2023年3月29日9:00
顧客がリアルとVRを回遊し、3Dとリアル、両商品の売上も好調
ファッションとライフスタイルをキーワードにセレクトショップを展開するビームスは、メタバースの分野でビジネスを拡大するHIKKYと、xR(空間拡張技術)領域における業務提携を締結。HIKKYが年2回開催しているVR(仮想現実)イベント「バーチャルマーケット」に、2020年12月から5回連続で出店している。リアル店舗で販売している商品を、VRの世界のアバターが着用する3D衣装として提供したり、リアルな商品そのものも「バーチャルマーケット」を通して訴求。また、リアルで実施中のキャンペーン企画を、VRの世界でも展開するなど、リアルとVRの垣根を取り払う施策を推進。結果、これまでなかなかリーチできなかった20代前半の新規顧客層の獲得にも成功している。
メタバースの世界で
ファッションの楽しみ方を提案
国内外でファッションのセレクトショップを展開するビームス(BEAMS)は、2020年にxR領域でHIKKYと業務提携を締結。HIKKYが主催し、国内外から100万人超の来場者を集める世界最大のVRイベント「バーチャルマーケット(通称、Vket)」に、2020年12月開催の5回目から連続5回、出店している。
「バーチャルマーケット」は、VR空間上の会場で、出店者と来場者がアバターなどの3Dアイテムや洋服、PCなどのリアル商品を売買するイベントで、2018年から年2回、開催されている。ゴーグルなどのVR機材を用いて参加する「VRChat会場」のほか、機能は制限されるが機材不要でスマホやPCのブラウザから手軽に入場できる「Webブラウザ会場」が設置されている。
BEAMSはこのバーチャルな空間に店舗を出店。そこでイベントを開催したり、アバターやアバターが着る衣装などの3D商品や、他社とコラボしたリアルなアパレル商品などを販売。商品の購入はHIKKYのオンラインショップ「Vket Store」や、BEAMS公式オンラインショップに遷移して行う流れだ。
ファッションとライフスタイルを提案するBEAMSでは、世の中でメタバースという言葉が頻繁に聞かれるようになる以前からゲームなどのVRの世界に着目。プラットフォーム上でユーザーがファッションを楽しめるように、積極的にアイテムを開発し、提供してきた。HIKKYとの提携、「バーチャルマーケット」への参加は、その延長線上にある。
この実戦部隊は、リアル店舗を運営する部門ともEC部門とも異なる、4人のVR担当チーム。HIKKYと頻繁にミーティングを行いながら、他社とのコラボレーションや社内各部門との連携を進めつつ、「ファッションの小売店として、いかに面白いことができるか」(ビームス 社長室 コーポレートコミュニケーション部 広報課 ビームスクリエイティブ ビジネスプロデュース3課 VR担当 木下香奈氏)という観点で、新しい企画に挑み続けている。
リアル店舗のスタッフが接客を担当
VRの取り組みが新規顧客の獲得にも奏功
BEAMSがこだわっているのは、リアルとバーチャルの融合だ。
たとえば5回目の出店となった「バーチャルマーケット2022 Winter」では、全国の店舗および公式オンラインショップで販売しているリアル商品を3Dモデルに起こしたデジタルツイン商品、11アイテムを販売。同じ商品を着用しているリアルなモデルの写真を掲示しつつ、訴求した。
イベントでは、リアルでの人気企画「大名古屋展2022」のコーナーをバーチャル店舗に設置。名古屋グランパス、クロスプラス、中日新聞の地元企業3社が参加し、コラボTシャツを販売した。
BEAMSの2回目の出店だった2021年8月の「バーチャルマーケット」では、リアルで開催していた東京・東上野の銭湯、寿湯とのコラボ企画「銭湯のススメ。2021」をバーチャルでも展開。バーチャルで銭湯体験をしたユーザーが実際の銭湯にも足を運ぶという、VRとリアルの回遊が促された。木下氏は「バーチャルだけで終わらない、拡張性のある企画にすることを常に心がけています」と話す。
BEAMSでは、リアル店舗のショップスタッフ約50人がシフトを組んで、「バーチャルマーケット」の会期中を通して、VRゴーグルを装着しリアルタイムでボイスチャットをしながら接客に当たっている。5回目の出店時には、はじめての試みとして、リアル店舗、BEAMS HARAJUKU(原宿店)店内にバーチャル接客拠点を設置。接客の様子をお客様に公開した。
この接客を通して生まれた交流が、BEAMSのリアル店舗に訪れるきっかけになったというケースも少なくない。「バーチャルマーケット」の来場者の多くは20代前半。一方、BEAMSのリアル店舗の中心顧客層は20代後半から40代。VRは、新規顧客開拓の経路としても機能しているのだ。木下氏は「逆に店舗の既存顧客にも、VRの楽しさをもっと伝えていきたい」とし、今後ますます取り組みを強化する意向を表明している。