2015年12月25日23:47
ショッピングカートASPサービス4社の導入を発表
楽天は、2015年12月25日に記者会見を行い、ショッピングカートASPサービスを提供する4社が、各社が提供するサービスにおける新たな決済オプション機能として、楽天のIDとパスワードを利用して外部サイトで決済できるID型決済サービス「楽天ID決済」を2016年以降、順次導入すると発表した。
オープン戦略として営業を強化
1億人を超える楽天会員を外部加盟店へ送客
「楽天ID決済」は、1億人を超える楽天会員が楽天グループ以外のサイトでもオンライン決済できるサービスとなる。これまで、楽天の“準経済圏”拡大を担う手段として展開されてきたが、「楽天外部でもオープン戦略として進めていく」と、楽天 常務執行役員 高橋理人氏は説明する。すでに、楽天市場の営業を行う際、同時に楽天ID決済の告知を行うなど、楽天では同サービスの展開を強化している。
楽天では、2008年から楽天ID決済(旧楽天あんしん支払いサービス)をスタート。楽天ID決済の契約件数は3,000件以上となり、特に2015年4月以降の成長は顕著となっているそうだ。2015年第三四半期の流通総額は昨年対比で+57%を記録している。
これまで、ショッピングカートとの連携では、「eShop-do」(アイ・ドゥコミュニケーションズ)、「ショップサーブ」(Eストアー)、「おちゃのこネット」(おちゃのこネット)、「e-Shop2カート」(ハンズ)、「JOY CART」(前向きネット)で「楽天ID決済」を導入していたが、「カラーミーショップ」(GMOペパボ)、「MakeShop」(GMOメイクショップ)、「たまごリピート」(テモナ)、「FutureShop2」(フューチャーショップ)で2016年以降利用できるようになる。これにより、「10万以上のECサイトで楽天ID決済が可能となります」と、楽天 執行役員 矢澤俊介氏は話す。
「簡単」「安心」「お得」が特徴
楽天スーパーポイントを貯めて・使える
楽天では、「簡単」「安心」「お得」の3つが楽天ID決済の特徴であるとしている。楽天会員は、楽天ID決済を使えば、利用サイトごとに支払い方法を入力する手間もかからず、普段利用しているクレジットカード情報でスムーズに決済をすることが可能だ。使い慣れた楽天IDとパスワードで決済ができることにより、数秒で支払いが完了する。また、スマートフォンからの購入の場合でもカード情報の入力なく、簡易に利用可能だ。
さらに、インターネット上のポイントサービスで圧倒的な認知度を誇る「楽天スーパーポイント」も楽天市場含む楽天グループ各サービスと同様に1%貯まるのが特徴となる。これは、他のID決済サービスとの差別化にもなっているそうだ。
今回のショッピングカートとの連携では、支払い選択画面で、「クレジットカード」「代金引換」などとともに表示される「楽天ID決済」を選択し、楽天IDとパスワードでログインする流れとなる。その後、使用する楽天スーパーポイント数と支払いカードを選択して手続きを行う。楽天 チェックアウト事業 副事業長 鈴木壮弥氏によると、ポイントが貯まるだけではなく、貯まったポイントを使用できる点も特徴であるとしている。
なお、楽天会員IDとパスワードだけで会員登録を行える「かんたん登録オプション」については、楽天と契約を行うオプション契約となっており、ショッピングカート自体には標準で搭載されない。
無印良品やnano・universeなどで成果
Eストアーでは、10月21日に導入発表後、1,500社の申し込み
鈴木氏によると、楽天ID決済を導入したある会社では、購入単価が11%、年間注文件数が28%それぞれアップしたという。また、全体平均で決済のドロップ率は10%となっている。
具体的な導入事例として、無印良品では、「無印良品ネットストア」売り上げの約7%以上を楽天ID決済が占めている。また、「良品週間」中は、利用率が通常の約1.5倍以上に向上し、ネットストア全体の売り上げ増加に貢献している。さらに、楽天ID決済の新規比率は、サイト全体の新規率を上回っているそうだ。加えて、楽天ID決済では、キャンペーンなどでポイントの倍付等を行うことが可能だが、その際のシェアは10%程度となっている。
一方、nano・universe(ナノユニバース)では、導入している他のID決済と比較すると、客単価は平均20%以上高く、リピート率は楽天ID決済が最も高い数字となっている。また、他のチャネル(Stylife,Rakuten BRAND AVENUE)でも販売を行っているが、ユーザーの重複はほとんどないそうだ。
記者会見では、Eストアー、テモナ、フューチャーショップのパートナーがゲストで登場。Eストアーでは、ECショップ構築、集客、決済などを標準で搭載したオールインワンサービス「ショップ サーブ」を提供している。同社において決済は欠かせないファクターとなっているそうだが、10月21日に楽天ID決済を導入後、すでに1,500社の申し込みがあった。Eストアー執行役員 細野 純子氏によると、これだけのペースで申し込みがあったケースは同社で初となったという。
テモナは、リピート通販に特化した定期購入専用のショッピングカート付きシステムを提供しており、ネット通販やカタログ通販において、定期購入、頒布会業務に必要な管理業務をサポートしている。同社 代表取締役社長 佐川 隼人氏によると、「楽天ID決済対応の理由としては、コスメが多い中で30~40代のユーザー層とマッチしており、親和性が高い」としている。同社では、楽天ID決済を利用した定期購入の仕組みも提供していく方針だ。
フューチャーショップは、ネットショップに必要な機能を装備した「FutureShop2」などのプロダクトを提供しており、2,000店舗を超える稼働実績がある。ID決済の導入にも力を入れているが、「楽天ID決済のように登録せずに使えることは有益なソリューションであると考えています」と、フューチャーショップ 代表取締役 星野裕子氏は話す。
なお、楽天ID決済の手数料は5%。競合のID決済サービスよりも高い数字となるが、ポイントを付与する付加価値などにより、差別化はできていると同社では自信を見せる。また、ショッピングカートとの連携に加え、GMOペイメントゲートウェイ、ソフトバンク・ペイメント・サービス、ベリトランスの決済代行事業者3社と提携している。
注目される対面店舗での楽天ID決済によるチェックアウトについては、グループ内に「楽天Edy」などリアル決済サービスを提供する他の事業があることも踏まえ、検討していきたいとしている。
手数料4%、1%はポイントの原資
他のID決済との違いは?
「楽天ID決済」の立ち上げ当初から同事業にかかわってきた楽天の鈴木氏に、記者会見後、同サービスの現状について話を聞いた。
――楽天市場と連携した営業についてはいつから開始されましたか?
鈴木:2015年1月から楽天市場の営業部隊と連携を図り出し、実際には2月頃から本格的に開始しています。楽天市場の出店ガイドの中に、通常の楽天市場の出店プランと、楽天ID決済の導入プランを併記させていただいております。以前は出店ガイドにも載っていませんでしたが、紹介されるようになりました。
――決済手数料は、競合に比べて高い数字となっています。
鈴木:楽天ID決済の手数料5%という数字は、4%の手数料とポイントの1%をユーザーに還元する原資を含めた数字となっています。4%の中にクレジットカード手数料、ポイントのシステム利用料が組み込まれた数字であり、付加価値も含め、決して高い数字であるとは考えていません。
――楽天会員IDとパスワードだけで会員登録を行える「かんたん登録オプション」についてはいかがでしょうか?
鈴木:「かんたん登録オプション」については一部の企業に限定しています。個人情報の引き渡しを含め、情報管理の観点から、しっかりと審査させていただいて、提供先を限定させていただいています。
――ショッピングカートとの連携に加え、決済代行事業者3社と提携されていますが、シナジーは生まれていますか?
鈴木:今年ある大手の企業に楽天ID決済をご導入いただきましたが、決済代行事業者のサービスを利用されていたため、簡単に導入が進んだケースもありました。
――近年ではID決済サービスを提供する競合の企業も登場しています。
鈴木:他の企業が参入されたことは、ID決済の認知度拡大であると捉えています。弊社としてもID決済が広く理解されるのであれば喜ばしいことです。
――楽天ID決済として、今後は楽天市場を超える取り扱いを目指すのでしょうか?
鈴木:グループ内で比較・競争しあうというよりは、両方同時に伸びていくことが大切であると考えています。
なお、楽天ID決済のショッピングカートとの連携では、Amazonの「Amazonログイン&ペイメント」と異なる点がある。「Amazonログイン&ペイメント」では、IDとパスワードだけで会員登録を行える機能をショッピングカートに提供しているが、楽天ID決済の場合は個別対応となり、ショッピングカートとの連携は標準で行われない。基本的に、支払い選択画面で、楽天ID決済を選択し、楽天IDとパスワードでログインしてから決済する流れとなるため、「支払いまでの導線が若干複雑になる」と、あるショッピングカートの担当者は指摘する。ただ、楽天では一部のECサイトで「かんたん登録オプション」を提供しているため、今後は標準での導入を期待する声もあった。