静岡銀行等がブロックチェーン技術を用いた地域活性化の実証実験を実施予定

2016年10月4日8:00

スマホのwalletアプリに配信されるポイント型クーポンを流通

静岡銀行は、マネックスグループ、Sound-F、富士市吉原商店街振興組合、富士つけナポリタン大志館、一般社団法人愛Bリーグ本部とともに、ブロックチェーン技術を用いた地域活性化の実証実験に向けて協働して取り組んでいる。同実験に参画した経緯について、静岡銀行に話を聞いた。

ブロックチェーン技術の活用可能性、課題について検証
商店街で一般の人々を巻き込んだブロックチェーンの事例は国内初

今回実施するお買い物補助ポイントサービス「NeCoban」は、ブロックチェーン技術をベースにスマートフォン上のwalletアプリに配信されるポイント型クーポンを流通させ、地域の商店街等での購買促進に結び付けるサービスとなる。実証実験ではブロックチェーン技術が、今後幅広く活用できる可能性があるのかどうか、またその際の課題は何かを検証するという。

「ブロックチェーン技術を商店街で一般の方々にも参加していただく地域クーポンとして活用する事例は全国初の取り組みとなります」(静岡銀行 経営企画部 企画グループ ビジネスプロフェッショナル 那須野祥昌氏)

右から静岡銀行 経営企画部 企画グループ ビジネスプロフェッショナル 那須野祥昌氏、同部 ビジネスプロフェッショナル 大石達己氏、同部 今井友紀子氏
右から静岡銀行 経営企画部 企画グループ ビジネスプロフェッショナル 那須野祥昌氏、同部 ビジネスプロフェッショナル 大石達己氏、同部 今井友紀子氏

今回は、静岡県富士市の吉原商店街の店舗の協力を得て実験を実施。静岡銀行 経営企画部 企画グループ 今井友紀子氏は、「技術会社のSound-Fがブロックチェーン技術を活用して、今回提供するNeCobanの流通・管理システムを作り、当行は、同社およびB-1グランプリを運営している一般社団法人愛Bリーグ本部、富士つけナポリタン大志館、出資するマネックスグループとともに実験に取り組みます」と説明する。

送客による吉原商店街の活性化について検証
デジタル上の決済が銀行のビジネスに結び付けられるかを研究

同実験の目的の1つは、スマートフォンのwalletアプリを通じてポイントが流通する過程で、どのように地域経済の活性化に貢献できるか、という検証を行うことだ。従来、商店街の販促活動は主としてチラシ配布などで行われてきたが、「スマホの活用により、消費者と店舗双方にきっかけを与えることが可能です」と、那須野氏は期待する。実験のイメージとして、1,000円の商品を販売する店舗の場合、利用者がクーポンを使用すると900円で購入できるような形を想定している。

NeCoban」は、地域の店舗と生活者を、「お買い物補助ポイント(neco)」でつなげる
「NeCoban」は、地域の店舗と生活者を、「お買い物補助ポイント(neco)」でつなげる

「店舗にとってのメリットは、初期コストが不要であり、スマホさえあればアプリをダウンロードするだけで利用できます。従来のように高コストな端末を置く必要はないため、導入が容易です。また、時間帯を指定してクーポンを配信することもできるため、比較的来店客の少ない時間帯などに客を呼び込むことも可能です」(静岡銀行 経営企画部 企画グループ ビジネスプロフェッショナル 大石達己氏)

さらに、銀行にとっては、ポイントカードやクレジットカード、デビットカード、プリペイドカード等が消費者に浸透していくと、現金で決済する割合が減っていく可能性がある。那須野氏は、「世の中の趨勢をみるとデジタル上の決済が主流になる可能性が高く、銀行としてそこにどう絡んでいくかが課題となる中、その目的に合致する実験としても得られる情報に期待しています」と話す。

小規模の実験の場合、コストメリットはそれほど生まれない
金融インフラとしての活用は時期尚早だが、特定のパーツで導入が進む?

なお、今回のような特定の小規模なシステムの場合、ブロックチェーンの技術を活用してもコスト的には従来のASP等の仕組みと大きな変化はないそうだ。ただ、銀行間をまたぐような、大がかりなシステムを構築する際は、メリットが出てくるという。また、今回は実証実験のため、利用手数料など店舗等からの収益は発生しないが、本格展開となった際には得られる収益からシステムコストなどの費用を賄うモデルを構築していきたいとしている。

静岡銀行では、ブロックチェーンの技術について、以前から研究しており、2016年2月にはオリックス、オリックス銀行、NTTデータ、NTTドコモ・ベンチャーズ、orbらとともに共同研究を行った。

那須野氏は、「ブロックチェーン技術の可能性は非常にあると感じる一方で、金融インフラを現在と同等レベル以上の安全性や安定性を担保した上で稼働できるのかを見極めるには、もう少し時間が必要とみています。たとえば、すべての銀行が参加するネットワークや、複数の関係者にまたがる社会インフラとして入り込むのはもう少し先になるでしょう。ただし、参加者が限られた特定の範囲内で使われるタイミングは早く出てくると思います」と見解を述べる。

静岡銀行がブロックチェーン等の新領域に取り組む理由とは?
吉原商店街での成果をベースに全国展開を目指す

静岡銀行では、ブロックチェーン以外の新分野への取り組みも強化している。たとえば、2016年4月からマネーフォワードと提携した「Money Forward for 静岡銀行」の提供を開始。また、米国シリコンバレー発「日本版新事業創造ファンド」へ出資し、将来性の高い技術を持つベンチャーを支援している。

那須野氏は、「従来の伝統的な銀行業務を行っていても、将来的には業績は右肩上がりにはならない」と話す。その理由として、1つは日本全体の構造的な問題があり、静岡銀行のホームグラウンドである静岡県においても人口減に転じている。また、東京や名古屋など、静岡以外の都市圏に人口が集中する流れは続いており、県内人口の高齢化が懸念されている。そのため、「従来から親密な取引をしてきていただいたお客様が年齢を重ねられ、顧客基盤の高齢化が進むと、従来と同様のままのビジネスでは、お客様との距離が離れてしまうといった危機感があります」と那須野氏は語気を強める。

一方で、世の中のインフラを考えた場合、スマホで日常に必要な銀行取引を行う技術は普及しつつある。そうなると銀行の店舗に足を運ぶ機会は減少する。その流れの中で、基盤とする静岡以外にもエリアを広げていくことに着手しているそうだ。たとえば、静岡銀行ではインターネット支店「Web Wallet」を開設。利用者の全国展開の布石を打っている。もう一方でIT技術を活用し、金融取引の利便性を向上させて、顧客に支持される銀行になる必要があると考え、他行に先がけ「Fintech」分野への取り組みをスタートさせるなど、銀行に関わるビジネスを幅広く考えることをミッションとして取り組んでいる。

今回の吉原商店街での実証実験もFintech分野の取り組みの一環として重要な意味を持つ。消費者を巻き込んでの実験は10月中のスタートを予定。商店街には年配の経営者もいる一方で、「若い世代に伝播していく方向性で取り組んで頂いています」と那須野氏は話す。同実証実験終了後には、お買い物補助ポイントサービス「NeCoban」のサービスを、ご当地グルメを活用したまちおこし「B-1グランプリ」を主催する愛Bリーグのまちおこし団体ネットワークの協力のもと、地方自治体または国との連携も検討しながら、全国に展開することを目指している。

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