2020年4月23日8:00
地域通貨を事業者・利用者がともに進める街づくりのツールと位置付け
スキー場を中心に、国際的に人気の高い北海道・ニセコひらふエリアの街づくりに取り組むニセコひらふエリアマネジメントでは、2019年11月23日から、地域通貨「NISEKO Pay」の実証実験を実施している。同団体は「NISEKO Pay」を、単なる決済手段ではなく、地域の事業者と利用者が主体的に街づくりに参加する入り口となるツールと位置付ける。ゲレンデ内やペンション街の店舗の多くが「NISEKO Pay」の主旨に賛同し実験に参加。スマートフォンさえ携帯していれば、スキー客が1日中安心・快適に過ごせる環境整備の一歩を踏み出した。同団体では、収益源をどう確保するかといった課題をクリアして、本格稼働につなげたい考えだ。
将来を見据えた街づくり目指す
地域通貨による活性化に期待
スキーリゾートとして従来から全国的に知られている北海道・ニセコは、特に近年、国際的にも人気が高い。オーストラリアやアジアなど海外のデベロッパーによる、外国人向けのホテルやコンドミニアムの建設が進み、地域環境は大きく変化。このような中、自治機能や公共サービスの質の低下を防ぎ、将来を見据えた街づくりに取り組むことを目的として2017年9月に設立されたのが、ニセコひらふエリアマネジメントである。
同団体では地域通貨「NISEKO Pay」を開発。2018年11月からの数カ月間、約50店舗で実施した実証実験に続き、2019年11月23日より、約90店舗において2回目の実証実験を行っている。
「NISEKO Pay」はスマホ上でチャージ、決済、および送金ができるキャッシュレス決済サービスだ。ブロックチェーン技術を用い、基盤としてはOrbが提供する「Orb DLT」を活用。アプリの作成はINDETAILが行った。
同団体は「NISEKO Pay」を、単なる便利なキャッシュレス決済の手段としてではなく、加盟店および利用者が、主体的に街づくりに参加する入り口となるツールと位置付ける。
単に決済の利便性を追求するのであれば、同地域でも徐々に普及が進む他のQRコード決済にその役割を委ねればよい。同団体の大加田正信氏は、「『面白そうだ』と興味を持ってもらい、事業者は加盟店として、地元住民は利用者として、アプリを活用してもらいたい。その結果として、地域でお金が活発に循環するようになれば、地域通貨を運用する意義があると思っています」と「NISEKO Pay」への思いを語る。
4割弱が外国人の利用
加盟店数、決済金額とも順調に拡大
同団体では2018年11月からの数カ月間、「NISEKO Pay」の実証実験を実施した。想定通りに仕組みが稼働するかどうかの「“基礎的な”実験だった」(大加田氏)というが、特に問題はなく、約50店舗の加盟店と、利用者として参加した「ニセコグラン・ヒラフスキー場」の従業員からも肯定的な意見が多数聞かれたという。
2019年11月23日から4月末までの予定で実施中の、2回目となる実証実験には、加盟店約90店舗が参加。利用者側としては、地元住民および外国人観光客も対象とし、アプリは日本語と英語、2カ国語で提供している。
決済および送金機能のほか、ボランティア参加者にボーナスコインを提供する仕組みも搭載。また、アプリ内でニセコエリアへの協賛を募ることにより、同団体への活動基盤の整備にも取り組む。
実験は実施中で、集計結果が出るまでにはまだ間があるが、2019年12月の段階で、アプリをダウンロードした人のうち4割弱が外国人。飲食店などで利用されているケースが多く、1回目の実験と比較して決済単価は増大傾向にある。
「NISEKO Pay」へのチャージはクレジットカード、または現金で行うことができ、クレジットカードでは1回につき上限5万円、現金では1回につき3万円、残高の上限はいずれの場合も10万円に設定されている。
ニセコに大きな利益をもたらす外国人観光客は、平均3日から1週間滞在し、最も大きな支出はホテルなどに支払う宿泊費。ほとんどの観光客は入国前にクレジットカードなどで宿泊費の支払いを済ませているため、これらは「NISEKO Pay」の決済金額に反映されていない。また、スキー場のリフト券の「NISEKO Pay」での支払いは、現状、一部のブースのみに限った対応だ。このようなことから同団体では、実証実験の結果は、どれだけの金額が使われたかということだけではなく、加盟店や利用者の感想や意見に重きを置いて検証を行う意向である。
2回目の実験を踏まえて、次はいよいよ本格始動に踏み切りたい考え。これを実現できるよう、同団体を維持するための収益モデルの確立を急ぐ。
カード決済&リテールサービスの強化書2020より