2010年10月21日8:15
(14)NFCフォーラムチェアマン 田川晃一氏インタビュー(下)
来年はNFCフォーラム認定を取得した
ケータイが市場に登場?
――カード業界の方からはNFCの立ち上がりが遅れているという声もよく耳にします。
田川:光学メディアの事例のように、シングルフォーマットを扱う場合と事情が異なりました。NFCフォーラムは異なる3つの非接触IC技術を内側に取り込んだ上で、機器間の互換性を目指して活動してきました。ですので、バラバラだった言葉の定義を統一するところから始まり、最終的に技術的なコンセンサスを作り上げるといった作業は思った以上に大変なものでした。
NFCフォーラムのメンバーからも規格がすべて揃ってからNFCケータイを発売したいという声が多かったのも事実です。すでにサジェム、ノキアが来年からNFCケータイを発売すると発表しているように、今後はNFCデバイスの登場が数多く期待できると思います。
例えば、ノキアは年間4億台の端末を発売していますが、今後発売するスマートフォンのすべてにNFC機能を搭載すると発表しています。ノキアの昨年のスマートフォンの出荷台数は6,780万台で、日本のおサイフケータイの普及台数(6,700万台)とほぼ同数であることを考えても、相当なインパクトがあると思います。
――今後のNFCの進展についてお聞かせください。
田川:日本はSuica、Edyといったカードベースのアプリケーションからスタートして、カードをかざすのに慣れた頃にケータイに実装し、その後パソコンに搭載されるというようなきれいなマイグレーションを描いています。
ただし、海外で同じようなビジネスを展開する場合には整理整頓が必要です。
例えば、交通乗車券への非接触ICカードの導入は主要な都市で進んでいますが、それをケータイで行う場合、サービスは必ずしもグローバル互換を担保する必要はありません。そういうリージョナルに閉じるアプリケーションは、料金収受の仕組みははっきりしているため、ビジネスのライアビリティがクリアだといえます。その意味で、NFCケータイが登場した場合、比較的早期にビジネスが立ち上がる気がしています。
一方でペイメントの分野はもう少し事情が複雑かもしれません。イギリス、スウェーデンなど、欧州内でもユーロの使えないところが多く、また、同じユーロの国でも金融に関する規制が違います。それでも欧州の人達は頻繁に国境を越える生活を送っています。このように頻繁に行き来する国々では、統一的な電子マネーでペイメントを行いたいのがユーザーとしての気持ちでしょうが、通貨と規制の違いでなかなか難しいのが実情です。そのため、立ち上がりが若干遅れる可能性はあります。
また、セキュリティを必要としないオープンなアプリケーションは、端末を販売する携帯端末メーカー自身の付加価値として提供される色彩が強いと思います。BluetoothやWiFiのNFCによるペアリングがそれに相当します。
いずれにしても、順番にインフラを組み上げてきた日本とは異なり、グローバルな互換性をもったNFCデバイスの登場により、市場はすぐに立ち上がると思います。
ビジネスとしての展開は?
FeliCaのオープン化が今後のカギ
――NFCの広がりにより、FeliCaビジネスにどのような影響を与えると考えていますか?
田川:FeliCaは現実を直視すると国内の売上が圧倒的です。弊社としても海外に広げる努力はしてきましたが、想像以上に難しいのが現状です。弊社の規模をもってしても、1つの会社がどんなに努力しても世の中でいう“事業”であり、オープンな世界に広げないと世の中でいう“産業”はつくれません。弊社としてもここまで努力してつくってきたFeliCaの事業をNFCにより、国際的な産業として広げる努力をしています。
FeliCaのオープン化の一端として、国内のICカード規格であるJIS X 6319-4を、より多くの人に実装してもらえるように、業界の方々と一緒になって改正しました。この2010年改正版は、10月20日に官報公示されました。従来のバージョンでは他の業界規格とセットにしないと実装できなかったため、自由度があまりありませんでした。今回の改訂により、JIS規格単体での実装が可能となりました。つまり、FeliCaのインターフェースを使ってソニーと関係ないところでFeliCaのプロトコルを使ったサービスが展開できるようになりました。
このように市場を混乱させずにFeliCaをオープン化して産業化できるような努力をしています。NFCデバイスの普及により、世界中でFeliCaのサービスが広がることを期待しています。