2016年9月2日8:00
MasterCard Advisorsのサービスを利用し、カード会社や加盟店は自社で保有するデータを補完し、より良い経営判断につなげる事が可能に
MasterCard Advisorsは、MasterCardの事業部門として、即時取引データに基づく独自の分析と戦略コンサルティング、マーケティングサービス等を提供しており、カード発行会社(イシュア)やカード加盟店など、クライアントの事業の成長の支援を行っている。同社の役割について、MasterCard Advisors日本地区責任者 内山憲氏に話を聞いた。
MasterCard Advisorsは4つの軸でサービスを展開
MasterCardが蓄積しているデータを活用
――まずは、MasterCard Advisors様のビジネスについてお聞かせください。
内山:MasterCard Advisorsは現在、4本柱でサービスを提供しています。その大元になるのは、MasterCardが蓄積しているデータで、主に消費者の購買に関わるものとなります。
1つ目は、データを活用してレポートやツールの提供をしています。2つ目はコンサルティングサービスです。データをベースにそこから洞察や知見を出し、クライアント企業に対して戦略的な提案、施策の立案をしています。3つ目がソフトウェアの提供です。MasterCardでは、アプライド・プレディクティブ・テクノロジーズ(APT)という会社を買収しており、たとえば営業時間を変えたら売り上げが10%高まった際、それが季節的な要因なのか、景気が良くなったのか、本当に営業時間を変えたかを見極める支援を行う事で経営判断・意思決定からあいまいさを排除する事をサポートしています。4つ目は、マネージドサービスとなり、イシュアや小売のマーケティングキャンペーン業務を受託しています。
ビッグデータ活用における5つの要諦
「SpendingPulse」は日本政府の統計レポートより2週間早く公表
――MasterCard Advisors様が考えるビッグデータ活用で重要な要素についてはいかがでしょうか?
内山: 5つの重要な点があり、まず1つ目は捕捉すべきデータです。顧客を理解する際の典型的な手法は、顧客意見調査、ボイスカスタマー調査、コンシューマーサーベイなどですが、これらに加え重要なのはお客様の行動を捕捉することです。MasterCardは、年間520億決済トランザクションを処理していますが、まさに購買行動という最も重要な顧客行動のひとつを捉えています。
2つ目は、捕捉した情報をビッグデータとして蓄積するのは重要であり、経済合理性にかなうようになってきました。また、ストレージやプロセッシングの単価は下がっていますが、より重要なのは目的や粒度に応じて、データをクレンジングや整理、統合していくことであり、MasterCardは投資を続けています。たとえば、2016年1月より日本提供を開始した「SpendingPulse」レポートは、その1つの形として提供しています。
3つ目は、経営判断への適用ですが、予測アルゴリズムや傾向スコア(プロペンシティスコア)が流行り言葉となっています。大切なのは、行動と結果の関係を正確に捉えて、意思決定からあいまいさを省くことです。たとえば、店舗の営業時間を最適化するのに、8時から17時までがいいのか、9時から18時までがいいのかといったような、意思決定を、経験・勘に頼るのではなく、実験による事実に基づき最適化するソフトウェアを提供しています。
4つ目は、ビッグデータ分析の人材ですが、データサイエンティストの重要性が取り上げられています。データサイエンティストは非常に重要ですが十分ではありあません。業界知識があり、かつデータ分析ができる人材を備えることが重要となります。データの分析は試行錯誤の繰り返しであり、分析の意味合いは業界知識なしでは得られません。そのため、我々は業界に精通したデータサイエンティストを採用・育成しています。
5つ目は、実際の行動です。データ分析から得られた洞察を如何にフロントラインの営業やカスタマーオペレーションにつなげるのかが肝となります。インセンティブの仕組み、社内の管理会計の仕組みも変更して、ビッグデータ分析による価値の刈り取りを最適化する事もあります。
――2016年1月から提供を開始された日本の小売販売額を調査するマクロ経済レポート「SpendingPulse」の現状の評価についてお聞かせください。
内山:「SpendingPulse」は、日本政府の公式レポートと非常に相関性が高く、政府統計より1-2週間提供可能という迅速性が価値となります。我々のクライアントであるカード会社や小売、サービス業を超えて、投資家やキャピタルマーケットの方に興味を持っていただいています。また、カード決済に加え、現金支払いについても予測するアルゴリズムがあるため、結果の相関性では影響を受けません。
MasterCardのデータはイシュアや小売のデータと補完関係に
データの提供だけでなく、フロント部門との連携が重要に
――ビッグデータ分析をする際において、MasterCard Advisors様の強みについて、お聞かせください。
内山:顧客をセグメントした時に重要なのは行動に基づくセグメンテーションです。MasterCardのデータは、購買行動の中でも重要な決済を捉えていますが、それを基にした行動や消費者の洞察を得られます。2つ目は、我々の持っているデータはイシュアや小売の皆様のデータと補完関係にあります。イシュアの皆様は、会員の属性データやポイントサービスのデータを保有しており、我々は特定のクレジットカード会社を超えた幅広いお客様の購買データを持っています。さらに、小売の皆様は、実際の店舗での売り上げデータを保有しています。この3社が三つ巴でデータを統合して整理すると、新しいインサイトが取得できます。
MasterCardでは、英国のファイブワン(5One)を買収しましたが、たとえば小売のデータと弊社のデータを合わせて、いかにキャンペーンを最適化するかといったサービスを提供可能です。小売の皆様は、自分のお店での購買行動は把握できますが、それ以外の店舗での売上データを捉えるのは難しいです。その点、我々は幅広いトランザクションデータを保有しており、それを活用して支援することが可能です。
また、データの提供に加え、継続・反復して、現場のオペレーションや営業に反映させるかが肝となります。如何にフロントラインと連携させるのかが鍵であり、コンサルティングが重要となります。
さらに、データを活用するためのツールがあることで限りなくワン・トゥ・ワン・マーケティングに近いことができるようになり、弊社でも多くのクライアントをサポートしています。たとえば、何もしなくても健康食品を買っていただいているお客様にキャンペーンを打つのは売り上げが下がります。これまで購入していない潜在顧客を見つけ出すことをサポートすることが、パーソナライズされた顧客理解であると考えます。