大阪・関西万博における全面的キャッシュレスの挑戦と成果(2025年日本国際博覧会協会)

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2025年12月17日8:20

大阪・関西万博では、国際博覧会として初めての試みとなる全面的キャッシュレス決済を導入した。184日間にわたり、多様なキャッシュレス決済手段に対応することで、来場者に快適でスムーズなサービスを提供するとともに、万博のコンセプトである「未来社会の実験場」として、日本におけるキャッシュレス化の加速にも挑戦した。万博におけるキャッシュレス決済の具体的な取り組み内容と、その成果を紹介する。(2025年11月19日開催 ペイメントナビ15周年記念セミナー「キャッシュレス8割ビジョン」の講演より)

公益社団法人2025年日本国際博覧会協会 企画局 参事 谷川 淑子氏

現金を扱わない万博は史上初
海外ブランドを含め70超の決済手段に対応

本日は大変貴重な機会をいただき、ありがとうございます。大阪・関西万博(以下、万博)においては、184日間にわたり全面的キャッシュレスの実証を行いました。本日はその内容と11月17日に発表した効果検証の結果についてご紹介させていただきます。

私は2021年7月、今から4年前に経済産業省から2025年日本国際博覧会協会(以下、協会)に出向してまいりました。経産省時代は決済分野には全く携わっておりませんでしたが、協会では「全面的キャッシュレス」の企画立案から仕組みづくり、運営、そして効果検証までの一連業務を担当してまいりました。本日のお話の中では運営に当たって会期前からどのような準備をしてきたのかといった点も含めてご説明させていただきたいと思います。

まず、全面的キャッシュレスの概要をご説明いたします。万博は国家のプロジェクトであり、一過性のイベントではございません。このため、万博会場を未来社会の実験場と位置付けて、万博史上初めて、現金を一切扱わない会場運営に挑戦させていただきました。なお、直近のドバイ万博は、大変先進的で大規模なものでしたが、会場内決済では現金が扱われておりました。

今回の万博の会期は184日間の6カ月。累計来場者数約2,900万人と大変多く方々にお越しいただきました。また、会期後半には、連日一日20万人を超える非常に多くの来場者が訪れましたが、もし大混雑する店舗において現金を扱っていたら、決済処理の負荷に運営が追いつかなかったと考えております。

会場内では、協賛企業であるSMBCグループからご提供していただいた決済端末とNECからご提供いただいたPOSシステムを活用して決済運用を行いました。1つの端末で70を超える決済ブランドに対応し、海外からお越しのインバウンドの来場者を含めて、皆様が日頃から使い慣れている決済手段を会場内でも問題なく使っていただける環境づくりを整えました。また、社会的な実証として経産省が進めている「JPQR Global」も、一部会場内で運用いたしました。さらに、NECにご協賛いただいて、顔認証で未来型の手ぶら決済を体験できるという取り組みも実証させていただきました。

加えて、協会が来場者向けアプリサービスとして運用しました「EXPO2025デジタルウォレット」において、SMBCグループにご協賛をいただき、万博独自の電子マネー「ミャクペ!」を運用いたしました。「EXPO2025デジタルウォレット」は来場者の方に万博をもっと楽しんでいただくために創ったサービスであり、「ミャクペ!」には2つの役割があります。1つ目は、初めてキャッシュレス決済に触れる方に、簡単に登録・決済ができる機能を提供すること、2つ目は「ミャクペ!」を利用することにより万博会場での特別な体験を提供することです。「ミャクペ!」で決済することによって利用者のステータスが上がるミャクミャクリワードプログラムと連動していて、ステータスが上がると会場内で特別な体験をすることができます。協賛者であるSMBCグループに、会期前からVisaタッチ決済で会場外のどこでも決済できる環境をつくっていただきましたので、万博に来場する前から「ミャクペ!」を日頃使いしていただき、ステータスを上げて、来場した際の楽しみを増やしていく万博への導線づくりにもつながっていました。なお、「ミャクペ!」の実証結果は、EXPO2025デジタルウォレットの成果の一つとして、12月以降、発表させていただきたいと考えています。

万博会場では、決済端末はSMBCグループの協賛により、固定型のstera terminalとモバイル型のstera mobileを計1,350台、POSシステムはNECの協賛により、TWINPOS Sxを1,000台提供していただき、会場内店舗に無償貸与いたしました。これらの決済インフラは通常、運営側が予算を付けて発注することが一般的ですが、キャッシュレス決済の事業は社会実証として位置づけて運用しましたので、参加いただく協賛企業を募集して、いっしょに取り組んでまいりました。

また、会場内での現金チャージ機、ATM等の設置、運用のご協賛など、他にも多くの企業からの協賛サービスのご提供をいただき、全面的キャッシュレスの取り組みを支えていただきました。

各方面と連携をとりながら
二重、三重の対策を準備

協会では2022年4月に、万博会場で全面的キャッシュレスを運用することを発表いたしました。大変大きく報道されたことにより、かなりの反響がありました。思っていたほどネガティブな反応は多くありませんでしたが、一部から「現金の取り扱いをしないで本当に大丈夫なのか」、「高齢者や修学旅行者にはどう対応するのか」といった心配の声をいただきました。

これらのキャッシュレス手段をお持ちでない方に対するサポートについては、会期前からしっかり準備してまいりましたので、ご紹介させていただきます。例えば高齢者の方でキャッシュレス決済手段をお持ちでない方には、先ほどご紹介したEXPO2025デジタルウォレットの「ミャクペ!」のご利用が可能ですが、修学旅行でお越しになられる小学生、中学生の中には、スマホを持ってはいけないという学校の制限があり、物理的に対応する手段がないケースがありました。このため、スマホを持たない学生の方でも会場内でお使い頂けるプリペイドカードを事前にご準備いただいて決済する方法を検討しました。万博会場内では、TOPPANエッジの協賛により、交通系、楽天Edy、WAON、nanacoの4つのブランドの電子マネーを現金でチャージできるチャージ機を営業店舗、コンビニ、公式売店など来場者が立ち寄りやすい場所に65台設置して頂き、運用を行っていただきました。

また、会場内にキャッシュレスのサポート施設として、西ゲート近くに「マネープラザ」を設置しました。外貨両替機や、海外のクレジットカードで日本円が引き出せるATMなどを設置したほか、会期中を通して日英の言語に対応できるスタッフが常駐して、キャッシュレス決済にお困りの方のサポートをさせていただきました。

さらに、修学旅行などの教育旅行については、万博開幕の2年前から学校関係者や旅行代理店の皆様に対して、説明会などを通じて「事前に会場内で対応可能なプリペイドカードをご用意いただいてからお越しください」という周知徹底を行いましたので、結果として会場内で大きなトラブルが起きることはありませんでした。

しかしながら、「プリペイドカードを落とした、忘れてきた」という万が一のケースに備えて、会場内で協会がプリペイドカードを販売させていただきました。1,000円のチャージ入りのものと、200円の単体のカードを用意して、それぞれ1日平均27枚、5枚の合計32枚の販売実績がありました。万博の来場者数は2,900万人、1日当たりで約15万人が来場しましたので、プリペイド購入者の割合は0.02%にとどまりました。このように、大半の来場者がいずれかのキャッシュレス決済手段をご準備の上でお越しいただいたことが明らかとなりました。

加えて、訪日外国人の方については、日本の電子マネー決済に不慣れな面もあるため、JR東日本に観光施策ツールでもある「Welcome Suica」をご協賛いただき、外国人の方で本当にお困りの方に限って無料配布するサポートを実施させていただきました。

なお、協会では、不測の事態に備えてBCP(事業継続計画)の対策を準備しておりました。会場内の決済端末は有線ですので、通信障害により有線に不具合があれば一時的にモバイル端末に切り替えて対応する。復旧が進まない場合には、協会が判断して現金決済に切り替え、店舗が現金で対応する際の両替サポートを協会が行う形を想定しておりました。

PJAと連携し“現金不可”の周知を拡大
メディアやSNSもPRに貢献

先ほどから会期前から周知を徹底したと申し上げておりますが、協会単体で周知活動を実施していた場合、周知が広がらずにきっと上手くいかなかったと考えています。

今回は、万博での全面的キャッシュレスの周知を全国に広めるための強力な協力者として、一般社団法人キャッシュレス推進協議会(PJA)に多大なご協力をいただきました。PJAとは、キャッシュレス周知活動のみならず、機運醸成・イベント開催・キャッシュレス教育の普及・その他関連活動における連携推進協定を結ばせていただいて、同協議会の会員の中で、万博のキャッシュレスの周知にご協力いただける協力企業を募っていただき、結果17社が協会と一緒に周知活動を推進してくださいました。全国津々浦々にポスターを配布、掲載いただき、駅構内での大規模なサイネージ広告も展開いただくなど、積極的なご協力を頂き感謝しております。

また、周知促進の即効薬としては、メディアによる万博PRの効果も大きかったと考えています。万博の開幕ぐらいのタイミングから、万博に持って行ってはいけないもの、用意しなければならないものとして注意喚起いただく中で、会場内は全面的キャッシュレスで現金が使えないことを併せて伝えていただいたことが、周知拡大につながりました。

さらに、来場された方が自身のSNSで、「来場するときに気をつけること!現金が使えない!」と数多く発信されており、これらの情報が広がることにより、万博が全面的キャッシュレスであることを来場者が目にする機会がさらに増えていったのかと思っています。

来場者1万人の声を収集
9割が「便利」「今後も使いたい」と回答

ここからは全面的キャッシュレス決済の効果検証の結果をご紹介してまいります。この内容は11/17に協会でプレス公表を行い、新聞やテレビなど多くのメディアでも取り上げていただき大きな反響がありました。また、経済産業省でキャッシュレスの新たな目標設定を検討されている「キャッシュレス推進検討会」においてもご報告させていただきました。万博での実証を「無事やりました」「良かったです」で終わらせるのではなく、しっかり効果を検証して、これからの日本社会のキャッシュレス普及施策の推進に活かしていくことが、この取り組みの目的となります。

来場者への調査は、会期終了直前の2025年10月1日から13日の間にオンラインでアンケートをとらせていただきました。有効回答数は1万633件となります。一般的にこのようなのアンケート調査では1,000件くらいの回答を集めるのも決して容易ではないのですが、その10倍の1万以上の回答をいただけたのは、来場者の中に万博に貢献したいという方が多くいらっしゃったということだと思っています。これだけ多くの回答が集まりましたので、調査結果もかなり精度の高いモノになっていると思います。

アンケートでは、来場者に対して、実際に会場内で利用されたキャッシュレス決済について、現金との比較での利便性や快適性について調査しました。現金よりも効率的、便利だったかの質問に対しては、「とても効率的・便利」「まあ効率的・便利」との回答が全体の94%、会場内のキャッシュレス決済の使いやすさの質問には、「とても使いやすい」「まあ使いやすい」が86%と大変高い評価をいただき、会場内で来場者のみなさまがとても快適にお過ごしいただけたことが証明できたと考えています。

また、万博後のキャッシュレス決済の利用意向については、今後の日常生活でもキャッシュレス決済を「ぜひ使いたい」「使いたい」が91%と、大変ポジティブな回答をいただき、万博をきっかけに日常利用へと行動が変化する可能性が示される結果となりました。

個人的には、会場内の自動販売機でのキャッシュレス決済の利用体験が、特に来場者の行動変容に大きな影響をもたらしたのではないかと考えています。タッチ決済などが使える自動販売機は万博会場外にも多く設置されていますが、私自身もそうでしたが、会場外では、あえてキャッシュレス決済を使わずに現金で購入している方が多いのではないかと思います。しかしながら、万博会場内の自動販売機は現金が使えない制約があるため、自動販売機の決済を万博会場ではじめてキャッシュレスで支払われた方が多かったのではないかと。実際に自動販売機でキャッシュレス決済を使ってみた結果、「意外と簡単」、「会場外でも使ってみよう」と思った方が多いのではないでしょうか。このように自動販売機での購入体験をきっかけに、少額決済から、キャッシュレス決済の日常利用がどんどん増えていくのではないかと期待しています。

クレジット比率が半数弱
国内コード決済を合わせて8割強に

次に、会場内での決済データの調査概要をご紹介します。SMBCグループにご協賛いただいて決済端末で決済を行った235店舗に加えて、協会が提供する決済システム以外を使って運用したコンビニなど2店舗、海外15カ国のパビリオン、自動販売機などのデータも足し合わせて分析した結果となります。

また、三井住友カードに多大な協力をいただいて、VisaおよびMastercardを中心としたカード会員のデータをもとに利用者の特徴も分析しております。こちらは会期末までではなく、4月13日から8月末までのデータを集計したものとなります。

日本市場における2024年の決済状況は、現金の比率が57.2%を占め、クレジットカード35.5%、コード決済4.1%、電子マネー1.9%などとなっており、現金以外では、クレジットカードが大半を占めています。一方で現金が使えない万博会場においては、クレジットカードの比率は47.1%にとどまり、逆にコード決済が36.0%と、日本市場全体の状況と比べるとかなり大きな比率を占めています。少額決済を中心にコード決済が活発に使われたという傾向の表れだと思います。

決済手段別の内訳を見ると、全体の5割弱を占めているクレジットカードではやはりVisa/Mastercardの比率が高くなっています。コード決済ではPayPayを筆頭に国内コード決済がほとんどを占め、海外QRはごくわずかです。電子マネーの中で最も利用が多かったのは交通系ICでした。クレジットカードと国内コード決済の合計で、全体の8割以上を占めるという結果になりました。

また、会期6カ月の月別の売上の推移を見ますと、後半になるにつれ売上が伸びていきましたが、決済手段の構成比には特に大きな変化は見られませんでした。

次に利用者の特徴について、日本人リピーターの1来場当たりの利用金額のデータを分析しました。一般的にテーマパークなどでは、リピートが重なるにつれ単価がどんどん落ちていくといわれていますが、万博では、20回目の来場でも1~5回の来場と比較して約6%の減少にとどまったという結果になりました。会場内の店舗において随時新しいグッズを発売したり、イベントを開催したりして来場者を飽きさせない工夫をしたことが、この結果に結び付いているのだと思います。

また、会場内決済利用者と未利用者の志向について、三井住友カードのAIを用いて分析いただきました。会期前半は「アート&カルチャー施設好き」の来場者が多く、後半は「レジャーパーク好き」の方がレジャー感覚で多く来場されていたことが分かります。

店舗は業務効率化に期待
課題は手数料などコストの増大

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