2026年4月17日8:00
和田 文明
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プロフィール キャッシュレス、電子マネー関連のジャーナリスト/ライター、主に欧米、アジアのセキュリティを含むキャッシュレス情報、カスタマーロイヤルティプログラム情報を取材 |
金融技術(FinTech)は、1960年代後半のATMの登場以来、デジタルデポジットや送金アプリを通じて、金融サービス利用方法を大きく変えてきた。AI(人工知能)は、こうしたペイメントにおけるデジタル変革をさらに加速させるための中核的なパワーである。欧米で進む、AI(人工知能)、特に最新の生成AI(GenAI)が決済(Payment、決済・送金)システムにどのような変化をもたらしているか、そして欧米がどのようなルール(規制)を作ろうとしているかについて、5回に分けてレポートしてみたい。
AI(人工知能)の進化により、ペイメント(決済・送金)業界は、かつてないスピードで変革が生じている。特に重要なのは、AI(人工知能)が単なる“自動化ツール”から、自から考えて行動する“AIエージェント”(Agentic AI)へと進化している点である。こうした自律的に動くAI(人工知能)が、今、銀行などの金融機関と顧客との関係を根本から変えようとしている。
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Index(目次) 1、ペイメント(決済)とAI(人工知能)とは 2、欧米のAI(人工知能)の規制環境とコンプライアンス 3、AI(人工知能)によるオペレーション効率化と金融犯罪対策 4、AI(人工知能)がバックアップする次世代決済モデル 5、コンシューマーAIからエージェント型決済オペレーションへ |
<参考文献・資料> ・AI in payments: From hype to impact、Payrails ・From consumer AI to agentic payment operations、The Paypers ・How agentic AI can change the way banks fight financial crime – McKinsey、mckinsey.com ・Six benefits of AI in payments for problem resolution - Access PaySuite、accesspaysuite.com ・The Role of AI in preventing financial fraud and enhancing compliance - GSC Online Press、gsconlinepress.com ・AI-enabled anti- money laundering、ey.com ・The AI revolution for payments & tech | J.P. Morgan、jpmorgan.com ・2025 Cross-Border Payments Trends for Financial Institutions | J.P. Morgan、jpmorgan.com ・EU Tech Firms Look to US for AI Funding | PYMNTS.com、pymnts.com ・AI in Fintech – IBM、ibm.com ・LLM Hallucinations: What Are the Implications for Financial Institutions? | BizTech Magazine、biztechmagazine.com ・Automated Invoicing with Generative AI: Streamline Finance – SmythOS、smythos.com ・High-level summary of the AI Act | EU Artificial Intelligence Act、artificialintelligenceact.eueuroparl.europa.eu ・EU AI Act: first regulation on artificial intelligence | Topics - European Parliament、europarl.europa.eu ・GAO-25-107197, ARTIFICIAL INTELLIGENCE: Use and Oversight in Financial Services - Government Accountability Office、gao.gov ・The Impact of Large Language Models in Finance: Towards Trustworthy Adoption - The Alan Turing Institute、turing.ac.uk ・From Automation to Autonomy: How Agentic AI is、Visa ・「AIエージェントが加速するCX革命」、NTT Date ・「最新の決済機能がビジネスに与える影響」、Stripe Japan ・「サブスク業界における規制環境の変化とその影響」、Stripe Japan ・「AIビジネスの拡張」、Stripe Japan ・VisaのHP ・MastercardのHP ・StripeのHP ・Stripe JapanのHP ・Payment Navi
ペイメントとAI(人工知能)に関する用語集
ペイメントとAI(人工知能)の戦略的分析や欧米における最新動向と規制の枠組みなどに出てくる主要な専門用語について、用語集(アルファ別途順)を作成した。
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用語(英語・日本語) |
解説 |
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Account-to-Account (A2A) Payment (A2A決済) |
・A2A(Account-to-Account)決済とは、カードネットワークを経由せず銀行口座間で直接資金を移動させる決済を指す ・A2A(Account-to-Account)決済は、オープンバンキングや即時決済システムを活用した、低コストの代替手段として注目されている |
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Adaptive Learning (適応型学習) |
・新しいデータに基づいて、アルゴリズムが自己をリアルタイムで修正・進化させる学習プロセス |
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Agentic AI(または Agentic Commerce)(エージェントAI) |
・エージェントAI(人工知能)とは、自分で考えて行動する自律的なAI(人工知能) ・単なる指示実行や自動化を超え、文脈を理解し、戦略を立て、人間を介さずにペイメントタスクをシームレスかつ独立して実行する能力を持つ ・これが「Agentic Commerce(自律的な商取引)」という新たな経済圏を生み出している |
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AML/KYC AML(マネーロンダリング対策) KYC(顧客確認) |
・AML(マネーロンダリング対策)とKYC(顧客確認)は、金融犯罪を防止するための規制遵守のプロセスである ・AI(人工知能)は、誤検知(誤った警報)を減らし、疑わしい活動の調査支援や報告書(SAR)の自動生成により、コンプライアンス業務の効率と正確性を高める |
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API(Application Programming Interface)(API) |
・API(Application Programming Interface)とは、異なるソフトウェアやシステム間で安全かつ効率的にデータをやり取りするための接続規格を指す ・API(Application Programming Interface)は、オープンバンキングや最新の決済連携の根幹である |
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Bias(バイアス) |
・バイアスとはAI(人工知能)の学習データに存在する偏りや、アルゴリズムの設計上の不公平性 ・決済の承認/拒否に不当な差別を生む可能性があるため、規制当局が厳しく監視している |
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Conversion Rate(コンバージョン率) |
・顧客がペイメントプロセスを開始してから、実際に取引を完了する割合を意味し、AI(人工知能)による不正検知の誤判断(誤拒否)を減らすことでコンバージョン率(Conversion Rate)が向上する |
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Deep Learning(深層学習、ディープラーニング) |
・ディープラーニング(深層学習、Deep Learning)はML(機械学習)の一種で、多層のニューラルネットワークを使用し、特に大量の非構造化データ(画像、音声など)からの複雑な特徴抽出に優れる ・ディープラーニング(Deep Learning)はより高度な不正パターン認識に使用される |
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Discriminatory Algorithm(差別的なアルゴリズム) |
・差別的なアルゴリズム(Discriminatory Algorithm)とは、AI(人工知能)システムが学習データや設計上のバイアスにより、特定の人種、性別、経済状況の顧客に対して不公平な決定を下すことを指す ・差別的なアルゴリズム(Discriminatory Algorithm)は、金融分野においては厳しく監視されている |
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Embedded Finance(組込型金融) |
・組込型金融(Embedded Finance)とは決済、融資、保険などの金融機能が、顧客が利用する非金融サービス(例:eコマースアプリ、配車アプリ)の中に、意識させずに組み込まれている状態を指す ・AI(人工知能)が、リアルタイム処理や超パーソナライズされたサービスを提供することで、組込型金融(Embedded Finance)機能を著しく活性化させることができる |
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EU AI Act(EU AI法) |
・EU AI法とは、欧州連合(EU)が制定したAI(人工知能)システムのリスクレベル(許容できない、ハイリスクなど)に基づいて規制する世界初の包括的な法律である ・EU AI法により、銀行による信用評価や、個人のプロファイリングを行うAI(人工知能)はハイリスクに分類され、厳格なルール遵守が求められる |
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Explainability(説明可能性) |
・説明可能性(Explainability)とはAI(人工知能)の意思決定プロセス、すなわち「なぜAI(人工知能)がその判断を下したのか」を、人間が理解し、説明できる能力を指す ・アメリカの金融規制当局が、AI(人工知能)モデルのバイアスやリスク管理を監督する上で、特に重要視している要件である |
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False Positives(偽陽性) |
・「実際には問題がない(正常な)」ものを、AI(人工知能)が誤って「問題あり(異常・不正)」と判定してしまうこと |
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False Positive Rat(誤検知率) |
・AI(人工知能)の不正検知システムが、実際には正当な取引であるにもかかわらず、誤って不正と判断してしまう割合 ・この誤検知率(False Positive Rat)が高いと、顧客体験(CX)と収益に悪影響を及ぼすことになる |
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Financial Inclusion(金融包摂) |
・金融包摂(Financial Inclusion)とは、銀行口座や従来の信用履歴を持たない人々や中小企業(SMEs)などに対し、金融サービスへのアクセスを広げること ・AI(人工知能)駆動型の信用スコアリングは、従来のデータに依拠せず融資判断を可能にし、この金融包摂(Financial Inclusion)の推進を可能にする |
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Fraud Detection (不正検知) |
・不正検知(Fraud Detection)は取引における異常なパターンや潜在的な詐欺行為を特定するプロセスを指す ・不正検知(Fraud Detection)のAI/ML(マネーロンダリング対策)モデルは、取引履歴や行動因子を分析し、従来のシステムよりもはるかに迅速かつ正確に不正を検出し、リアルタイムで介入を可能にする |
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Generative AI (GenAI)(生成AI) |
・生成AI(GenAI)は、創造的なコンテンツ(テキスト、画像、コードなど)を生成するAI(人工知能) ・生成AI(GenAI)は、金融分野では、顧客サービス対応の迅速化、事務文書(信用評価書など)の自動作成、そして不正行為者による高度な攻撃(ディープフェイクなど)に対抗するための防御モデルの強化などに使われている |
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General Data Protection Regulation (EU)(GDPR、欧州の一般データ保護規則) |
・GDPR(General Data Protection Regulation)とは、欧州の一般データ保護規則を指す ・GDPR(General Data Protection Regulation)は、AI(人工知能)による個人データの利用、特にプロファイリング(個人情報に基づく分析)について、厳格な同意と透明性を求めている |
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Hallucination(ハルシネーション) |
・ハルシネーション(Hallucination)とは、LLM(大規模言語モデル)が事実ではない、あるいは根拠のない情報を、まるで真実であるかのように自信を持って生成してしまう現象を指す ・金融サービスでは、ハルシネーション(Hallucination)は顧客への誤ったアドバイスやコンプライアンス文書の誤りなど、深刻な法的・規制上のリスクにつながる |
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Instant Payment / Real-Time Payment (RTP、即時決済) |
・即時決済(Instant Payment / Real-Time Payment)とは24時間365日、数秒以内に資金の受け渡しが完了する決済・送金システム ・欧州のSEPA Instant Credit Transfer(SCT Inst)や米国のFed Nowなどが代表的な即時決済(Instant Payment / Real-Time Payment)である |
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KYC(Know Your Customer)(顧客の身元確認) |
・KYC(Know Your Customer)とは、顧客の本人確認のことである ・AI(人工知能)は、デジタルID認証や生体認証と組み合わせ、迅速かつセキュアな本人確認プロセスであるKYC(Know Your Customer)に貢献する |
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Large Language Model (LLM、大規模言語モデル) |
・大規模言語モデルは生成AI(GenAI)の中核のテクノロジーで、大量のデータで訓練され、自然言語を理解・生成するモデル ・大規模言語モデルは、金融の分野ではカスタマイズされたリサーチの提供や、次の行動を推奨する判断支援に活用されている ・大規模言語モデルは、ハルシネーション(虚偽情報の生成)といった特有のリスクを伴う |
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Machine Learning (ML)(機械学習) |
・機械学習(ML)はAI(人工知能)の一種で、データからパターンを自動的に学習し、予測や意思決定を行うアルゴリズム(モデル)を構築する技術 ・機械学習(ML)は、決済リスク評価の基盤である |
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Model Drift(モデルドリフト) |
・モデル・ドリフト(Model Drift)とは、AI(人工知能)モデルが学習したデータと、実際の運用環境で発生する新しいデータのパターンが時間の経過とともに乖離することを指す ・不正の手口が変化する決済業界では、モデルドリフト(Model Drift)のモデルの再訓練が不可欠である |
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Model Time to Deployment(モデル展開時間) |
・モデル展開時間(Model Time to Deployment)とは、新しく開発されたAI(人工知能)モデルを実際に運用システムに展開したり、既存のモデルを更新したりするのに要する平均時間を指す ・モデル展開時間(Model Time to Deployment)は、AI(人工知能)開発と運用の(スピード)を示す指標であり、競争優位性を測る重要なKPI(Key Performance Indicator、重要業績評価指標)の一つとされている |
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Natural Language Processing(NLP、自然言語処理) |
・自然言語処理(Natural Language Processing)とは、AI(人工知能)が人間の言語(テキストや音声)を理解し、生成するテクノロジーを指す ・自然言語処理(Natural Language Processing)は、カスタマーサポート(チャットボット)や複雑な規制文書の分析などに使用される |
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Open Banking(オープンバンキング) |
・オープンバンキング(Open Banking)とは、顧客の同意に基づき銀行がAPI(Application Programming Interface)を通じて第三者プロバイダー(TPP)に口座データへのアクセスを許可する仕組みを指す ・欧州では、PSD2(Payment Services Directive 2)で推進されており、新しいペイメントサービスの基盤となるものである |
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Payment Services Directive 2 (EU)(欧州の決済サービスに関する第2次指令) |
・PSD2(Payment Services Directive 2)とは、欧州の決済サービスに関する第2次指令(法令)のことである ・PSD2(Payment Services Directive 2)は、オープンバンキングの基礎を作り、強力な顧客認証(SCA)の義務付けなど、セキュリティルールを強化している |
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Peer-to-Peer Payment(P2P個人間決済) |
・P2P(Peer-to-Peer)決済とは、個人間(友人、知人など)で行われる送金・決済のことを指す ・P2P(Peer-to-Peer)決済には、アメリカのVenmoやZelle、PayPalなどが提供するサービスがある |
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Real-Time Authorization(リアルタイムオーソリ) |
・リアルタイムオーソリ(Real-Time Authorization)とは顧客がカードを提示した瞬間、数ミリ秒以内に取引を承認または拒否する処理を指す ・AI(人工知能)の高速なリスクスコアリング能力によってリアルタイムオーソリが可能になる |
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Recurring Payment(リカーリング決済) |
・リカーリング決済(Recurring Payment)とは、サブスクリプションサービスなど定期的に自動で行われる支払いを指す ・AI(人工知能)は、このリカーリング決済(Recurring Payment)取引におけるカード有効期限切れなどの予測などに利用される |
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RegTech(レグテック) |
・レグテック(RegTech)とは、規制(Regulation)と技術(Technology)を組み合わせた造語である ・レグテック(RegTech)は、AI/MLを用いて、金融機関のコンプライアンス遵守や規制報告業務を効率化するテクノロジーを指す ・AIやIT技術を活用して、複雑な法規制(Regulation)への対応を効率化・自動化する技術の総称 |
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ソフトポス(SoftPOS) |
・専用の決済端末(POS決済端末)を使わず、市販のスマートフォンやタブレットをそのまま決済端末として利用する技術 |
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Straight-Through Processing Rat(STP率) |
・STP率(Straight-Through Processing Rat)とは取引が人間の介入なしに、最初から最後まで自動的に処理される割合を指す ・クロスボーダー決済においてAI(人工知能)が最適なルーティングと自動チェックを行うことで、99%を超えるSTP率(Straight-Through Processing Rat)が実現し、コスト削減と遅延の解消につながる |
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Stablecoin(ステーブルコイン) |
・Stablecoinとは、米・ドルや日本・円などの法定通貨や金などの資産価格に価値を連動させることで、価格の安定性を保つように設計された仮想通貨(暗号資産)を指す |
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Strong Customer Authentication(SCA、強力な顧客認証) |
・SCA(Strong Customer Authentication)は、決済時に「知識(パスワード)」「所有(スマホ)」「生体(指紋)」のうち、2つ以上の要素を用いた強力な認証を義務付けるものである ・SCA(Strong Customer Authentication)とは、PSD2(Payment Services Directive 2)の主要な要件の一つである |
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Transaction Scoring(トランザクションスコアリング) |
・トランザクションスコアリング(Transaction Scoring)とは、個々の決済取引に対して、AI(人工知能)がその正当性やリスク(不正の可能性)を数値化(スコアリング)すること |
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Tokenization(トークン化) |
・トークン化(Tokenization)とは、実際のカード番号などの機密情報をランダムな文字列(トークン)に置き換えて保存・送信するセキュリティテクノロジーを指す |
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XAI(Explainable AI)(説明可能なAI) |
・AI(人工知能)の振る舞いをあらゆる観点から理解し、信頼できるようにすることを目的とするテクノロジーの総称で、日本語では「説明可能なAI(人工知能)」と訳されているが、出力結果に至った経緯や判断の根拠を説明できるAI(人工知能)を指す |
各種資料より作成
“AI(人工知能)とペイメントについて”の第1回目は、欧米のペイメント(決済、送金)におけるAI(人工知能)の活用状況について、その概要を紹介してみたい。
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