2020年2月3日8:00

デジタルペイメント・マーケティングを編む

日本銀行のWebサイトによると、「中央銀行発行デジタル通貨(CBDC:Central Bank Digital Currency)」は、①デジタル化されていること、②円などの法定通貨建てであること、③中央銀行の債務として発行されること、とされている。海外では、中国やカンボジアなどで動きがみられるが、カード戦略研究所 浅見俊介氏にその可能性について説明してもらう。

カード戦略研究所 浅見俊介

背景

ユーロを管理する欧州中央銀行(ECB)は、EUの公認を受け中銀デジタル通貨の発行に向けて検討に入ったことが発表された。ラガウド総裁は「欧州市民向けの中銀デジタル通貨で、ECBとしても務めを果たす」として、日常のキャッシュレス決済での利用も念頭に置いていることを示唆した。中国では「元」のデジタル通貨化を2020年より試験発行・運用する予定だ。

筆者も「キャッシュレス社会と通貨の未来」(共著:民事法研究会)のなかで「キャッシュレス化の最終章は、日本銀行による中央銀行版デジタル通貨に向けた取り組みであろう」と指摘したが、予想以上に速度を上げて中銀デジタル通貨の検討が世界に広がっている。

本心は「先を越された!」の思いが強い。GAFAに代表さるIT先端ビジネス分野で後れを取った日本にとって起死回生の一手は、「¥」通貨のデジタル化、しかも先進国のどこよりも早く宣言することだと、それが日本経済に「元気」を与える特効薬になると考えていたからである。

中銀デジタル通貨は現金(紙幣・貨幣)と同等の法定通貨であり、現行のキャッシュレス決済手段とは根本的に求められるものが違う。そんな先のことをと思う向きもあるかもしれない。しかし1970年代を振り返ってみよう。当時の給与支払いは茶封筒に入った現金で手渡されることが一般的であり、「ありがたみがなくなる」など変化への不満や疑念も多かったが、現在では大半が銀行振り込みに切り替わっている。また企業間の支払いや個人と企業間の送金なども、銀行口座振替が一般的になっている。

さらに時代の変遷とともに、多くの時間を要したイノベーションの普及期間が、非接触ICカード、携帯電話、スマホに代表されるように短縮化の一途を辿り、第四次産業革命時代に突入した現代においては、そのスパンはさらに加速度的に短縮化されることが予想されている。

とはいえ中銀デジタル通貨をめぐる国内外の動き・評価はさまざまであり、まずはその一端を発表されているレポート等からみてみよう。

日銀決済システムレポートから

2019年3月に日本銀行から発行された「決済システムレポート」では、「中央銀行デジタル通貨(CBDC)を巡る国際的な議論」の項で、国際決済銀行(BIS)が2018年に報告した中央銀行デジタル通貨について紹介をしている。

同報告では、まず中央銀行デジタル通貨は、「ホールセール型CBDC」(利用者を一部の先に限定する)と「一般利用者型CBDC」(幅広い主体による利用が可能)の2つの類型を前提に、その効用と課題を挙げている。

①「ホールセール型CBDCは、証券やデリバティブも決済を含めた効率性を向上させる。一 
 方で、導入される新技術が、現在のシステムを上回る便宜をもたらすかは明らかではなく、実用化には実験や経験を要する。」(概要)としている。

②一般利用者型CBDC「一般利用者型CBDC」に対しては、「迅速かつ効率的な民間リテール決済サービスが存在する場合は、発行するメリットは限定的かもしれない」と指摘し、リスクとして、危機時における民間銀行からCBCDへの資金シフト、匿名性がある場合のマネー・ロンダリングなど、クロスボーダー取引では安全資産への逃避の局面で他国の金融市場により影響を及ぼす、(概要)など挙げている。

以上の点から、「現在の口座形態の中銀マネー(利用者を金融機関に限定)また幅広い主体
に利用を可能にしている現金通貨は、社会全体および金融システムの安定に総じて寄与し
ており、現行の貨幣・金融構造を変更するハードルは高く、CBDCの発行には慎重な検討が
必要」(概要)とする内容を紹介している。

また同報告書では各国中央銀行の取り組みに関しての調査概要も紹介している。大きくは、①中央銀行デジタル通貨に対する取り組み状況、②短期・中期における中銀デジタル通貨発行の可能性、の2項目である。

① 中央銀行デジタル通貨に対する取り組み状況
回答数(63銀行)のうち約70%が何らかの形で取り組んでおり、ホールセール型と一般利
用者型の両方を対象にしているとしたのは約56%、一般利用者型のみは約31%。ホールセ
ール型のみは約13%。また取り組みの多くは調査・研究段階であるが、開発等に着手して
いると回答した中央銀行も約10%あった。
② 短期・中期における中銀デジタル通貨発行の可能性
一般利用型、ホールセール型共に短期(先行き1年~3年)では約80%が可能性は低いと回答、中期(先行き1年~6年)でも約60%強が発行の可能性は低いとしている。

日銀金融研究所『中央銀行デジタル通貨に関する法律問題研究会』報告者から

2019年9月に発行された同報告書では、各国が論議をするようになった背景を、①金融セクターにおける技術革新への高まり、②決済サービス等への新規参入、③一部の国での現金利用の減少、④民間のいわゆるデジタルトークンへの注目など、挙げている。

さらに仮に中央銀行がCBDCを発行する場合には、どのような法的論点があり、解釈、議論が成立するのか検討を試みることは有益とし、その検討を通じて、通貨に求められる機能や、中央銀行マネーと民間銀行マネーとの関係性といった問題に関する理解も深めることができると一端を述べている。(ただし本報告書は日銀、同研究所の公式見解ではない)
報告書の構成は
・CBDCの定義および発行形態
・CBDCの法貨性および一般受容性
・私法上の論点
・日本銀行法上の論点および取引条件を巡る法的論点
・CBDCの発行を通じた情報の取得等を巡る法的論点
・刑法上の論点
となっているが、はじめにCBDCの定義を「民間銀行等が中央銀行に保有する当座預金とはことなる、新たな形態の電子的な中央銀行マネー」として、上記BIS報告と同義のホールセール型を大口取引型CBDCと一般利用型CBDCに大別して、金融システムや経済全体への影響、新たな法制度上の論点が惹起されるとの視点から、後者の一般利用型CBDCを中心に検討したことが述べられている。

CBDCの発行形態は口座型とトークン型に分類される。口座型は、一般利用者が中央銀行に開設した口座(中銀口座)を通じて保有されるもので、中銀口座の保有者を、現状の民間銀行等の金融機関から個人や企業等にまで拡張した形態と捉えている。トークン型は、金銭的価値が組み込まれたデータ自体であって、当該データを排他的に支配する者が保有し、カードやスマートフォン等に記録されたデータの授受等によってその移転を実現するものとしている。

今後の展開

単純に考えれば、口座型は記名、顕名性による移転、トークン型は匿名性による点々流通が可能な移転ということができる。使い勝手という点か言えば、現在の通貨(紙幣・貨幣)に近いのはトークン型になると思われるが、それだけ課題も多岐にわたる。

学術的な検討は専門家に任せたいと思うが、通貨がデジタルになる社会となれば、隅々まで、企業・個人の誰人にも影響を及ぼす変革であり、国民的な理解が求められる。

この原稿の推敲をしている最中に、日本銀行が「カナダ銀行、イングランド銀行、日本銀行、欧州中央銀行、スウェーデン・リクスバンク、スイス国民銀行、国際決済銀行(BIS)は、それぞれの国・地域において中央銀行デジタル通貨の活用可能性の評価に関する知見を共有するために、グループを設立した。」とのリリースを公表した。(2020年1月21日発表)

具体的には、「中央銀行デジタル通貨の活用のあり方、クロスボーダーの相互運用性を含む経済面、機能面、技術面での設計の選択肢を評価するとともに、先端的な技術について知見を共有する」としている。

そこで次回は、カンボジアで実際に中銀デジタル通貨発行を世界に先駆けて取り組んだソラミツ株式会社の宮沢和正氏に、デジタル通貨実現への見識を伺い、身近な通貨としてのCBDCを探っていきたいと思う。

つづく

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