2017年4月28日8:00
一人ひとりの顧客との良好で長期的な関係を構築へ
いちはやくオムニチャネル戦略に着手してきた良品計画では、購買に至るまでの、また、購買後の顧客の導線を可視化するため、2013年にスマートフォンアプリ「MUJI PASSPORT」をリリースした。ショッピングのみならず、クチコミやレビューの投稿、店舗周辺でのチェックインなどさまざまなシーンで「MUJIマイル」を付与するといった“無印良品らしい”メニューを提供することによって、一人ひとりの顧客との良好で長期的な友好関係を築くことを目指している。
購買行動の前後に着目し、無印良品度アップ
「MUJIマイル」をさまざまなシーンで付与
無印良品を展開する良品計画では、2013年5月に、アプリ「MUJI PASSPORT」をリリースした。ポイント「MUJIマイル」の付与、クーポンの配信、商品や店舗の検索をはじめとするさまざまな機能の提供を通して、顧客との良好で長期的な関係づくりを推進している。
この背景には、オムニチャネル化の進展がある。同社は2000年に「無印良品ネットストア」を開設したが、コンスタントにアクセスはあるものの、eコマースの売り上げは思うように伸びなかった。多くの顧客は店頭で商品を手に取って確かめたり、無印良品の世界観に触れたりすることを望んでおり、Webサイトを訪れるのはキャンペーンや新商品、店舗の情報をチェックするためだったのだ。
そこで同社は2003年に戦略を転換。ネット会員に対して、店頭で提示すると割引になるクーポンを配信するといったO2Oの施策を開始した。これは販売促進の面で、大きな効果を発揮した。
しかしこの方法では、クーポン利用件数などの数値的なデータは把握できても、誰がどのような経緯をたどって来店したかはわからない。さらに、購入後、商品をどのように使ったのか、満足したのか不満だったのかといった情報も得られない。
そこで「MUJI PASSPORT」は、オムニチャネル時代の、一人ひとりの顧客の動線を可視化することを目指して開発された。購買をゴールとするのではなく、その前後の行動に着目していることが大きな特徴だ。
例えば、「MUJI PASSPORT」の主要な機能の1つに、ポイントプログラムの「MUJIマイル」がある。この「MUJIマイル」は、店舗やネットでのショッピングばかりでなく、意見やレビューの投稿、「ほしい!」「持ってる」ボタンによるクチコミの拡散、クレディセゾンとの提携クレジットカード「MUJI Card」の利用、店舗周辺でのチェックインなどさまざまなシーンで貯まるように設計されている。
「MUJI PASSPORT」の企画・開発を主導した良品計画 WEB事業部長の川名常海氏によれば、「無印良品への参加度、言うならば“無印良品度”によってマイルを付与する仕組みです」という。
会員比率は件数で30%、総売上高の45%
「MUJI PASSPORT」は2017年1月現在で860万DLを記録している。ダウンロード促進の施策は、日々、店頭レジで、販売員が「MUJI PASSPORTをお使いですか?」と尋ねることのみ。これとクチコミで周知が広がり、会員数は増え続けている。
ちなみにこのアプリのダウンロードの際、属性データなど個人情報の入力は一切不要。ただし「無印良品ネットストア」および「MUJIカード」の利用によって獲得する「MUJIマイル」を合算するには、個々の利用者の意志で、それぞれの会員情報を紐づける必要がある。
現在、店頭レジで「MUJI PASSPORT」を提示するのは、10人中3人。会員の客単価は非会員の1.6倍。総売上高に占める会員による売り上げの比率は、45%に上っている。これだけを見ても、「MUJI PASSPORT」会員の“無印良品度”の高さがうかがえるというものだ。
今後もオムニチャネル化はますます進展していくものと思われるが、同社の場合、総売上高に占めるeコマースの比率は8%。WEBサイトにアクセスした顧客のうち、eコマースでの購入経験がある人は40%。購入場所としては、これからも店頭が重要なポジションを占めることは間違いなさそうだ。
店頭でのスムーズで快適な買い物をサポートするため、同社では「MUJI PASSPORT」に決済機能を追加することを検討している。
「来店前の商品検索、検討、購買、決済、コミュニティへの参加までを一連の体験としてデザインすることで、店頭での顧客経験価値をより高めることができると考えています」(川名氏)
“無印良品らしい”体験を提供するツールとして「MUJI PASSPORT」がどのような役割を担っていくか、今後の展開が注目される。