2020年6月26日7:30
TISは、2020年6月24日に記者説明会を開催し、キャッシュレス決済への取り組みを紹介した。決済の世界にはさまざまなプレイヤーが参入しているが、TISではデジタル口座、モバイルウォレット、API化、ID連携、データ利活用など、他社との差別化要因となるサービスをサポートしている。また、BtoC向け事業「ASTARI」の開始に加え、スーパーシティ、MaaSプラットフォーマー・オペレーターへの取り組みもスタートしている。
ブランドデビットのSaaSサービスは国内8割のシェア
デジタル口座とIDの重要性が増す?
TISは、1971年創業で、当時から大手カード会社の基幹システムを担ってきた。TIS デジタルトランスフォーメーション営業企画ユニット 副ジェネラルマネージャー 中村健氏は「クレジットカード上位の50%程度のシェアを持っていて、業界シェアは№1であると自負しています」と話す。TISでは「PAYCIERGE(ペイシェルジュ)」のブランド名でサービスを展開。2010年代には、複数の決済サービスを投入しているが、「ブランドデビットのSaaS型サービスでは、日本国内の発行枚数で80%のシェアを持っています」と中村氏は自信を見せる。ペイシェルジュは後払い(クレジット)、前払い(プリペイド)、即時払い(デビット)のプロセッシングシステムのすべてに対応しており、近年はモバイルウォレットや加盟店向けサービスにも力を入れている。
日本でも民間消費支出に占めるキャッシュレス比率は年々増加している。政府も2025年は40%を目指しているが、2019年度の実績は26.8%となるなど、拡大が続いている。今後もクレジットカードなど主要な手段の成長は続くが、TISでは「デジタル口座」が銀行口座の使い勝手を改善しながら購買データ取得・活用により、総合的な生活・金融サービスの起点になるとみている。デジタル口座やIDの重要性が増し、新たなプレイヤーによる金融収益の拡大、顧客囲い込みなどが進むとした。そうした中、TISではデジタル口座、モバイルウォレットサービス、社外とのサービス連携が速やかにできる環境の整備、セキュリティノウハウの提供、データの利活用などを支援する。ペイシェルジュの利用企業は従来、クレジットカード会社、銀行が中心だったが、最近では交通、通信キャリア、EC、コミュニケーションなどからの引き合いも増えている。
昨今は、決済やポイントサービスのプレイヤーが乱立しているが、取引のボリューム不足でビジネスモデルが確立できていないケースも多く、ヤフーとLINEの統合発表で第一幕が終了したとみている。第二幕となる現在は、顧客ID基盤を持っている通信、交通、流通、金融などが新たな技術を携えて、DX(デジタルトランスフォーメーション)にチャレンジするフェーズとなり、中村氏は、注目企業として、交通系電子マネー「Suica」を展開するJR東日本、巨大な系列関係を活かせるトヨタ自動車の動向を挙げた。
また、新型コロナウィルス感染拡大の影響はあるが、企業にとって決済は優先課題の1つである点は変わらず、小売や飲食のEC化、宿泊やレジャーの3蜜回避、金融サービスの取り揃えがキーになるとみている。特にリテール決済に注目しており、ECの潮流、非接触領域(電子マネー、タッチ決済、コード決済、ウェアラブル)などを捉えていきたいとした。
決済データの利活用で「Beyond Payment」を目指す
ミニプログラム向けのWidget配信プラットフォームサービス提供へ
TISでは現在、新興プラットフォーマーに対するデジタル口座、デジタルウォレットサービスに注力している。また、生活や金融など、さまざまなサービスを集約した「ミニアプリ」による各種サービスの提供も進めていく。発行者側だけではなく、店舗にも決済の利便性や顧客体験を提供することで、決済データの利活用で見えてくる豊かな未来像「Beyond Payment」を目指す。
TISのデジタルウォレットサービスは、NFC、QRコードのいずれのインターフェイスにも対応しており、ウェアブルのプロジェクトも進めている。また、チャージ元の決済手段とセットで提供が可能だ。これをフルセットで提供した事例がトヨタフィナンシャルサービスの「TOYOTA WALLET」だ。
また、ミニアプリ、スーパーアプリへの対応として、金融、交通、店舗、住む・働く、行政、ポイント、学ぶ、つながる、遊ぶ、といった機能をAPI経由で追加できる「Widget配信プラットフォームサービス」も提供する。
さらに、加盟店に対し、「QR決済ゲートウェイサービス」を展開しており、大手商業施設のパルコに採用された。「QR決済ゲートウェイサービス」は、国内外の主要なQR決済ブランドが利用でき、加盟店の審査・売上管理機能をワンストップで提供可能だ。なお、加盟店審査・申し込み機能は、総務省の2020年度統一QR「JPQR」普及事業にのWEB受付システムでも使用されている。
外食業界向けには、セルフオーダー・モバイルオーダー・モバイルPOSのソリューションを提供するベンチャー企業のOkageとも連携し、事前注文・決済サービスなどを提供している。
BtoC向け事業「ASTARI」、スーパーシティ、MaaSへの取り組みは?
ブロックチェーンならではのビジネスモデル構築へ
新たな動きとして、ユーザーの健康活動をサポートする消費者向けアプリ「ASTARI(アスタリ)」を提供しており、ヒマラヤ、大屋、三福ホールディングスが参画している。ASTARI の利用者は、アプリ上でヘルスケア情報(歩数、 体重、 食事)を管理でき、歩数に応じた「ASTARIマイル」付与機能で獲得した「ASTARIマイル」に応じて「ASTARI参画企業」から提供されるお得なクーポンなどに無料で交換だ。今後は、「Bank Pay」によるスマートフォン決済機能の提供も予定している。
また、エネルギー・交通など個別分野に閉じた形ではなく、丸ごと未来都市を作る「スーパーシティ」の“都市OS”において、決済基盤を提供していく。すでに福島県会津若松市で決済分野を担っており、3~5年計画で38都市の計画に参画している。TISでは、モバイルウォレット「会津財布」を開発し、2020年下期から運用を開始する予定だ。なお、会津財布では、Bank Payのホワイトラベル機能を利用する。
MaaS(マース:Mobility as a service)領域では、MaaSプラットフォーマーとして決済機能を提供する。すでに経路検索、予約、チケット化するプラットフォームを完成させており、2019年11月26日~2020年2月29日までの期間限定で実施された「八重山諸島における離島船舶、 バス、 タクシーによる観光型MaaS実証実験」でも活用されたという。19年度は八重山諸島のみだったが、20年度は沖縄本島に広げて実施される。
なお、ブロックチェーンに関しては2016年から海外ベンチャーへの投資等を行っており、決済やポイントへの適用に関する実験を続けている。中村氏は、本格的な普及には、「1事業者だけではなく、ブロックチェーンでないと価値を見出せないビジネスモデルが創出される必要がある」としたうえで、「この波は来ると読んでおり、準備を続けています」と説明した。