展開する。また、加盟店でICカード決済が行われた際、取引に含まれる認証データの保有・処理をサービスプロバイダが行うように求めていく。そして、米国内外の偽造カードが米国店頭のPOS端末で使用された場合の取引についてのライアビリティシフト(偽造カードによる不正利用の際の被害額の責任がICカード未対応のイシュアまたはアクワイアラから移行すること)を、2015年10月1日から施行する予定だ。ガソリンスタンドの加盟店に関しては、セルフの給油機における取引についてのライアビリティシフトは、2 年後の2017年10月1日から適用する。
「ICカード取引が増えれば、偽造カードなど、不正利用のリスクを減らす効果があります。今回、クロスボーダのライアビリティシフト、米国内のライアビリティシフトの具体的な期限が定められました。ヨーロッパのようにICカード化を普及させ、偽造被害を減らすためにはこの考えが適用されることは重要です」(ビザ・ワールドワイド・ジャパン リスクマネジメント/カントリーリスクダイレクター 井原亮二氏)
現在、米国のPOS端末での偽造カードによる不正のライアビリティの大半は、イシュアが負担しているが、2015年10月1日以降は、ICカード端末を導入していない加盟店で接触ICカードが使用された場合、偽造カードによる不正のライアビリティがその加盟店と契約しているアクワイアラに課されることになる。
年75%のICカード取引で年1度のPCI DSS審査が免除
国内でも全加盟店の接触IC決済対応を目指す
VisaではICカード化を促進する制度としてTIPが重要な役割を持つと考えている。米国では、レベル1、レベル2加盟店の96%が「AIS(Account Information Security)」に準拠を果たしている。PCI DSSは準拠後の維持審査にかかるコストも課題となっているが、Visaではレベル1、レベル2加盟店に対し、年1回のオンサイトレビューを義務付けている。その審査が年間75%以上のIC取引が行われている加盟店は免除される。
TIPは、米国以外の国では2月から先行して進んでいるが、PCI DSSの準拠が進んでいる米国の加盟店にとっては、「審査のコストを削減できるなどプラスになるため、加盟店端末のIC化が加速すると期待しています」と井原氏は説明する。なお、米国ではデビットカードの手数料に関する議論が行われていたため、TIPのリリースが他国より遅れていた。
今回のリリースが国内にどのような影響を及ぼすのかは、「予断を持って判断するのは難しい」と井原氏は話す。しかし、先行してICカード化・加盟店端末のICカード対応を行ったSEPA(Single Euro Payment Area)では2008年からICカード化の取り組みを開始し、2010年12月に全加盟店での導入を完了した。それに応じてリアルにおけるカード取引の不正被害も著しく減少したという。
「そもそもペイメントカードの偽造被害は組織的な犯罪になりますが、例えば、米国でその被害が減少した際に、次のターゲットが日本にならないようにIC化を進めていかなければなりません」(井原氏)
Visaでは、大手の加盟店がICカード化を視野に入れたインフラ整備をしてもらえるように取り組み、他のブランドも足並みを揃えられるように働きかける方針だ。
「国内加盟店でのICカード化は、一時に比べて熱が冷めているように誤解されているかもしれませんが、日本も含めすべての加盟店でIC化が行われるものだと考えています。今回の発表がそのきっかけになればと思います」(ビザ・ワールドワイド・ジャパン 新技術推進部 ヘッド 有田誠氏)
EMV推進で非接触決済も拡大へ
AISのレベル3加盟店から情報流出が続く
今回のEMV推進の背景には、Visaの非接触決済の商品を展開する目的もある。デュアルインターフェースチップ技術の普及により、NFC(Near Field Communication)ベースのモバイル決済の到来に向けた米国内の決済インフラの整備が進むことになる。
「弊社では非接触決済の商品として『Visa PayWave』を展開していますが、次世代のサービスである『デジタルウォレット』はリアルとバーチャルの双方で取引が可能です。また、AT&TやT-Mobile、Verizonの3社が立ち上げたISISに参加していますが、リアル決済はVisa PayWaveを利用するというリリースを8月に行いました」(有田氏)
Visaでは、オンライン上のセキュリティ強化にも古くから力を入れている。最近では、大手の決済代行事業者と共同で、カード情報漏えい防止や本人認証手段の導入をいかに普及させていくのかという課題について議論している。特に国内ではAISのレベル3(100万件以下のカード取引)加盟店からの情報流出事故が後を絶たない。そういった中小規模の加盟店に対する情報セキュリティ強化の啓発は、業界としての喫緊の課題である。
PCI DSSなどの情報セキュリティ対策については、業界団体レベルで推進が行われているが、Visaでもアクワイアラとともに引き続き啓蒙を行っている。
「当初は、PCI DSSというとVisaが推進しているというイメージでしたが、アクワイアラをはじめ、周りが組織的に動いていただけるようになったと感じています」と井原氏は話す。加盟店やサービスプロバイダからも「PCI DSSとは何か?」というような質問ではなく、具体的な準拠に向けての問い合わせが寄せられるようになってきた。