2012年8月24日8:47
ソーシャル時代の戦略的企業文化論
総 論: 支持・共感される企業文化を持たない企業は
淘汰される時代が到来
経営理念やスローガンなどのステートメントを掲げる企業は多いが、それが単なるお題目と化しているケースも少なくない。これらのステートメントを企業文化構築の礎とするためには、教育・研修などを通じて全社的な浸透を図るとともに、積極的な権限委譲により従業員の当事者意識を醸成していくことが肝要であろう。
顧客接点の担当者は「企業の代表」となり得ているか
「Twitter、Facebookをはじめとするソーシャルメディアにはまだまだ勢いがあり、企業による活用が本格化するのはこれから」という世の風潮に疑問符を投げ掛ける雑誌記事があった。『日経デジタルマーケティング』2012年8月号によると、2012年6月末時点でファン数が1万人以上の国内企業のFacebookページ127件のうち約12%、15のページが同年4月3日比でファン数を減らしたというのだ。
もちろんFacebook自体のブームが沈静化し、先行して積極的に利用していた一部の生活者の中で、“Facebook疲れ”とも言える状況が現れつつあることの影響も否定できない。しかし、いったんファンになった生活者が離脱する主な原因は、やはり、そのFacebookページに“魅力”が足りないからではないだろうか。
“魅力”とはすなわち、受け手にとって、価値のある情報が提供されているということである。この部分が不十分でファン離れが進んでいるケースの中には、企業のFacebookページ担当者に十分な裁量が与えられておらず、結果、無難な発言にとどまっている場合が 少なくないのではないだろうか。
確かに“炎上”などというワードが飛び交うインターネットの世界で、不用意な情報発信は避けるべきであり、企業が慎重な姿勢を示すのも無理はない。特に、ファン数が増え、実験的な段階を終えて、本格的なメディアとして機能し始めたFacebookページにおいてはなお さらであろう。しかし一方で、Facebookページ担当者が社内外のステークホルダーとのコミュニケーションを担うに十分なナレッジやスキルを備え、なおかつ、その企業を代表してこれを取り行う裁量を与えられていれば、過度に慎重になる必要はないはずなのだ。
今回の特集にご寄稿いただいたダイナ・サーチ、インク代表の石塚しのぶ氏が、「サービスの生産活動においては、常に顧客という相手があります。顧客は不均一であり、予測不可能です。ですから、生産にかかわる従業員に臨機応変な対応や創造性が要求されます」と指摘するように、現代のビジネスシーンにおいては、顧客一人ひとりに対して画一的ではないコミュニケーションを展開することが求められている。企業が生活者と同じ地平に立ってコミュニケーションを行うソーシャル時代において、その必要性はますます高まっていると言える。しかし、多様な顧客接点の担当者それぞれが、企業を代表してコミュニケーションを行うに足る存在となっていなければ、その実現は難しい。
それではなぜコミュニケーション現場の担当者が企業を代表してコミュニケーションを行うに足る存在となれないのか。その原因を教育不足に求める向きもあるだろうが、付け焼刃の教育では対応マニュアルは身に付けられても、臨機応変な対応は望むべくもない。自社の理念を戦略的に独自の企業文化に落とし込み、顧客接点を担う現場担当者にまで浸透させていくことが求められているのだ。そこで今回の特集では、“良き企業文化”の醸成に積極的に取り組む企業のケーススタディを中心に、今、求められる戦略的企業文化のあり方を探ることとした。