2022年8月29日9:00
東急は、eコマース、フィンテック、通信などさまざまな事業を展開する楽天と、双方で蓄積するオンラインとオフラインのデータを活用してマーケティングソリューションを提供する「楽天東急プランニング株式会社」を設立し、デジタルマーケティングの取り組みを進めている。2022年7月15日に開催した「キャッシュレス・カード戦略フォーラム2022」では、東急 デジタルプラットフォーム マーケティンググループ マーケティング担当 課長 乗松康行氏が楽天グループとの共同による新たな価値創造の取り組みについて紹介した。
鉄道グループ最大規模の基盤を誇る東急
楽天と連携し新たな顧客層開拓
東急グループは、東急線沿線で鉄道・バスといった交通事業を基盤に不動産、生活、サービス、ホテルリゾートなど、沿線の利用者の生活に密着した事業を幅広く展開している。街づくりの観点では、渋谷を中心にさまざまな取り組みを行っており、また、生活サービスではスポーツジム、シニア向けサービスなど、幅広い事業を展開している。東急グループでは多様な事業、多様な顧客接点を持っており、それを東急グループの共通ポイントサービスである「TOKYU POINT」を軸に組み合わせることで、利用者からロイヤリティを醸成し、沿線価値・生活価値(=ライフタイムバリュー)の向上を目指している。
具体的なプログラムとして、2006年に東急カード、東急百貨店、東急ストアのポイントを統合した「TOKYU POINT」を発行してグループ共通の最大規模の基盤を構築した。また、クレジットカード「東急カード」、PASMO、JAL、ANAとの提携クレジットカードを発行している。さらに、2016年からロイヤルカスタマー向けに「TOKYU ROYAL CLUB」を展開している。「東急線沿線内外のお客様、今まで非会員だった方が、TOKYU POINTにより会員になっていただき、TOKYU ROYAL CLUBで提供する特典を目指して、アップセルしていきます」(乗松氏)。TOKYU ROYAL CLUBでは、4つのステージを設けており、顧客のランクアップにつなげている。1ポイント1円以上の価値提供を行うことで、競合サービスとの差別化を図っている。
一方でTOKYU POINT共通の課題認識を持っている。まずは会員属性で、60代以上が44%と高い比率を占める。女性比率も75%となり、「特に若年層の取り組みができていない現状がございます。売上関与率においても、業態と地域によってかなり格差がある状態です」と乗松氏は説明する。
東急ストアや東急百貨店においては、売上全体に占めるTOKYU POINT会員の比率は、70%前後カバーできているが、渋谷の東急百貨店、沿線でも比較的若年層の多い商業施設、商圏が広い商業施設、沿線外の施設では10%を切る売上関与率になることが課題だ。これを解決する1つの狙いとして、1億の会員基盤を誇る楽天と提携したという。
もう1つが「オンラインとオフラインの垣根を超えたシームレスなサービスの提供を考えてく必要があることが当社と楽天様の双方の共通認識として出てきました」と乗松氏は話す。オンラインとオフラインは顧客接点が分断されていたが、オンラインではeコマースやスマートフォンの普及、オフラインではキャッシュレスの浸透やニューノーマルへの備えにより、オンラインとオフラインがクロスする傾向が顕著に出ているそうだ。
楽天東急プランニングでマーケティング強化
東急ストアは「TOKYU POINT」と同規模の楽天会員を獲得
両社では2020年7月に「楽天東急プランニング」を設立し、同年9月より営業を開始した。ジョイントベンチャーの活動の下支えになり、データを捕捉するのが楽天のペイメントサービスの導入となる。2020年9月の東急ストアを皮切りに、東急百貨店で2020年10月、東急ホテルズで2020年11月、ショッピングセンターで2021年2月から順次楽天ポイントカードを導入している。
対象施設でのTOKYU POINTと楽天ポイントの会員数として、2020年9月から1年間でTOKYU POINT190万人、楽天ポイント181万人が利用した。既存のTOKYU POINTに近い会員数を楽天ポイント単独で獲得できたことも成果だった。東急ストアでは、TOKYU POINTと楽天ポイント双方のポイントを付与しているが、54万人は両サービスのポイントを保有していた。また、127万会員がTOKYU POINTを保有していないユーザーだった。乗松氏は「こういった潜在顧客127万人の情報を可視化することができたのは、この1年間の中で非常に大きな成果として感じています」と述べる。東急ストアを利用する楽天会員の属性として、44%の会員が20代、30代となっており、TOKYU POINTが弱かった会員層にアプローチが可能となった。
楽天ペイメントが東急ストアで楽天ポイントカードを利用した人に行ったアンケート調査では、「東急ストアで楽天ポイントが貯まり、使えるようになってから、東急ストアの利用へどう変化したか」という問いに対し、楽天ポイントカード導入前は東急ストアを利用していなかった人が4.7%、もともと利用していたが機会が増えた人が38.7%となった。このように新規ユーザーの獲得、売上向上につながった点は、導入効果として十分に評価できるため、グループ全体にも波及効果を広げていきたいとした。
現在、東急グループ内における楽天ポイント会員のデータは順調に蓄積されており、そういったデータを活用しながら、楽天東急プランニングの活動範囲を広げている。
3つの分科会でマーケティング強化
実店舗での広告接触者やAI活用で成果
楽天東急プランニングでは、オンライン、オフラインのクロスチャネルを活用した広告プロダクト開発を検討する広告分科会、デジタルマーケティングの強化に取り組むデータマーケティング分科会、オンライン・オフライン両チャネルを活用した快適な購買体験の提供を検討していくOMO分科会の3つの分科会を設置している。
広告分科会では、オンライン領域、オフライン領域それぞれの活動を実施している。具体的にはオンラインではウェブ広告、オフラインは同社の交通広告を代表とするデジタルサイネージとなる。東急ストアの店内にもデジタルサイネージを一部設置しており、デジタルサイネージ媒体を扱ってウェブ広告による購買リフト計測、デジタルサイネージの広告効果の測定の検討を進めている。広告業界では、ウェブ広告であれば、アクセスまでは把握できるが、実購買までは捕捉が十分にしきれていない。オフラインは、アクセス広告への広告接触のアクセスですら数値化できておらず、クライアント企業も効果を図り難い。昨年実施した実証実験では、広告接触者と非接触者に分けて、実際の購買の影響度や、購買に効果的なセグメントについて検証した。楽天、東急のデータを活用し、AIによって拡張しながら広告を配信し、その広告自体の接触者、非接触者による実店舗での購入率の差を可視化した。その結果、広告非接触者と比較して、広告接触者は+4%の購買率の押し上げがあった。楽天の蓄積データ、AIによる配信セグメントを実施した層に関しては、さらに高い+22%の購買率となっている。同取り組みは広告出稿企業からも高い評価を受けたため、楽天の広告メニュー「Instore Tracking(インストアトラッキング)」に東急ストアのデータを追加して、2021年10月から販売開始している。東急グループでは、東急エージェンシーを通じて、クライアントから引き合いが寄せられている。
データにより狙ったセグメント顧客の売上で成果
OMO分科会では実店舗とオンラインの相互送客へ
データマーケティング分科会は、セールスアンドマーケティングの業務を中心に、カスタマージャーニーの可視化、データ活用ソリューション、データプラットホーム構築を検討する分科会だ。東急グループの中でも、東急線沿線の利用者の行動が多様化してきている。利用者の属性、移動手段、購買行動を、自社、および楽天のデータを掛け合わせながら、可視化して事業に活かしていくことを検討している。
リテール事業、スーパー事業における課題認識として、店舗開発、マーチャンダイジング(MD)、マーケティング(販促・広告)、販売のバリューチェーンとして、店舗アクションと指標の関連付けが難しく、一気通貫の改善サイクルを作り切れていない課題を現場でも認識していた。
これに対応するため、昨年度の東急ストアでの実証実験では、顧客行動と売上の因果関係を可視化する、仕入れ・集客・販促のPDCAサイクルを創出するソリューションを開発することに着目して、同分科会では議論を重ねてきた。実証実験では、販促領域で顧客分析と販促の実施、効果測定に取り組んだ。顧客分析では、東急ストアでの楽天ポイント会員の利用を分析し、顧客セグメントを分解し、それぞれのプライシングや品揃えを分析した。特定顧客セグメントに販売機会を求める商品を抽出し、分析を行い、選定した商品を、楽天のポイントアプリ「楽天ポイントスクリーン(Super Point Screen)」とレシートアプリ「Rakuten Pasha(楽天パシャ)」を通じて商品を告知し、効果検証した。その結果、対象者の平均単価として、販促情報を閲覧して、キャンペーンに参加した人と、閲覧していない人のリフト値を比較したところ、販促情報を閲覧して接触した人は12%多かった。さらに分解して、顧客セグメントごとに分けたところ、購買を見込みたい注力顧客セグメントが最も反応することが確認できた。同ソリューションは、2021年12月に小売・飲食業界向けのソリューション「Marketing View Premium」として販売を開始している。
OMO分科会では、楽天のオンラインの顧客接点データ、東急のオフラインの顧客データを掛け合わせた取り組みを行っている。データを活用した商材の選定からオンラインオフライのシームレスな顧客体験、EC店舗でのサービス向上というPDCAを回す持続的な買い物の仕組みを創造していくことをコンセプトに取り組んでいる。
2021年はファッション領域での実証実験を渋谷スクランブルスクエアで行った。楽天の運営するファッション通販「Rakuten Fashion(楽天ファッション)」のマーケティングデータを活用して、実際の店舗で売るアイテムを選定し、東急百貨店のスタッフがオフラインで接客・提案する取り組みを行った。チャネル間の連携では、オフラインで見たものをオンラインで購入して相互送客を図った。OMOマーケティングでは、店舗の近くにいる楽天会員に、アプリのプッシュ配信で来店を促している。2回の期間に分けて「2番手ニット」「次の私の定番コート」をテーマに商品を絞り、20代後半~30代の女性をターゲットに販売した。また、期間中もメンバーで議論しながらアップデートしたが、実際の展開では苦戦したという。認知が広がった最終の土日に関しては最も多くの来店者が訪れるなど、計画以上の来店者数となったが、渋谷スクランブスクエアに買い物に来た人が同店舗に立ち寄ったケースが多くなるなど、「オンラインとオフラインをマージすることは簡単にはいきません」と乗松氏は打ち明ける。同取り組みで得られた成果と課題を生かし、OMO分科会では次のアクションに向けた検討議論を進めている。
「TOKYU POINT CARD on LINE」で東急と楽天のIDを同時読み取り
グループ各社の顧客情報、行動履歴を一元的に管理・分析へ
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