2020年9月4日9:41
ネットプロテクションズと空は、2020年8月27日に、プライステックに関する記者向け勉強会を開催した。両社では、ダイナミックプライシングやポストプライシングの動向や事例を紹介した。
プライステックプレイヤーは30社以上が活動
ネットプロテクションズは、国内で初めて未回収リスク保証型の後払い決済を提供した実績があり、BtoC通販向け決済の「NP後払い」、BtoC向け 会員制決済の「NP掛け払い」などさまざまな後い払い決済を展開している。現在、日本の10人に1人がサービスを利用しているといい、年間流通総額 3,500億円超となる。
国内プライステックプレイヤーは、2020年8月時点で30社以上が活動している。各社、プライシングモデルや領域ごとに社会実装を推進し。プライステックは、需要供給や価格を元に動的に価格を最適化する「ダイナミックプライシング」、定価がなく、購入前に価格が決定される「プレプライシング」、購入/利用後に価格が決定される「ポストプライシング」の3つがある。
従来、プライシングは経営上のインパクトが大きく、利益率の改善や機会損失の最小化につながるという。それに加えて、価格を変数として扱うためのテクノロジーが揃ってきた。また、AIやITを活用した技術により、最近は個別化を行うプライステックの実装がしやすくなり、需要や個人にあった価格を設定可能となった。ITやAI活用の「技術軸」、個人の嗜好やリテラシーの適用となる「心理軸」、双方が進化し 需給、嗜好性に応じた「価値」に則したプライシングが実現されていくとしている。
コロナ禍のオフピーク、需要分散への取り組みでダイナミックプライシング拡大?
空 代表取締役 兼 CEO 松村 大貴氏は、ダイナミックプライシングの傾向、企業側の価格戦略、基本的な考え、展望を紹介した。空は、2015年から事業を展開。プライシングに関するアプリケーション開発、コンサルティングサービスを提供している。
ダイナミックプライシングは、日や時間帯で異なる需要に対してプライスも変化させることだとした。売り手のメリットとして、機会損失を抑え、収益の向上につながるとした。また、機会損失を抑え、収益を向上可能だ。また、買い手にとってのメリットとして、旅行や通勤時間帯など、選択肢が多様になり、自分にあったチョイスがしやすくなるとした。
これまでは、価格が固定で、需要が上下していたが、ダイナミックプライシングの場合は価格が上下し、需要が一定となる。松村氏は、蜜や集中を抑制し、働く人手の確保も含めて、ダイナミックプライシングは社会全体をスマートにするとした。同氏は、今後ダイナミックプライシングは加速すると考える。その理由として、人手不足、需要飽和の時代となり、販売数は下がるが、顧客単価アップを目指す必要性が高まっていることを挙げた。また、新型コロナウィルス対策でオフピーク、需要分散への取り組みがこれまで以上に重要になっている。
最近の市場動向として、イトーヨーカードがネットスーパーに変動制配送料を導入したり、JR東日本が時間帯別運賃を検討している。空でも、ダイナミックプライシングによる価格の最適化に向け、近鉄グループとの協業を進めている。同社の「MagicPrice」は、交通・モビリティ領域でさまざまな企業と構築、提供を行うそうだ。さらに、物流や小売など、前述の課題が強く合致する業界から 拡がっていくと考えている。
あと値決めの上乗せ率は一般的な投げ銭ツールの4倍
ポストプライシングに関しては、ネットプロテクションズ 企画ディビジョン あと値決めWG リーダー 専光 建志氏が紹介。ポストプライシングの概説としては、商品の利用後に顧客が値段を決める仕組みとなる。同社では、利用者が商品を購入した後に値段を決める「あと値決め」を提供している。ほかにも、投げ銭をはじめとした「実質追加購入型」、ラーメン店などが話題となった「退店時値決め型」などの形態がある。
あと値決めでは、さまざまな領域でポストプライシングの価値検証を進めてきたが、上乗せ実施率として、サービスが50%、エンタメが86%、ビジネスイベントが83%、飲食が79%となった。定性的なアンケート回答率も高く、高評価となり、「上乗せ率は一般的な投げ銭ツールの4倍」(専光氏)となっている。
ネットプロテクションズでは、「ハイクオリティ事業のキャズム越え」「互恵関係の創造 寄付/応援の加速」「オンラインイベントのビジネス成立」「個のエンパワーメントの加速」の4領域が価値提供としてユニークとなり、高いクオリティを発揮したとみている。
例えば、家事代行のベアーズでは、Webサイトにおいて、特に初めて使用する人にとっての安心感とクオリティが伝わりにくかった。そのため、あと値決めを導入して、価格を定価の半額相当の6,400円にして、金額が高まるかを検証したが、価格は定価対比90%を達成した。最低価格を付けたユーザーは8%と低い数字となり、「家事スキル」への値付けでは平均1,920円の上乗せとなった。また、新規の利用率が124%アップし、価格が見えにくいサービスにおいて、あと値決めは有効だとした。
フクシルは、全国展開のオンラインシニアイベントのファッションショーの基本決済で採用した。テスト検証段階から最低価格0円であと値決めを採用し、共有体験による価値も評価してもらった。結果として、現場で価値を実感した上での応援対価が集まり、平均価格7,038円、入会率75%となり、全国展開の基本決済となった。
コンサートの企画・運営を行うライゼ・カンマー・オーケストラでは、イベント開催の制限がかかり、収容人員が制限されている中、従来の価格帯では採算が合わないため、その対策としてあと値決めを導入した。定価2,000円のコンサートだったが、4倍近くの入会率を達成し、投げ銭は2倍になった。その要因は、価値の可視化となり、自ら値段を決めて、押し付けたものではなく、利用者と一緒に共存していくことで評価を受けることができたという。また、当日のオペレーションコストがかからなかったことも大きかった。
「100人無料似顔絵」を完走したイラストレーターのくさすけ氏は、あと値決め制でのフリーランスデビューを行った。最低価格0円、絵を受け取った14日以内に値決めをしてもらったが、平均価格3,000円、入会率100%となった。無償活動時代のファンもスムーズな有償化を達成し依頼が発生した。
事業者/クリエイターのポストプライシング機能をインフラ化
専光氏は、今後の展開として、事業者、クリエイターを支えるプラットフォームによるポストプライシング機能のインフラ化を挙げた。同社では、支援プログラム「pay for value &talent」を8月27日から開始。本当に良いモノが売れにくい、スキル/才能があるプレイヤーの信用獲得しずらい社会を変えることを目的としており、共創事業者へはあと値決め機能を無償で提供する。
機能やUX向上に向けて、①1事業者あたり複数パターンのモデル保有、②取引単位での最低価格の自動反映、③価格入力完了画面広告の事業者への無償解放、④定性コメントの不適切投稿の管理機能、⑤クレジットカード払い/各種Payでの支払いが可能に、といった対応を実施するそうだ。