2011年7月25日8:21
通販が街にやってきた!
チャネルにとらわれない一貫した価値の提供が求められる
通販企業が店舗販売に進出する動き自体は目新しいものではないが、その狙いや意義は以前と変わりつつある。インターネット通販の普及により、ニッチな販売チャネルというイメージを払拭し、社会的インフラとしての地位を確立しつつある通販において、店舗展開はどのような意味を持つのか。通販企業における店舗展開と将来展望を探った。
“古くて新しい” 通販企業の店舗展開
通販が購買チャネルとして市民権を獲得した今、通販事業を補完するために店舗展開を行うという手法の有効性は薄れつつある。求められるべきは、チャネルの違いにとらわれることなく、生活者に自社ならではの提供価値を一貫して訴求していく姿勢であると言えるだろう。
最近、通販企業の店舗展開の動きが活発化している。
通販企業が店舗を持つこと自体は目新しいことではない。わが国の通販市場が黎明期にあった1970年代にも、例えば、1976年6月に(株)ディノス(当時の社名は(株)フジサンケイリビングサービス)が「リビングプラザディノス新宿」をオープンするなど、ショールーム的な店舗を開設する動きは始まっていた。当時、通販に「怪しげなものを販売する」「安いだけで商品の品質が低い」といったネガティブなイメージがつきまとっていた中で、“メジャー”な販売チャネルである店舗を持つことは、企業にとって、生活者の信頼感を醸成し、イメージやステータスを向上する有効な手段であったことは間違いないだろう。
その後、通販が販売チャネルとして普及していく中では、例えば、1980年4月に化粧品通販会社として創業した(株)ファンケルが、1995年3月に直営店展開を開始。現在では全国47都道府県に店舗網を配置し、通販と店舗販売の両輪体制を確立するなど、通販企業におけるマルチチャネル展開が進んだ。本誌でも2005年10月25日号(Vol.114)で「通信販売企業のマルチチャネル戦略」と題した特集を組み、その動きをリポート。「通信販売業は販売チャネルと受注チャネルの双方をマルチ展開することで、“いつでも、どこでも、どのような手段でも”という体制を整えていると言えるだろう」と結論付けた。つまり、通販企業の店舗展開を、顧客の利便性向上のための手段のひとつと位置付けたのだ。
しかし、最近の通販企業の店舗展開の狙いはそれだけにはとどまっていないようだ。通販の年間売上高が4兆3,100億円(2009年度、(社)日本通信販売協会推計)に達するなど、通販は購買チャネルとして完全に市民権を獲得している。また、(株)野村総合研究所によると2010年度のネット通販市場規模は7兆3,123億円で、2015年度まで10%の年平均成長率で伸長すると予測されているように、世の中はネット通販が花盛りだ。このような中、通販企業の店舗展開はどのような意味を持つのか。今回の特集では、最近、店舗展開への取り組みをスタートした企業のケーススタディを中心に、通販企業の店舗展開の実態と将来展望を探った。