2021年3月11日8:00
決済手段のラインナップを広げ新規顧客層獲得を狙う
百貨店業界でいち早く2019年10月にタッチ決済を導入した京王百貨店では、2020年12月22日に4ブランド目となるアメリカン・エキスプレスのタッチ決済を導入。QRコード決済に関しては2021年1月7日に国内5種を追加し、これまで取り扱っていた中華系2種と合わせて7種にラインナップを広げた。同社の中心顧客層は50代以上であるが、タッチ決済、QRコード決済の利用は若年層に多く、決済手段の拡充が新規顧客層の獲得につながるものと期待されている。同社のキャッシュレス決済比率はクレジットカードや友の会カード、ギフトカードなどを含め6割程度ともともと高い水準にあるが、この比率がますます高まる可能性も高い。
いち早くタッチ決済、QRコード決済を導入
利便性を高め、幅広い層の来店を目指す
京王百貨店ではPCI DSSに準拠するため、2019年10月1日、POSシステムを全面刷新した。これを機に、大手百貨店としては日本で初めて、タッチ決済の対応を開始した。タッチ決済は1万円未満の支払いにおいて、PIN入力やサイン不要で、カードを端末にかざすだけでスピーディに支払いを完了できる。導入はVisaのタッチ決済とMastercardコンタクトレスに始まり、JCBコンタクトレスにも対応。2020年12月22日には4ブランド目となるアメックスのタッチ決済を導入した。
同社は近年急速に普及が進むQRコード決済にもいち早く対応してきた。インバウンド需要を取り込むために対応を開始したAlipay、WeChat Payの中華系2種に加え、2021年1月7日からは楽天ペイ、メルペイ、LINE Pay、au PAY、PayPayの国内5種のQRコード決済の取り扱いを開始した。
小売りの伝統的業態である百貨店は、キャッシュレス決済の先駆者でもあった。お得意様向けのお帳場カードをはじめ、掛け売りは百貨店のコアを成すサービスの1つだ。この流れでハウスクレジットカードや友の会組織が生まれ、優良顧客の囲い込みに功を奏している。結果、京王百貨店においても、ハウスカードである京王パスポートカードや、ギフトカード等も含め、店頭でのキャッシュレス決済比率は約6割に上る。
しかし同社はこの現状に満足していない。「従来からのやり方を守っていくだけではいずれ限界がくるという危機感を、常に持っています。ハウスカードにポイント付与などの魅力的なインセンティブを付けてお得意様を囲い込む一方で、広くあまねく門戸を開いて新規顧客を獲得していかなければならないと考えています」(京王百貨店 営業政策部 部長 新木敏明氏)
同社の中心顧客層は50~60代の女性で、70~80代も多いが、タッチ決済やQRコード決済の利用者は若年層に多い。決済手段の拡充には、若年層を顧客として取り込む狙いがある。
決済端末は3面待ち、面前決済に対応
タッチ決済は食品フロア中心に利用が進む
ハウスカードである京王パスポートカードには、Visa、JCB、DCとの提携カードがあり、総発行枚数は約40万枚。現状ではこのうちの大半が、三井住友カードがイシュアとなっているVisa提携カード。5年ごとのカード更新のタイミングでVisaタッチ決済機能が搭載され、現時点でほとんどのカードにタッチ決済機能が付加されている。
店舗で導入する決済端末「iRITSpay決済ターミナル(VEGA3000M2)」(アイティフォー)は、タッチ決済も含め、さまざまなブランドやインターフェースに対応可能な3面待ちに対応。顧客が使いたい手段を事前に伝える手間を省いている。また、持ち運んで顧客の面前で決済も可能だ。タッチ決済と、Suica、PASMOなど交通系電子マネーを含めた非接触決済の平均決済単価は1,000円前後。特に食品フロアでの利用が多い。
2021年1月7日から取り扱いを開始したQRコード決済の平均決済単価は2,000円前後。東京都多摩市が1月31日までau PAYでの支払いで決済額の最大30%相当のポイントを付与する「キャッシュレスでGO!GO!多摩」キャンペーンを実施していたため、同市に立地する聖蹟桜ヶ丘店での利用が促進されたこともあり、初動についてはかなり良い感触が得られた。
高価格帯については依然クレジットカードの利用が多いが、低価格帯の商品については、今後タッチ決済やQRコード決済が主流になっていくのではないかと同社は見ている。「タッチ決済やQRコード決済が一般的な決済手段になるまでは、まだ数年かかるかもしれませんが、ブレイクするタイミングが必ずくる。そのときに先んじて、対応体制を整えておくことが重要です。新しいキャッシュレス決済手段は若年層から浸透していく傾向にありますが、私どもの中心顧客層である年配の方々にこそ実は利用のメリットが大きいのではないかとも思っています」(新木氏)。多様なニーズに応えられるよう、今後も決済手段の幅を広げていきたい考えだ。
※冊子「カード決済&リテールサービスの強化書2021」より