2025年2月26日9:00
普及拡大には規格標準化が必須の課題
日本国内の声を世界に届けることが重要
田林:今回、温故知新というお題をいただいて、あらためて手元の資料を見直していたら、2017年のプレゼン資料の中に興味深いものを見つけました。公共交通分野におけるNFCのハーモナイゼーションというもので、JR東日本様がNFCフォーラムのジャパンミーティングの講演で提示したものです。
当時多くの企業がNFCを使った料金収受の話をし始めていまして、その中でいろいろな要件が策定されました。いろいろあるということは、それだけばらつきが増えるということであり、それをどうやって統一するかが課題でした。特にグローバルな基準に、日本国内の声をどう反映させられるかが大きな宿題になっていました。
2015年、2016年のあたりで、NFCフォーラム、それから先ほど田川さんからもお話があったGSMA、ヨーロッパの交通関係のICカードとかリーダの規格をつくるCEN、ISO、Smart Ticketing Alliance、それに国内のJR東日本様にご参加いただいて、関係団体のワークショップを開催しました。それぞれどういう課題を抱えているのか、どういう要件を定義したいのかを話し合った上で、NFCの無線通信部分のRFアナログ規格の統一仕様として同意したのがこの図です。
これでNFCの通信仕様がすべて統一されたわけではないのですが、一定の成果を得ることができたということで、海外のNFC端末で将来的に日本のSuicaで乗車ができるかどうかをJR東日本様に検証していただきました。
すべてが使えたわけではありませんでしたが、大きなステップアップになったのがこのハーモナイゼーションです。
その結果、何が起きてきたかというと、今皆さんはAndroidやiPhoneの携帯電話で、国内のFeliCaのプラットフォームで、たとえばモバイルSuicaが利用できますし、もう一方ではウォレットサービスを使ってVisa、Mastercard、JCBのアプリケーションが使えます。
2015年の時点ではこういったサービスは実現できていませんでした。ハーモナイゼーションを含めた関係者の努力によって、互換性を持ったサービス、プラットフォームを、コンシューマーの皆さんが使えるようになりました。ここまで来るのは非常に大変でしたが、達成感もありました。
門山:本当にご苦労されたことと思います。どんな体験でしたか。
田林:利害関係の調整などに苦労しましたが、日本の交通事業者の声を直接、関係する標準化団体に発信できたのは、非常に大きな成果だったと思います。今、そのプラットフォームを私たちが享受できているのは、そのときのJR東日本様のご英断があったからこそだと思います。
多様なニーズに応えるユースケースを創出し
新しい技術の活用を促進
遠藤:私どもはソリューションベンダーとして、ユースケースの創出というところでNFCの普及促進に寄与させていただいております。
私自身、運が良かったと感じているのは、NFCフォーラムにかかわり始めた2019年当時、iOS13のリーダーモードが開放されたことです。これを使った決済や、交通系のユースケースづくりを、ソニー様やJR東日本様などいろいろな方々とディスカッションしたり、ご協力をいただきながらつくり上げるという経験をさせていただいたことが大きかったと思っております。その中で、モビリティアイデンティティ&トランスポーテーションとSIGのViceチェアのポジションにも立たせていただきました。ユースケースを、日本国内はもちろん、アメリカやEUでも発表できたことも大きな活動成果でした。
門山:ありがとうございました。では篠﨑さん、お願いいたします。
篠﨑:田川さんのお話をうかがいながら、当時苦労したことなど、いろいろなことを思い出しておりました。Nokia6131にNFCが搭載された後も、どういった端末、どういったサービスで、どういったステイクホルダーがメリットを感じるのかといったさまざまな要素が絡み合う中、NFCの活用シーンは思うようには広がっていきませんでした。その状況が、スマホの登場によって大きく変わりました。結果的に見て、NFCはスマホと非常に相性が良い技術だったのだと思います。
とはいえ、やはりこういった新しい技術を市場に浸透させていくには、皆さん、いろいろな苦労があったと思います。田川さんがおっしゃっていたように、当時はSIMにNFCのセキュリティを入れたい人たち、スマホの中に埋め込みたい人たち、アプリケーションプロセッサを中に入れてしまいたい人たち、さらにはSDカードにセキュアエレメントを入れたいという人たちもいて、われわれも対応に相当苦労いたしました。
スマホはリーダライタにもなり得る
アプリケーションのますますの広がりに期待
門山:ここからは、これから先のNFCの活用について考えていきたいと思います。まず田川さんからお話しいただけますか。
田川:私は今、Virtual Inc.でいろいろな標準化団体のサポートを行っていると同時に、NFCを活用したサービスを展開しているアクアビットスパイラルズという会社の技術顧問もやっています。アクアビットスパイラルズではNFCタグ内蔵のプレートを提供していますが、これを利用すると、たとえばニセコのスキー場などから、スマホをかざしてオンラインショップにアクセスすると、その場所にいる人限定の特別割引レートが設定されたリフト券が購入できます。
もうひとつの例として、路線バスに乗るときに、スマホの位置情報とセキュアなタグを使って、バスとお客様の位置を認識して、区間運賃を計算して精算できる仕組みがすでに提供されています。
何を言いたいかというと、NFCを搭載したスマホは、かざすカードにもなり得ますが、かざすリーダライタにもなり得るということです。世の中の決済端末、要するに読むのが専門の決済端末の出荷台数は、世界で年間1,000万台強だと思いますけれども、それに対してNFC搭載のスマホは20億に近い台数が出荷されているわけです。NFCフォーラムの活動のひとつの大きな成果は、これだけ多くのリーダライタを世に送り出したことです。このインフラを有効活用するサービスがこれからどんどん生まれてくるといいですよね。
門山:ありがとうございました。田川さんは今も現役でNFCにかかわっていらっしゃるのですね。頼もしく思います。
他団体と協力して規格採用を働きかけ
国際的なトレンドを見据え新しい取り組みにも着手
田林:NFCフォーラムのジャパンタスクフォースでは、2024年12月に国内向けのラウンドテーブルを開催しました。そのときのスライドをいくつかご紹介します。
まず、2024年の振り返りです。NFCフォーラムは20周年という大きな節目を迎えることができました。現在の会員数は700社。有償会員はだいぶ減ってきてはいるものの、引き続きかなり大きな企業の方々がNFCに興味を持ってくださっているという感触を持っています。
認定プログラムが好調で、かなりの数の製品がNFCフォーラム製品認定を取得しています。現在この牽引役になっているのが、自動車のデジタルキーです。NFCフォーラムではCCC(Car Connectivity Consortium)と組んで、認定プログラムの活用を推進しています。この仕組みをさらに拡張しようということで、今、力を入れているのがパソコンや、キッチン用品などの非接触給電への適用です。また、「技術規格をこう変えてほしい」という要望に応えて見直しを進めています。
それから、日本国内ではあまり馴染みがないのですが、今ヨーロッパなどで、デジタルプロダクトパスポート(DPP)が注目されています。製品のライフサイクルをきちんとトレースできるようにしようという取り組みで、最初のターゲットはバッテリーになっています。それ以外には、欧州域内で販売する電気製品がすべて対象となる予定です。かなり大きな潜在価値があると見られており、規格化に取り組んでいるところです。(資料:24年の振り返り)
市場から見直してほしいという声があるものについて、今、大きく5つに対応しています。ひとつはOperating Volume、すなわち通信距離の拡張で、カードとリーダの組み合わせの中でどこまで通信距離を確保できるかを、メンバー企業の中であらためて再評価し、見極め、見直しを行っています。
2つ目は非接触給電で、これを最大3ワットまで増強します。3つ目は先ほどお話ししたデジタルプロダクトパスポート(DPP)への対応です。4つ目はマーケティングの分野で、Multiple Purpose Tapというものを推奨しています。1回のNFCのタッチで複数のアプリケーションの通信を確保して、ユーザビリティの向上を目指すというものです。5つ目は互換性プログラムの導入の検討です。
現在、他の団体とのリエゾンを通じて、NFCフォーラムの規格の採用を働きかけているものが多くあり、先ほど紹介したデジタルキーのCar Connectivity Consortiumでは必須規格として採用。また、同じスマートキーの仕組みなのですが、入退出の規格としてConnectivity Standards Allianceと交渉中です。同じく車について、中国のICCEというところとも交渉中。コードレスキッチン向けには、Wireless Power Consortiumに必須規格として採用していだきました。これらが、ここしばらくの動きになっています。
門山:ありがとうございました。最後に篠﨑さん、将来に向けて、コメントをお願いいたします。
篠﨑:皆様のお話をうかがって、NFCが今も発展し続け、キラーアプリケーションが次々と生まれていることが実感できました。外部の団体とも連携をとって、ユースケースを広げているということなので、NFC技術、およびNFCフォーラムの発展がさらに加速するのではないかと期待しています。
門山:篠﨑さん、ありがとうございました。
ご視聴いただいた皆様、パネリストの皆様、本日は長時間ありがとうございました。今後ともNFC技術、サービス、ユースケースの発展のためにご協力くださいますよう、心よりお願い申し上げます。