2013年4月1日8:00
魚の情報をNFCスマートフォンで取り込めるアプリ「Ikesu」を提供
1万人以上の利用者がサービスを体験
サンシャイン水族館は、2013年2月7日~4月7日までの2カ月間、スマートフォンに水族館の魚の情報を取り込み、楽しめるサービスを実施している。すでに、アプリのダウンロード者は1万人を突破。館内では、水槽脇に設置した魚名板に取り付けられたNFCタグやQRコードにスマートフォンをかざす様子が至る所で目にできる。
Ikesuの『魚図鑑』で来場者に魚の情報を発信
NFC技術を利用して楽しみながら館内サービスを提供
「当初は2カ月で1,000人程度を想定していましたが、すでに1万人以上がスマートフォンアプリ『Ikesu』を利用しています。想像以上に利用者が多く、受け入られるサービスであることが分かりました」(株式会社サンシャインエンタプライズ 事業推進部 主任 梅原貴志氏)
サンシャイン水族館は、2011年8月にリニューアルオープン。従来はファミリー向けの要素が強かったが、「天空のオアシス」というコンセプトのもと、ファミリーはもちろん、カップルなどでも楽しめる空間となっている。以前は年間90万人前後の来館者だったが、リニューアル後1年間で約224万人の入場を記録。すでにオープンから約18カ月で来館者数300万人を達成している。同水族館では2013 年4月7日まで、水族館の30種類の魚情報を取り込み楽しむことができるO2O(Online to Offline)マーケティングのためのスマートフォンアプリ「Ikesu」を実施している。
来館者は、Ikesuが動作するスマートフォンにより同サービスを利用できる。アプリ名は、「Ikesu -Touch Aquarium-」で、App Store、Google Playから無料でダウンロード可能だ。来館者は、水族館に設置したNFCタグもしくはQRコード付きのスマートポスターを使うことで、煩雑な操作なしにIkesuアプリをインストールすることができる。また、水族館から帰った後も、スマートフォン画面を水槽に見立てて集めた魚を泳ぎ回らせたり、水槽に「サンゴ」や「岩」などのアイテムを配置したり、水槽の様子をFacebookで友人にシェアすることができるという。
サンシャイン水族館を運営するサンシャインエンタプライズでは、大阪 海遊館で実施されていたIkesuのニュースを読み、魚の解説ができるアプリとNFC技術に興味を持ったという。
「Ikesuアプリが利用者にとって分かりやすかった点、また、水族館は教育の側面もあるので魚名などの情報を発信したいと考えました。サンシャイン水族館には、魚名などの解説板は雰囲気を重視し必要最低限に絞っています。Ikesuの『魚図鑑』であれば、弊社が実施したいことが形になると考えました」(梅原氏)
また、当然、利用者に楽しんで利用してもらうことで集客につなげる期待もあったそうだ。そのため、Ikesuのアプリを提供するブリリアントサービスにコンタクトを取り、2012年10月にサービスについて詳しい説明を聞いたという。そこから約4カ月後の2月7日にサービス開始に至った。
今回のサービスは試験導入ということもあり、サンシャイン水族館では魚のデータなどを提供したものの、ICタグやアプリケーションの費用は負担していない。また、キャリアからデモ機を提供してもらい、NFCやQRコードの読み取り精度等について検証している。それがきっかけとなり、携帯キャリア3社、ブリリアントサービスとの5社共同のリリースを発表したことにつながった。
15%の来場者がIkesuアプリを楽しむ
最高で1日約500件のダウンロードを記録
サービス開始以前は、サンシャイン水族館のスタッフもNFCについて詳しく知らなかったそうだ。そのため、どの程度、利用者に受け入れられるのか不安だったという。梅原氏は、「NFCでタグを読み取るというよりも『Suica』のようにリーダにタッチするシステムをイメージしていました。そのため、NFCについて認知してもらえるのかが心配でした」と当時の心境を述べる。
現状、NFC機能搭載のスマートフォンはまだそれほど多くないため、今回の試験導入ではおサイフケータイやQRコードに対応できるシステムとして提供している。また、NTTドコモとKDDI、ソフトバンクから計30台のデモ機を提供してもらった(うち5台は開発に使用)。デモ機は館内のスタッフが持つことで、利用者がわからない操作などがあった際にスムーズに答えられるようにした。
3月末現在、「館内来場者の利用率は約15%、少ないときでも10%あり、楽しんで利用していただいていると実感しています」と梅原氏は笑顔を見せる。Ikesuアプリは、平日で100件前後、土日で500件前後のダウンロードがあり、最高で1日約500件のダウンロードがあったそうだ。また、AndroidとiPhoneの利用比率はほぼ半々となっている。館内では、Ikesuアプリのダウンロードの仕方についてデジタルサイネージ端末で放映しており、それを参考にその場でダウンロードしている人が多いという。
NFCタグやQRコードを読み取ることができる魚名板は、水族館という性質上、電波がつながりにくい場所もあるため、適正な場所を選んで設置している。「水槽の前で魚をコンプリートする行為が楽しいと感じられる方が多く、NFCタグやQRコードの設置箇所をそれぞれタッチされるように見受けられます」と梅原氏は説明する。なお、魚名板については金属に取り付けた箇所もあり、サービス開始当初、電波干渉を起こしNFCタグを読み取れないケースが発生した。そのため、磁性体シートを3枚重ねで取り付け、その問題を解決している。
また、Ikesuアプリにはアンケート機能も付いており、これまでに約200件のアンケートを回収できたそうだ。その内容を見ても肯定的な意見が多く、約4分の1の回答者がIkesuアプリ目的で来場している結果となった。
よりよいサービス提供に向けたNFCの課題とは?
誰がかざしてもスムーズに読み取れる技術の構築に期待
ただし、「ストレスなく楽しんでいただけるシステムとしてまだまだ伸び代はあると感じました。それを改善できればよりよいサービスが提供できると思います」と梅原氏は課題も口にする。
1日に何件かは、利用者がNFCやおサイフケータイ対応のスマートフォンをタッチしても反応しないケースがある。これは、NFCスマートフォンのNFCチップが搭載された位置を利用者が正確に認識していないなどの理由からだ。梅原氏は、「QRコードは視覚でわかりますが、NFCが読み取れなかった場合、何が原因なのか把握しづらい課題があることもわかりました」と説明する。また、NFCタグとNFCスマートフォンとの相性も少なからずあり、結果的にNFC対応機種であってもQRコードでサービスを楽しむ人もいたそうだ。そのような課題があることも含め、今後の展開については白紙となっている。
「NFCスマートフォンを読み取った際の反応の問題をクリアし、誰がやってもわかる技術として定着することに期待したいです」(梅原氏)
今回は試験導入ということだったため、ブリリアントサービスに元データがあり、基本的な動きが同じような魚の紹介が中心だったが、「ブルージェリー(クラゲ)」と「へコアユ」については新たに追加したそうだ。仮に長期で展開するとすれば「当館オリジナルの色を出し、例えば今回30種類を取った方に対し、次回10種類の魚情報を提供すれば、再度足を運んでいただくきっかけになると思います」と梅原氏は構想を語ってくれた。