2026年3月30日8:00
スマートフォンで重要な役割を果たす基本ソフト(OS)やアプリ販売ストア、ブラウザなどの領域の競争を促す「スマホ法」が全面施行され、ペイメント業界でもスマホを舞台に新たな競争が生まれている。そのひとつが「アプリ外課金」だ。アプリ内ではなく外部ウェブサイトで決済を行う仕組みで、アプリ内で商品を選んだ後、公式決済ページへリンクアウトし、アカウント連携でスムーズに購入できる。事業者側は手数料を抑えつつ多様な決済手段を提供できる一方で、ユーザー側もサービスの選択の幅が広がるメリットがある。
合同会社コンクリエ 小島清利
スマホ法はアプリビジネス全体の
活性化につながる可能性
スマホ法とは、「スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する法律」の略称で、2025年12月18日に全面施行された。AppleやGoogleなどの大手事業者が寡占しているOSやアプリストア、ブラウザ、検索エンジンといった領域で公正な競争を促し、消費者がより自由にサービスを選択できる環境を作ることを目的とするとともに、大手事業者に囲い込みなどの特定の行為を禁止する義務を課している。
多くのユーザーがいるスマートフォンは、今や経済活動の基盤となっているが、公正取引委員会は、モバイルOS、アプリストア、ブラウザ、検索エンジンといった特定ソフトウェアについて、「特定少数の有力な事業者による寡占状態にある」と指摘した。従来の独占禁止法による対応では、立証するのに長い時間がかかるほか、市場機能による自発的な是正も困難であるとし、欧州の「デジタル市場法(DMA)」などを参考にして、スマホ法を成立させた。
スマホ法は、スマートフォン用アプリを配信する多くのアプリ提供事業者にも影響を与える法律だ。これによって、App StoreとGoogle Playストアのルールが大きく変更されている。デベロッパー規約、アプリ審査ガイドラインがスマホ法に適合するため変更され、アプリ内課金以外の決済手段を用いたり、アプリ事業者が自社ウェブサイトに誘導してアイテムを購入させたりすることができるようになっている。
また、AppleとGoogle以外のサードパーティが運営するアプリストアが実現可能になる。第三者アプリストアにおいてアプリを配信する場合、AppleやGoogleによるアプリ審査ガイドラインの多くが適用されなくなるので、現在の審査ガイドラインでは認められていないアプリ配信が実現できる可能性がある。そして、自らアプリストアを開設することができるようになる。DMAによって、すでにアプリストアの開放が認められた欧州においては、サードパーティアプリストアの参入の動きが加速している。
デジタルガレージ「アプリペイ」でリンクアウト機能提供
DMAは「コアプラットフォームサービス」と呼ばれるオンラインデジタルサービスを提供する大規模プラットフォームを「ゲートキーパー」として指定し、一定の禁止行為や遵守行為を義務づける。「コアプラットフォームサービス」は、スマホ法の規律対象である「特定ソフトウェア」よりも広範だ。DMAがオンライン仲介サービスやソーシャルネットワークなど、スマホに限らず広くオンラインサービスを対象としているのに対し、スマホ法はあくまでスマホ利用に必要となる特定ソフトウェアに対象を限定している。
このため、日本のスマホ法がもたらす変化をビジネスチャンスに変えようという動きは、スマホを舞台に展開が始まっている。火ぶたが切られたのは、スマホアプリ決済サービスを展開する事業者の新サービス「アプリ外課金」だ。
ゲーム、漫画、画像、テキスト、音楽や動画などのデジタルコンテンツは、これまでWebサイトでの購入が主流だったが、現在ではアプリでの提供が中心となってきている。そして、スマホ法の施行に伴い、アプリにおける外部課金の連携ができるようになったため、アプリから外部の決済ウェブサイトへ繋いで決済処理をする課金方式である「アプリ外課金」が注目されている。
従来のアプリ内課金では、スマートフォンアプリ内で決済が行われ、一般的に15~30%の手数料がかかるとされていた。これに対し、アプリ外課金では、事業者が独自に用意したウェブサイトで自由な決済システムを導入できるため、従来の15〜30%の手数料の削減や収益向上が期待できる。
デジタルガレージ(DG)は、同社が2023年より提供しているアプリ外課金プラットフォーム「アプリペイ」において、スマホ法の全面施行を受け、指定事業者のガイドラインに基づくアプリ内からの「リンクアウト機能」の提供を開始した。スマホ法全面施行に伴い指定事業者のガイドラインが変更されたことに対応し、アプリ内からユーザーを直接「アプリペイ」が提供する公式決済ページへ遷移させる機能だ。ユーザーが利用中のアプリアカウント(ユーザーID)と「アプリペイ」のシステムが連携することで、リンクアウト後もユーザーIDを引き継ぎ、スムーズな購入体験を実現する。

出典:デジタルガレージのWeb サイト
ユーザーはアプリ内で購入商品を選択した状態のまま、利用中のアプリアカウントのユーザーIDと連携した「アプリペイ」のアイテム支払画面へ直接遷移できるため、購入体験を分断することなく、スムーズに決済を完了することができる。事業者は追加費用なく同機能を利用できる。「アプリペイ」において各アプリの決済履歴レポートは管理画面からダウンロード可能であり、リンクアウト運用において指定事業者等への提出が求められる取引レポートについても、条件に応じて作成・取得可能だという。
ゼウスやGMO TECH も、「アプリ外課金」で決済手数料下げ
クレジットカードをはじめとする決済サービスを提供するゼウスは、ゲームアプリやマンガアプリ、音楽や動画など定額課金アプリ向けの決済「アプリ外課金」の受付を開始している。なお、2025年12月18日~2026年6月18日の期間中に「アプリ外課金」のクレジットカード決済を申し込んだ事業者について、初期費用・月額費用・売上処理料0円、決済手数料3.5%のみのキャンペーン価格にて提供する取り組みを実施している。
スマホ法施行に対応し、「ゲーム」「マンガ」「サブスク音楽・動画」「予約」などのアプリを提供する事業者に、デジタルコンテンツ向け決済「アプリ外課金」を提供する。ゼウスとのAPI連携により、事業者は「アプリ外課金」を行えるので、ユーザーがウェブサイトで購入したアイテムは即座にアプリ内へ反映させることが可能だ。
GMO TECHは、2024年11月27日から、新サービス「GMO アプリ外課金」の提供を開始している。「GMO アプリ外課金」は、これまでのスマートフォンアプリ内での決済と異なり、ゲーム内アイテムの購入といった課金を外部のウェブサイトで行う決済方式だ。決済手数料を大幅に削減し、アプリ事業者の収益向上をサポートする。また、アプリユーザーは、アプリ内課金より低価格でゲーム内アイテムを購入できたり、アプリ内課金と同額で多くボーナスをもらえたりと、お得な課金環境が提供されやすくなるという。「GMO アプリ外課金」においては、一般的に約30%かかると言われている決済手数料を最低5%に抑えることができるとした。
また、アプリユーザーは、アプリ内に限定されない決済方法を利用できるため、クレジットカードなど多様な決済手段を選択できる。これにより、より割安にアイテムやポイントを購入できるメリットがあるという。GMO TECHは、「GMO アプリ外課金」の提供に加え、国内外3,000件以上の実績を持つスマートフォンアプリ向けアフィリエイト広告配信サービス「GMO SmaAD」との連携によって、アプリ事業者への集客サポートも行う。
ネットスターズは、2026年1月、新たな子会社であるStarPay-Entertainmentを設立し、エンターテインメント向けオンライン決済サービスおよびゲームプラットフォームの運営・パブリッシングに関する事業を開始する。LINEミニゲームなどの支援も行う。S8 Plus(エスエイトプラス)は、決済代行サービスを展開するSP.LINKS(旧ソニーペイメントサービス)とゲーム総合情報サイトを運営するゲームエイトの合弁会社として2025年に誕生した。ゲームパブリッシャー向けにアプリ外決済サイトの構築・運営を支援するとともに、エンドユーザー向けにはゲーム攻略プラットフォーム「Game8」の中でゲーム内アイテムを購入できるようにする。

出典:S8 Plus のWeb サイト
決済代行事業者のサービスと実質手数料を天秤にかけ、コスパを図る
日本では、スマホ法の全面施行によって、アプリ課金の市場は、大きな転換期を迎えている。スマホ法がアプリ外決済を解禁したことによって、決済手段や手数料の自由度が高まった。しかし、規制緩和が進む一方で、アプリ事業者にとっては、新たな課題が生じている。そのひとつが、実質的な手数料負担だ。
事業者が自社でアプリ外決済のシステムを整備しようとすると、決済管理、税対応、セキュリティ対策、カスタマーサポートの構築が必要となり、開発・運用リソースが圧迫される可能性もある。このため、既存の決済インフラを利用し、開発・運用コストを抑えながら、ユーザーに安心で便利な決済環境を提供するには、決済代行会社へ依頼する方法を検討するケースが多い。
ただ、プラットフォーム外決済を導入しても、Appleなどへの手数料に加えて、決済代行会社への手数料が発生するため、利益率の改善幅が限定的になる場合がある。決済代行会社が提供するサービスと、それにかかるコストを天秤にかけ、自社に最適なソリューションを選択する必要がある。
さらに、小中高生の課金の高額化など消費者保護の観点からも課題がある。20歳未満のオンラインゲームに関する相談件数は年々増加しているほか、1件あたりの平均契約購入金額も高額化している。トラブルの低年齢化が問題になっており、親の端末を貸した際に、登録済みのクレジットカードで決済されたなどのケースが目立つ。返金対応や課金制限の設定などの適切な管理が求められている。
不正利用などのセキュリティ問題をクリアするために考えるべきことは
また、セキュリティと信頼性の懸念への対処も重要な課題だ。AppleやGoogleの決済システムを通さないため、ユーザーはクレジットカード情報などを個別のサイトに入力することを求められるケースがある。このため、偽の決済サイトへ誘導されるフィッシング詐欺のリスクが高まる。さらに、開発者側で高度なセキュリティ対策と個人情報保護の維持が求められる。
アプリ外決済を選択し、プラットフォームの保護から離れる以上、セキュリティ対策は必須だ。まず、クレジットカード業界の国際セキュリティ基準である「PCI DSS」に対応した決済サイトを構築したり、リンク型接続やトークン決済を利用し、自社サーバーにカード情報を通過・保存させない「クレジットカード情報の非保持化」や、不正検知システムやEMV 3-Dセキュア(本人認証)の導入など不正利用対策を図る必要がある。
また、決済がアプリ内で完結せず、ブラウザへ遷移して再度ログインやカード入力を行う手間が発生するため、決済工程が増えることで、購入を止めてしまう「かご落ち」が増える可能性がある。ユーザー体験の低下を防ぐUI/UXの設計が求められる。
拡大を続けるモバイルアプリ市場で選ばれる決済手段を構築する
モバイルアプリのアプリ課金の市場規模は、2026年に向けて世界・国内ともに拡大が続くと予測されている。主要な調査機関の予測では、2026年の世界全体でのアプリ内支出(課金、サブスクリプション等)の総額は約2,330億ドル〜2,586億ドルとなっている。日本市場はモバイルゲームを中心に、世界でも有数の収益性の高い市場とされている。モバイルゲーム市場の課金収益は約1.7兆円規模で、アジアでは中国に次ぐ2位の規模を維持している。非ゲーム分野では、マッチングアプリ市場は、2026年に1,094億円(前年比7%増)に達すると予測されている。
近年の傾向として、ゲームアプリ市場は横ばいとなっているのに対し、生成AI関連アプリの課金が急速に成長しており、新たな成長源となっている。台頭する生成AI の中では、AIコンパニオンや生産性向上ツールなどの生成AIアプリが課金カテゴリーとして主流になっている。2026年は、AIを活用したパーソナライズ課金や、ショッピング・支払い・メディア視聴が統合された「スーパーアプリ」化が加速すると予測されている。事業者にとっては、大きなビジネスチャンスであるとともに、「アプリ外課金」によるプラットフォーム手数料の回避だけでなく、独自の付加価値を提供することでユーザーに選ばれる決済手段を構築することが重要になりそうだ。












