2022年4月1日8:00
アプリやNFC/QRコードの活用で移動の利便性向上を図る
滋賀県大津市は京阪ホールディングスや京阪バス、日本ユニシスと連携し、2019、2020年度に大津市内と比叡山で次世代移動サービス「MaaS(Mobility as a Service、マース)」の実証実験を行った。クレジットカード決済による企画乗車券購入機能を備えたアプリを用いて移動の利便性向上を図った。また、同市と京阪バスが2020年度に実施した自動運転バスの実証実験では、NFC/QRコードの非接触型モバイル乗車券を国内で初めて採用した。
自動運転バス導入を見据えMaaSに着目
2回目の実験でNFC/QRコードを活用
大津市内は、JRや京阪電車、路線バスで移動できるが、交通手段分担率では自動車が50%以上を占める。同市は交通渋滞解消などのため、公共交通の利用を推進しているが、少子高齢化による人口減少で路線バスの運転手が不足。事業の継続が課題となっている。
このため運転手不足を解決し、路線バス事業を継続する一つの手段として自動運転の実装を検討。自動運転は「完全自動(レベル5)」までの5段階に分かれているが、まずは運転手が介入する「部分運転自動化(レベル2)」の実装に取り組むこととした。そして、採算を成り立たせる手段として、運行ルートの事業者らを巻き込んだMaaSに着目した。
同市は2019年11月から1カ月間、京阪ホールディングなどと大津市内と比叡山でスマートフォン向け観光MaaSアプリ「ことことなび」を使った実証実験を実施。アプリで比叡山や市内を周遊できる企画乗車券をクレジットカード決済で購入できるようにし、観光案内や購入者のみが利用できるクーポンを提供した。
その結果、アプリのダウンロード数は2,808件(目標2,000件)、乗車券販売枚数は1,398枚(同1,000枚)といずれも目標値を上回った。同市地域交通政策課主査 長谷川祐介氏は「(期間中の)紙の乗車券の売上は落ちなかったので、一定の成果は得られた」と話す。
2020年10~12月に行った2回目の実証実験では、市民らの利用も促すため、比叡山一帯と大津市内を周遊できる1日乗車券などに加え、京阪電車や京阪バスで市内を回れる1日乗車券もアプリで販売。購入方法は前回と同じクレジットカード決済とした。今度はODデータ(発着地ごとの乗降人員データ)を取ろうと、京阪電車の各駅やバス内にNFCとQRコードのスマートプレートを設置。スマホをかざすと乗車券が表示されるようにした。
2回目の実証実験は、新型コロナウイルス感染症拡大の影響もあり、アプリのダウンロード数は2,063件(目標3,500件)、乗車券販売枚数は1,095枚(同1,550枚)と目標を達成できなかった。しかし、比叡山一帯と大津市内を周遊できる1日乗車券は、対象エリアのイベント情報とアプリ内連携を強化したことにより前回より約200枚増加した。
NFCとQRコードによるODデータ取得の試みは、プレートにスマホでタッチするという方法がなかなか認知されず、少数の利用にとどまった。「タッチしても反応がない、古い機種のスマホだと使えないのが課題だと分かった」と長谷川氏。一方で「NFCは非電源でいろいろなところに張れるという点でICよりもコストメリットが高い」と評価する。
自動運転実験で非接触型モバイル乗車券
協力事業者を拡大し「関西MaaS」と連携へ
また同市と京阪バスは、2020年7~9月にJR大津駅―びわ湖大津プリンスホテル間3.9キロで行った自動運転バスの実証実験で、現金での運賃支払いに加え、NFC/QRコードを活用した非接触型モバイル乗車券を採用。アプリは使わず、車内にスマートプレートを設置し、スマホで「Apple Pay」や「Google Pay」、クレジットカード決済ができるようにした。
期間中の利用者数は1,968人。うち305人へのアンケート調査結果では、非接触型モバイル乗車券を利用したのは約3割にとどまったが、利用者の65.9%はスマホ決済について「非常に満足」「やや満足」と回答していた。運転手からのクレームもなかった。
大津市などは、同じルートで「特定条件下での完全自動運転(レベル4)」の自動運転バスを運行させた場合、事業採算性確保には1日224人の乗車が必要としている。今回の実験実績では、1日あたりの利用者数は26人と足りないが、ルート上のホテルと連携し、通勤需要を獲得できれば、ビジネスモデルとして成り立たせられる可能性も出てきた。
MaaSや自動運転バスについて、今後、同市はどのように取り組んでいくのか。「MaaSについては、今後は民間事業者主体でビジネスモデルが成立することを目標に、実装に向けて、市としても伴走していきたい。市民の利便性を高めるために、京阪グループだけでなく、他の交通事業者とも連携して取り組んでいただきたいので、そこをうまく調整していくのが行政の役割だと考えています」(長谷川氏)。2025年の大阪・関西万博を見据えた「関西MaaS推進連絡会議」との連携も視野に入れる。
今後も、観光客やインバウンド需要の回復に備え、「利便性を高めるためにキャッシュレスを検討していく」という。最終的には、地域の民間事業者らと協力し、公共交通や店舗での決済、クーポンの利用などを一つのアプリやブラウザで完結させることを目指す。
カード決済&リテールサービスの強化書2022より