2019年8月30日8:15
事業戦略の要となるプライシングに新たな選択肢を提供
価値に見合った価格を設定する“価格の民主化”を標榜
後払い決済サービス「NP後払い」を展開するネットプロテクションズでは、このオプションとして「あと値決め」の提供を開始した。商品やサービスを購入するユーザーが、実際に使ってみた後で、自身の満足度に応じて価格を決定し、支払うという、これまでになかった新しい購買・決済の仕組み。ユーザーが享受した価値に見合った価格を設定する “価格の民主化”を実現することによる、価値あるサービス・クリエイターの信用創造が目的であると、ネットプロテクションズは説明する。サービス開始日の2019年8月29日、同社では都内で「ネットプロテクションズ あと値決め発表会」を開催。同日からサービス提供を開始した2社を含む導入企業8社も会して、プライシング戦略の重要性や今後の展望などについてアピールした。
「NP後払い」の新たなオプションサービス「あと値決め」
自身の満足度に応じてユーザーが価格を決定
未回収リスク保証型の後払い決済サービス「NP後払い」を展開するネットプロテクションズは、ユーザーが実際に商品・サービスを体験した後で、自身の満足度に応じて“値決め”を行う「あと値決め」の提供を、8月29日に開始した。「NP後払い」をはじめとする同社の後払い決済のオプションサービスとして提供する。
価格合意と支払いは、商品・サービスの利用・体験の前に発生するのが一般的だ。これに対して「あと値決め」は、商品・サービスの利用・体験後にユーザーが自ら価格を決定し、支払いを行う、従来とはまったく異なる購買・決済の仕組み。「大いに興味があって買ってみたが、いざ使ってみたら期待ほどではなく、がっかり」という経験を持つユーザーは少なくないはず。「あと値決め」は、そのリスクを軽減し、購買決定を後押しする。
ユーザーが決済方法で「あと値決め」を選択すると、事前の価格合意および支払い不要で商品・サービスが提供される。ユーザーは商品・サービスの利用・体験後にメールで通知される値決めフォームにより、満足度に応じて価格を決定。後日届けられる請求書にもとづいて、コンビニ等で支払いを行う。クレカや銀行口座の登録や書類の提出、アプリのダウンロードなどの事前手続きは一切必要ない。
値決めフォームの入力操作はシンプルだという。「あと値決め」の開発には、同社とリクルートグループのニジボックスとが共同で当たったが、ニジボックス 執行役員 丸山潤氏によると、開発に当たって最も重視したのは、誰もが快適に使えるUI/UXの設計だったという。
そればかりでなく、手元の現金との兼ね合いや店員の目などを気にすることなく、純粋に自身の満足度に応じた評価をすることが可能なことが、「あと値決め」の極意。これによって、ユーザーが得た価値に見合う正当な価格設定が可能になると同社は期待している。
「あと値決め」では、事業者が定めた最低価格を提示した上で、事業者がそれぞれに設定する「注文のしやすさ」「対応品質」といった各種項目について、ユーザーが直感的に評価を与え、それに対応して価格が決まっていく仕組み。事業者は、各項目の評価に照らして、どの要因で顧客満足度が上がったのか、あるいは上がらなかったのかを把握することができる。後払い決済料は通常通り発生するが、「あと値決め」の利用料は“あと値決め”。0円となる可能性もあるという。事業者の導入希望は8月29日から受付中だ。
まずベアーズとエアークローゼットが利用を開始
先進企業を中心に計8社が「あと値決め」導入を決定
「あと値決め」スタートの8月29日と同時にサービス提供を開始しているのは、ベアーズとエアークローゼットの2社。
家事代行のベアーズでは、専用サイトから初回お試しプランを申し込んだユーザーに対し、「あと値決め」を提供する。家事代行サービスを「使ってみたい」人は9割に上っているにもかかわらず、「使ったことがある」人は3割にとどまっているという調査結果がある。一方で、ベアーズの家事代行サービスの利用者の顧客満足度は96.5%。ともかく一度使ってもらうことが重要なポイントなのだが、初回利用のハードルは高く、その要因のひとつが価格。「最低価格を抑えて申込のハードルを下げ、満足感を得ていただき次回利用につなげることで、実質的に利益を減らすことなく申込のハードルを下げることができると考えています」と、ベアーズ 取締役 片切真人氏は語った。
ファッションレンタルを手がけるエアークローゼットでは、8月29日から9月6日までの期間限定で、当該期間に新規登録したユーザーを対象に「あと値決め」を提供。ユーザーから月額会費を越えるプラスアルファの対価を獲得した場合は、担当スタイリストに還元することで、ユーザーの満足度とスタイリストの価値提供をしっかりリンクさせることが目標。キャンペーン終了後に結果を集計・解析し、恒常的なサービス提供に向けて体制を整えていく考えであると、同社代表取締役社長兼CEO 天沼聰氏は述べた。
9月以降のサービス開始を決めている各社も導入の経緯、今後への期待などについてコメント。
「利用者の満足度に応じた報酬を得られることで、美容師が経験年数に関係なく伸び伸びと仕事に邁進できる環境を整えたい」(フリーランスの美容師のシェアサロン、Gotoday shaire salonの取締役 大池基生氏)
「まだまだ認識が浸透していないシェアリングエコノミーを、安心して試していただけるようにしたい」(社団法人シェアリングエコノミー協会 法人開発部長 新井博文氏)
「ミュージカルやライブに少しでも興味があったら、料金で二の足を踏む前に、とにかくまず見てもらいたい。それがアートの発展のためにもなると思います」(P.A.Tokyo 代表 堂本麻夏氏)
「かねてより自分の会社で給料を自分で決めてもらうという取り組みをしてきた。勉強会を開催しており、参加費を各々に決めてもらうのがいいと思っていたが、ちょうどいい仕組みがなく困っていたところに『あと値決め』が登場したので、迷いなく導入を決めた」(一般社団法人自然経営研究会 代表理事 武井浩三氏)
「BtoBで培ってきたコーチングのスキルをBtoCにも生かしたいと考えている。Web上でAIが最適なクラウドサポーターをマッチング。6回のセッションを行った上で『あと値決め』で価格を決定します」(エール 代表取締役 櫻井将氏)
「人に癒しを提供し、エネルギーを補給してもらうことを目標に、コミュニティ型ホステルを経営しています。満足度に応じて値段を決めてもらえれば、こちらも満足です」(LINDA HOTEL SYSTEM 取締役 張本舜奎氏)
プライシングはこれからの事業戦略の要
一律固定価格のマスプライシングは早晩時代遅れに――?
「ネットプロテクションズ あと値決め発表会」の終盤では、これからのプライシングのあり方についての議論が展開された。市場そのものの拡大が期待できない昨今、企業には利益率の改善、販売機会損失の最小化が求められており、そのキーになるのがプライシングであると、ネットプロテクションズ 「あと値決め」主担当の専光建志氏は指摘。商取引の黎明期には1対1で時価で取引されていたものが、現在ではマスプライシングの台頭により企業主導の一律の固定価格がまかり通っており、それが当たり前と思われているが、この現象は「長期的に見れば一過性のもの」と専光氏は言い切った。今後はAIやフィンテックを活用し、需給/個人に合わせた1対1の時価取引が主流になっていくだろうという見解である。
この流れを牽引しているのは言うまでもなくテクノロジーの進展だ。多様化するプライステック・サービスが、価格のあり方そのものの見直しを迫っている。
BANK 代表取締役兼CEO 光本勇介氏は、自著をネット上で価格0円で販売し、読後に自由意志で課金してほしいと申し出たところ、1冊当たり平均5,000円、1カ月で1億円の収益が上がったことを報告。空 CEOの松村大貴氏は、今日の時点で最大の利益を出すのか、長期的視点でLTVの最大化を図るのかの判断が重要で、そのコントロールがしやすいのもポストプライシング(後払い)の利点だと指摘した。
新しい1対1の時価取引を実現するサービスのひとつが、ネットプロテクションズの「あと値決め」となる。