2012年8月31日8:20
クロスセリングで収益拡大
☆☆☆ ウェルズファーゴのリテールバンキング戦略 ☆☆☆
Cross Selling Strategy
米銀がいま、リテールバンキング戦略でもっとも注力しているのが、クロスセリングである。
クロスセリングとは、顧客に複数の商品やサービスを提供すること。顧客が複数の商品を利用すれば、その利用状況から顧客ニーズを多面的に導きだせる。ニーズがわかれば、それにあった商品をさらに追加で提案できる。
クロスセリングによって、顧客との長期的な取引関係を築けるというメリットもある。取引が長ければ長いほど、収益は向上する。
米国の一般的な世帯では平均8.2件の金融商品を利用している。しかし、金融機関1社の利用商品は2.5件である。もし顧客との絆を深めることができれば、もっと多くの商品を提供できるはずだ。
米銀大手のひとつ、ウェルズファーゴの顧客が利用している商品件数は、平均5.7件である。金融機関平均の2.5件の倍以上のクロスセリング率である。
なぜ、ウェルズファーゴはそんなに高いクロスセリング率を達成できたのか。どんな商品をクロスセリングしているのか。クロスセリングは収益にどう貢献しているのだろうか。
●最強のコミュニティバンキングをめざす
ウェルズファーゴはふたりの創設者の名前に由来している。ひとりはヘンリーウェルズ。もうひとりはウィリアムファーゴ。ふたりともアメリカンエキスプレスの創設者だというのは興味深い。といっても、当時のアメリカンエキスプレスは名前が表しているとおり、蒸気機関車や馬車を使った配送会社だった。
ウェルズファーゴの創設はアメリカンエキスプレス設立の2年後、1852年だ。設立の目的は、カリフォルニアで配送とバンキングサービスを提供することだった。そのシンボルの赤い馬車は、いまでもウェルズファーゴのアイコンとなっている。
歴史のあるウェルズファーゴであるが、1998年ノアウェストに買収された。ウェルズファーゴというブランドを残したのは、150年強という歴史が培ってきたブランドの信用力を重視したからである。
2008年10月にはリーマンショックで苦しむワコビアを救済合併。総資産で、バンクオブアメリカ、JPモルガンチェイス、シティバンクにつぐ、全米第4位の銀行となった。本拠はカリフォルニア州サンフランシスコである。
ワコビアの合併によって、ウェルズファーゴはいままで弱かった東部地区の拠点を拡大。とともに、消費者とスモールビジネスを対象にしたリテールバンキングの基盤を構築した。ウェルズファーゴではリテールバンキングをコミュニティバンキングと呼んでいる。地域コミュニティに根ざしたサービスを提供したい、と考えているからだ。
2011年の総収益は846億ドルだったが、セグメント別に構成をみると、コミュニティバンキング部門が507億ドルで、総収益の60%を占めている。中堅と大企業を対象にしたホールセールバンキング部門は217億ドルで、総収益の26%。富裕層を対象としたウェルスマネジメント部門は122億ドルで、総収益の14%だった。