3. これからの注目株は送金決済
前述の「キャッシュレス改革」に先立つ2016年4月、インドでは送金、決済プラットフォーム、UPI(Unified Payments Interface)が立ち上がった。特徴は、オープン化を見据えて設計されていること。Paytmやフォーンペ、ハイクなど、銀行以外の事業者が次々にUPIへ接続し、サービスを開始している。海外からはグーグルやフェイスブック傘下のWhatsApp、ストライプなどが参入している。
グーグルは2017年9月、UPIを活用してTez(テーズ)という送金決済サービスをスタートし、好調な滑り出しをみせている。ユニークなのは、AQRという技術。超音波(Audio)とQRコードの両方を活用したものだ。アプリを開くと、超音波でつながった人が表示されるので、その中から送金決済相手を選ぶ。金額を入力して、Payボタンを上にあげれば支払い、下にさげれば受取りとなる。すでに750万人がアプリを利用。3,000万件強の取扱件数を記録した。
2017年11月、欧州ではSEPA(単一ユーロ決済圏)のリアルタイム銀行間決済ネットワークがスタートした。SEPAの加盟34カ国間で共通利用できるサービスだ。ユーロ域内の決済を標準化するPSD2がこの1月に施行され、フィンテックなどのサードパーティもこのサービスを利用できるようになる。
そのほか、英国、シンガポール、タイ、カナダ、米国、豪州で、リアルタイム銀行間決済ネットワークが整備された。ネットワークのオープン化が世界の潮流になっている。これらのネットワークを活用したモバイル送金決済はこれから急速に伸びる可能性がある。QR決済と同様、機器やOSを選ばず、マーチャントも特別な決済端末を必要としない。スマートフォンやタブレットにアプリをダウンロードすればすぐに使える。
4. 普及に必要なのは技術ではなく利便性
こうした状況から、世界のモバイル決済は、当面の間QR決済と、送金決済が主流になるだろう。セキュリティやスピードで勝るNFC非接触決済は、端末普及の課題から、利用拡大まで5年程度は要すると思われる。
気になるのは、日本でのモバイル決済普及である。総務省の調査によると、「私的な用途のために利用している端末」にスマホを選ぶ人は、実は6割に過ぎない。中国や韓国は9割超え、英国やドイツでは8割を超える。モバイル決済の土台となるスマートフォンの普及遅れが、日本でモバイル決済が進まない理由のひとつである。
併せて、利用者と加盟店の両方を揃えることも重要だ。加盟店を拡大させることはもちろん、利用者に快適な「購入体験」を提供することを主眼に置くべきである。決済はあくまで手段。購買行動の裏方に過ぎない。利用者が求めているのは、QRかNFCか、といった決済技術そのものではなく、決済の利便性である。モバイルはプラスチックカードではできなかった決済プラスアルファの付加価値をいろいろとつけられる。利用明細照会、残高照会、アラート通知、リコメンデーションなどは当たり前。事前注文決済や、セルフチェックアウトなど、モバイル決済ならではのユニークな決済が可能になる。モバイル決済の利便性提供が、モバイルの普及を促進し、それがまたモバイル決済、キャッシュレスを加速させる原動力になるだろう。