2023年4月4日8:00
駅のATM手数料無料、新幹線の優待など鉄道会社の強み生かす
JR東日本は2024年春から、インターネット上に開設した専用口座で預金や住宅ローンなどの金融機能を提供する新たなデジタル金融サービス「JRE BANK」を始める。駅のATM「VIEW ALTTE(ビューアルッテ)」での現金引き出し手数料を無料とし、利用状況に応じて新幹線の優待や駅ビルの商業施設で使えるポイントを付与するなど、鉄道会社ならではの強みを生かした特典の提供を検討中だ。
楽天銀行が保有するインフラを活用
デビット機能付きカードで利用拡大見込む
「JRE BANK」は、楽天銀行が保有する預金や決済などの金融機能を活用する「組み込み型金融」(エンベデッド・ファイナンス)の手法で展開する。具体的には、JR東日本の子会社でクレジットカード事業などを担うビューカードが、楽天銀行を所属銀行として銀行代理業を行う。サービスの詳細については検討中だが、利用者はウェブサイトまたはスマートフォン向けアプリで専用口座を開設し、預金や振込、住宅ローンなどの金融サービスを利用する。
主な特徴は3つある。まずは、利用状況に応じて列車の優待やグループ会社が運営する駅ビルの商業施設などで使える「JRE POINT」の付与といったJR東日本グループならではの特典を受けられることだ。2つ目は、駅構内に設置されたATM「VIEW ALTTE」で口座から、手数料無料で現金を引き出せること。3つ目は、クレジットカードの国際ブランドと提携した、専用のデビット機能付きキャッシュカードの発行だ。買い物の際にカードを利用すると、JRE BANKの口座から即時決済される仕組み。
特に3つ目のデビット機能付きキャッシュカードは、クレジットカードを持つことができない若年層、持ちたくない利用者にもサービスを利用してもらうのが狙いだ。JR東日本 マーケティング本部 戦略・プラットフォーム部門 決済・認証ユニット マネージャーの小澤達氏は「カードレス仕様だとECサイトなどでの限定的な利用になってしまうため、日常の幅広い決済シーンで使ってもらうためにプラスチックカードを発行することとした」と説明する。デビットカードを入口として、クレジットカードであるビューカードへの移行も期待しているという。
楽天銀行ですでに口座を開設している場合も、新たにJRE BANKの口座を開設することができる。楽天IDとの連携は行わないため、JRE BANKの利用で楽天ポイントは貯まらないがJRE POINT会員番号との連携によりJRE POINTが貯まる。また、楽天銀行の支店となるためJRE BANK間のみならず楽天銀行口座との間の振込手数料なども無料になる見通し。
鉄道会社の組み込み型金融参入は国内初
グループの資産を活用したサービス構築へ
鉄道会社が組み込み型金融に参入するケースは国内では初めてだが、なぜサービスを導入しようと考えたのか。背景には、新型コロナウイルス感染症の拡大で、鉄道の利用が落ち込んでいることがある。こうした状況を受け、鉄道会社ならではの強みを生かした金融サービスを通して、鉄道利用や駅ビルでの買い物などにつなげ、長期にわたって利用してもらうための土台を作ろうとしているのだ。小澤氏は「口座の開設を通じてお客様との関係を深め、グループが提供するさまざまなサービスを利用していただきたい」と話す。
2021年ごろからサービスの検討を始め、楽天銀行と提携した組み込み型金融を行うこととした。同行は国内のネット銀行での口座数トップを誇る。新たな金融サービスは個人向けで、JR東日本グループが提供する多様なサービスと連携する必要があったため、個人向けのサービスに強く、独自のサービスにも柔軟に対応できる同行と組むこととなった。
具体的なサービスの仕様は検討中だが、通勤、通学などで日常的に多くの人が利用する、鉄道や駅ビルの商業施設、駅のATM「VIEW ALTTE」といった活用できる資産が豊富にあるなどの強みを生かして展開していくという。小澤氏は「JR東日本グループのお客様にとっても一層親密にお付き合いいただけるような、お出かけのきっかけになるようなインフラをビューカードと一緒に作っていきたい」と意気込む。ビューカードJRE BANK推進部 担当部長の山田耕平氏は「新サービスの発表以降、お客様から大きなご期待をいただけていると感じている。そのご期待に応えられるような、より多くの方が幸せを感じられるようなサービスを展開したいと思っている」と力を込めた。
同社によると2022年12月末現在、JRE POINTの会員は約1,343万人、ビューカードは約557万人が利用している。JRE BANKは、これらの利用者により便利なサービスを提供するとともに、沿線の乗降客以外も含めた新たな利用者も取り込む狙いだ。人々が日常的に利用し、生活と密接な関わりを持つ鉄道会社が取り組む新たな金融サービスに期待が高まっている。