2016年3月4日10:04
一般社団法人ジャパンEコマースコンサルタント協会(JECCICA)は、PayPal Pte. Ltd.(ペイパル)の協力を得て、「中小EC企業向け・2016年EC戦略白書」を公開し、2016年3月2日に説明会を開催した。同調査の結果、煩雑な会員登録や支払いなど、購入までのステップが煩雑になっており、モバイル化対応が遅れていると分析。その解決方法として、ID決済による導入によるフローの簡略化とセキュリティ強化が肝要であるとした。
中小のECサイト利用率は7.3%にとどまる
年3回以下の利用が53.1%
経済産業省が2015年5月29日に発表した電子商取引実態調査によると、eコマース市場は2014年に流通総額が12.7兆円に達し、2021年には27兆円になるとも言われている。近年は、国内のユーザーに加え、インバウンド対応にも注目が集まっている。同レポートは、中小のEC企業が今後マーケティング戦略を立案するにあたって示唆に富むデータや提言を盛り込んでいるそうだ。
「中小EC企業向け・2016年EC戦略白書」では、「実際どんなECサイトを消費者は使っているのか?」「なぜ中小のECサイトでは購入しないのか?」「従来の囲い込み戦略のほころびとは?」「消費者の気持ちがわからない」「スマホ時代の新しい売り上げ公式が知りたい」という中小企業の疑問に応えた内容となっているという。具体的には、ペイパルによる2万人の消費者および1,000を超える中小のEC企業対象の調査結果と、JECCICAコンサルタントの知見をもとに白書が作成された。
まず、消費者の利用動向として、全国2万人の消費者の多くがモール(87%の利用率)や大手ECサイト(45.2%の利用率)を普段使いしていることが明らかとなった。モールの寡占状態の市場において、中小のECサイト利用率は7.3%にとどまった。
モールや大手ECサイトの利用動機として、「商品数が多いから」「すでに会員登録しているから」「使い慣れているから」「有名だから」「普段使っている決済方法が使えるから」といった意見が目立つ。その回答内容からも多くの人が普段使いしている様子が読み解ける。
一方、中小のECサイトで商品を購入する消費者の利用動向を調べると、年3回以下の利用が53.1%を占めた。さらに、24.8%の人は1回のみの購入にとどまっているため、まずは1回購入してもらうことが重要であるとした。
米国では「会員登録」から「ゲスト購入」が主流に
40%程の消費者がID決済サービスを利用
では、なぜ中小のECサイトで商品を購入しないのか? その理由として、会員登録が面倒、商品数が少ない、セキュリティが不安、メルマガが嫌、決済方法など、ブランドネームや商品数等、規模に纏わる項目以外の理由もみられる。
JECCICA 代表理事 川連 一豊氏は、長きにわたりEC業界に携わっているが、以前は会員獲得、メルマガ登録が成功事例であったが、現在はそれがボトルネックになっている部分もあるとした。実際に、会員登録時に正確なメールアドレスを入力しない人も多い。今回の調査でも、メルマガについてEC企業側は有用との意見が多かったが、消費者側は面倒・不要と回答している結果となった。また、「消費者は会員登録を嫌がっていない」と考えるEC企業の割合は49%だったが、「会員登録をすることに抵抗がない」と回答した消費者は4%のみとなっている。
そんな中、グローバルのeコマースサイトの流れとして、売上トップ100で強制的な会員登録を必須にしている企業は、日本が70社だが、米国では26社にとどまる。また、売上トップ25に限定すると、日本は21社が必須としているが、米国は2社のみとなっている。グローバルなトレンドは、「ゲスト購入」が主流になってきているそうだ。
また、中小のECサイトに消費者が抱く不安として、個人情報流出や、カードの不正利用、その他商品が届くかどうか、配送など、セキュリティ面の不安を感じる人が多いことも明らかとなった。
さらに、商品を購入する買い物の途中で離脱した「かご落ち」については、中小のECサイトでは62.3%の消費者が経験ありと回答している。その理由として、会員登録回避、次に決済における不安が挙がった。
JECCICAでは、①安心や信頼を感じるデザインや文言(コピー)が不足している、②カゴSTEPの簡略化をしていない(デフォルトのまま使用している)、③セキュリティを意識していない/表示していない、④送料や決済手数料など、発生するコストが明記されていない、⑤会員登録を強制している――点をカゴ落ちの理由とした。
これらの点を踏まえ、大切なことは、ゲスト購入を可能にした上で消費者が求める決済手段を提供し、一回目の購入を促すこと、かつ安全性や送料等の発生するコストについて明確にすることであるとしている。
また、近年はモバイルを利用して商品を購入する人が増加しているが、IDとパスワードの入力のみで支払いが行える「ID決済サービス」は、利便性と安全性という消費者ニーズを満たせる有効な手段であるとした(同調査ではキャリア決済、モール型ID決済、汎用のID決済を含んでいる)。日本でも複数のID決済サービスが展開されているが、同調査では40%程の消費者がID決済サービスを利用していることが明らかとなった。
利用経験のあるID決済サービスの1位は「Yahoo!ウォレット」
ペイパルでは「One Touch」のモバイルアプリを展開
なお、同調査では、利用経験のあるID決済サービスとして、1位が「Yahoo!ウォレット」、2位が「楽天ID決済」と続いた。一般的には「楽天ID決済」よりも利用者が少ないと言われる「Yahoo!ウォレット」だが、ID決済として外部サイトだけではなく「Yahoo!ショッピング」などで利用した人も使った経験として回答したためではないか、という見解を川添氏は述べた。
なお、今回の調査に協力したペイパルは、 203 の国と地域でビジネスを展開。アカウント数はグローバルで1.8億アカウント、決済件数は49億件となっている。
今回の調査では、ゲスト購入の重要性が取り上げられたが、ペイパルではペイパルIDとパスワードだけで会員登録やゲスト購入を可能にするID決済を提供している。例えば、ヤマダ電機の「ヤマダウェブコム」では、ペイパルIDとパスワードのみの入力で、会員登録をせず購入する「ゲスト購入」を提供。消費者は、名前・住所・カード番号といった情報を再入力することなく、支払いが可能となっている。具体的には、「ゲスト購入ボタン」と、そのゲスト購入を簡易にする「ペイパルボタン」を各アイテムページにも配置し、情報入力を1ページにまとめて選べるようにすることで、最短で商品検索から3ステップで購入が完了するそうだ。
また、消費者が当該サイトで一度ログインした後はユーザー名とパスワードを再び必要とすることなく支払いが可能になる「One Touch」のモバイルアプリも展開。すでに100万店舗を超えるeコマースサイトがグローバルで対応しているが、2月25日にはアジア太平洋の全域でOne Touchの展開およびモバイルアプリのリニューアルが発表された。
なお、One Touch は、2016年3月時点でオーストラリア、韓国、台湾、シンガポール、香港、ニュージーランド、マレーシア、フィリピン、ベトナム、インドネシア、台湾、日本で消費者および事業者が利用可能だ。また、中国とインドでは事業者サイドで利用可能となっている。