「スマートロッカーを暮らしのハブに」西武HDの挑戦 沿線の店舗の販路拡大やインバウンドの利便性向上狙う

2025年3月25日8:00

西武ホールディングス(西武HD)は、新たな事業創造の一環として、外部パートナーと連携し、スマートロッカーを暮らしのハブにするサービスの開発に取り組んでいる。キャッシュレスコインロッカーを展開するSPACERと協業し、スマートロッカーを活用した物流ハブサービス「BOPISTA(ボピスタ)」を運営しているほか、観光客の手荷物をロッカーに入れると、宿泊先のホテルに当日発送できるサービス「pikuraku PORTER in東京(ピクラクポーター)」の実証実験に取り組んでいる。

西武ホールディングス 経営企画本部 西武ラボ 課長補佐 青木啓史氏

コロナ禍で人が消えた駅をリデザイン
非対面の新サービスBOPISTA構想

「新型コロナウイルスのパンデミックが始まり、しばらく、コロナ禍では駅から人が消えました。駅をリデザインするためのプロジェクトチームが発足し、その中で、『非対面で何かできないか』と知恵を絞って誕生したのがBOPISTAの概念でした」。西武HD 経営企画本部 西武ラボ 課長補佐 青木啓史氏はボピスタ誕生の経緯をこう振り返る。

ボピスタは、SPACERとの協業による、スマートロッカーで気軽に商品の受け取りや預け入れができるサービス。ロッカーでの一時預かりと併用し、商品の受け取りと商品・荷物の発送の両方を、鉄道を使って効率的に行う仕組み。西武線沿線46駅と東京ガーデンテラス紀尾井町を合わせて47カ所の拠点がある。

ボピスタの実証実験は、2021年にスタート。2022年には、米国の会員制倉庫型店舗のコストコ入間倉庫店が参加。その後、冷蔵ロッカーを導入したり、他の私鉄とも連携するなど業容を拡大した。3年の実証実験を経て、24年4月から西武鉄道の事業として本格稼働している。池袋線・東長崎駅近くに店を構える「カカオ工房 トリビュート」や池袋線・石神井公園駅の近くに店を構える「パティスリーカシュカシュ」など11店舗がテナントに名を連ねている。

ロッカーの一時預かり機能に他サービスを搭載し、併用できるロッカーの導入事例はボピスタが初めて(西武HD調べ)という。青木氏は「今使っていただいている人のほとんどがリピーターになっていただいており、ニーズは高いと考えています。現在、ボピスタは西武鉄道に事業移管されています。今後は、沿線の地域個店がボピスタを使って販路を拡大できるような存在になればと考えています」と話す。

オーバーツーリズム対策を目指す挑戦
pikuraku PORTER in東京

2024年8月には、スマートロッカーのマルチコンテンツ化の新たな取り組みとして、インバウンドなどの観光客向けに、スマートロッカーに入れたスーツケースなどの荷物を宿泊先のホテルなどに配送するpikuraku PORTER in東京の実証実験を展開している。SPACERがJR西日本と展開している配送サービスの首都圏版で、西武線の首都圏のハブとなる池袋駅、西武新宿駅に加え、観光客が多く訪れる豊島園駅でもサービスを開始している。

ピクラクポーターのデモを行う様子
「1 つのロッカーに複数の荷物を入れられる点もメリット」だとした
ホテルで荷物を受け取り

コロナ禍が明け、インバウンドが増加しており、その観光客の多くが電車内で大きな荷物を持って移動している状況に対応し、オーバーツーリズム対策として、JR西日本が展開していた同サービスを首都圏でも導入するのが狙い。コインロッカーのタッチパネルから「ホテルに送る」を押し、空いているロッカーに荷物を預ける。ロッカーの1扉に入る量であれば、家族や友人などと複数の荷物を預けることも可能だ。サービスの企画・運営は西武HD、ソフトウェアやアプリケーションといったシステム面の提供や配送はSPACERが担う。

その後、タッチパネルでロッカーを選択し、首都圏約500のホテルの中から、届け先のホテルを選び、携帯電話番号を入力する。料金は1,900円~2,800円。携帯電話のSMSに届いた暗証番号を入力し、ホテルを予約した人の名前を入力し、決済に進む。支払いはPASMO等の交通系電子マネーを使うことができる。

荷物はロッカーに14時までに預ける必要があり、首都圏約500ホテルの中から指定した宿泊先へ原則19時までに届ける。青木氏は「豊島園のスマートロッカーから千葉県浦安市舞浜のホテルまで届けるというケースが多く、インバウンドの方にも多く使っていただいているようです」という。

他の鉄道事業者などを巻き込み、
ホテル配送のスケール拡大を目指す

青木氏は「まだ、このサービスを知らない観光客が多く、西武グループの中だけにとどまらずさまざまな事業者を巻き込んでホテル配送事業を拡大させる必要があり、具体的にお話を進めているところです」と話す。1台のトラックで複数の荷物を配送する仕組みを構築すれば、コストダウンにつなげることができるからだ。実証実験の検証は2025年3月末まで行い、利用者のニーズとオペレーションを効率化できるかを把握し、事業化を検討する。

また、青木氏は課題として、「交通系ICよりも、クレジットカードのタッチ決済やQRコード決済を使う訪日観光客が多いので、決済手段の追加も検討しています」と述べる。

pikuraku PORTER in東京は14時までに預けるとホテルまで配送するサービスで、ボピスタは14時以降に商品を受け取れる。このため、効率的にロッカーの稼働率を上げることができる。利用数が多い西武新宿・池袋駅はスマートロッカーが埋まっている状況で、2月6日に西武新宿駅のスマートロッカーを増設した。

青木氏は「ロッカーが暮らしのハブになる世界をつくることが、最終的な目標です。さまざまな場所にSPACERのロッカーがあって、そこから発送できたり商品が受け取れたりという世界観を実現したいと思っています」と意欲を示している。

「決済・金融・流通サービスの強化書2025」より

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