2023年3月23日7:30
負荷増大、人材不足――イシュアの悩みは深刻
課題解決を目指して「FARIS」を立ち上げ
IWIでシステム開発を担当している夏目です。ここからは不正検知システムの取り組みと将来像についてお話しさせていただきます。
国内ではキャッシュレス決済比率が30%を超え、カード発行枚数も増えて、不正利用被害額が急増しています。2021年は330億円、2022年には400億円を超えると言われています。これにともないイシュア各社はさまざまな課題に直面しています。1つは、ルール作成者不足。不正犯罪の手口は日々巧妙化していますので、それに対抗するためイシュアはかなり複雑なルールを書かなければならない状況にあるのですが、それを書ける人材が不足しているのです。2つ目の課題は、3Dセキュア、リスクベースの不正検知、ネットワーク上の不正検知など、多種多様な不正対策ソフトを併用する必要が生じているため、不正対策業務が高度化・煩雑化していることです。3つ目は、後続業務の負荷増大です。不正を検知するだけではなく、そのあとのカード会員とのコンタクト業務、配送停止や返金の手続き、ルールやスコアのチューニングなどの負荷が増えて、手が回らなくなってきているのが実情ではないかと推測されます。
このような課題に応えるため、弊社は2020年に「FARIS」というプロジェクトを立ち上げました。これは4つのコンセプトから成っています。1つは、Scoring。イシュア各社のルール作成の業務負荷を低減するために、ルールをつくらなくても自動で止めるAIのスコアリングが必要ではないかということで研究を始めました。2つ目が、Rule&Monitoring。現在の不正対策としては、スコアリングとルールの両輪で動かしていくのがベストだと考えておりますので、スコアを研究すればそれで良しというわけにはいかず、ルールの強化も必要です。そのため、ルールとモニタリング業務の負荷軽減、UI/UXの強化をコンセプトの1つに掲げています。3つ目が、Fraud sharing。こちらは新しい取り組みです。われわれは不正検知システムを20数年取り扱っており、20数社のお客様にご利用いただいています。このシェアを生かして、イシュア間の不正情報の共有によって、不正検知力を上げていきたいと考えています。最後、4つ目が、Alliance Resonanceです。イシュアだけに閉じずに、アクワイアラ、加盟店、決済代行会社も含めて、決済プレーヤー、各不正検知の共鳴連動によって不正対策を強化しようということです。これら4つのコンセプトで研究開発を進めているところです。
各社との連携により新しいサービスを開発
決済プレーヤーが協力して日本の決済を守る
1つずつ詳細を説明していきたいと思います。まずScoringですが、昨年、PKSHA Technologyとの協業を開始し、「FARIS共同スコアリングサービスPowered by PKSHA Security」を開発いたしました。これは文字通りイシュア間の共同スコアリングサービスです。たとえばA社で起こった不正の情報を学習して、B社でそれが起きたときにはすでに対策ができているという状況をつくります。各社で不正情報を共有するAIモデルと考えていただければわかりやすいと思います。開発はもう終盤に差し掛かっておりまして、3カ月後、2023年6月にはファーストユーザーがサービスインを迎える予定です。ほかの複数のイシュア様からも関心を寄せていただいており、参加イシュアは続々増えていく見込みです。この取り組みに賛同してくださっているJCBからもデータの提供を受ける予定で、さらに分析の精度が上がると期待されています。
続いてFraud sharingの共同CPPです。昨今フィッシングが不正の大半を占めておりますが、まだまだCPP起因の不正も多いと聞いております。CPPの分析はイシュアごとに行われていますが、個社単独のデータでは分析の精度がなかなか上がりません。そこで、われわれのお客様のデータを1カ所に集約して、共同で流出の加盟店を探索するサービスの開発を進めています。6月に開発終了となり、夏頃から提供を開始する予定です。また、Fraud sharingのルール共有としましては、イシュア間で高精度ルールを共有して、業界全体のルールの精度を向上していきたいと考えています。こちらはこの春から夏にかけて、効果検証のPoCを実施する予定になっています。
Rule&Monitoringのところでは、大規模な不正攻撃に対して、クレジットマスターの不正検知システムの先頭で、簡単な設定で自動防御ができる機能を現在開発しております。イシュアが攻撃を意識することなく、いつの間にか防御が働いているという未来を思い描きつつ、鋭意開発を進めている最中です。
Rule&Monitoringではもう1つ、これはシステムの側面ではないのですが、夜間帯のモニタリング、及び盗難紛失受付サービスを展開しています。不正対策は24時間365日止めることはできません。しかしイシュア各社においては人材不足という課題もありますので、リソースを日中対応に充てていただけるように、夜間のモニタリング、カード盗難紛失窓口や一時無効登録などの業務をわれわれが代行させていただいています。
最後にAlliance Resonanceのところでは、配送停止連動に関するサービスをご紹介します。これは、JCBの配送停止システム「MATTE」(マッテ)と、われわれの不正検知システム「ACEPlus」「IFINDS」を連動させることによって、不正を検知してから配送停止までの時間を短縮する試みです。リアル性を向上させることで、配送停止の成功率を上げたいと考えているのです。また逆方向で、決済代行業者、加盟店から不審な取引の報告や照会があった場合にも、われわれの不正検知システムを介して不審報告や属性照会を行える仕組みを整えたいと思います。2024年にサービスをスタートできるように、開発を進めております。
不正対策はカード会社各社が競い合う領域ではなく、協力し合うべき領域です。イシュアのみならず、決済プレーヤーが共鳴連動することで、日本の決済を守っていかなければならないと考えます。IWIが目指しているビジョン、「共創共鳴」という言葉をもって、プレゼンを終了させていただきます。ご清聴ありがとうございました。
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