2023年3月2日8:00
コード決済では国をまたいだ展開にも取り組む
経済産業省は、キャッシュレス決済比率を2025年までに4割程度、将来的には世界最高水準の80%まで上昇させることを目指し、キャッシュレス決済の推進に取り組んでいる。2021年は「キャッシュレス決済の中小店舗への更なる普及促進に向けた環境整備検討会」で議論を重ね、国際ブランドに対し、インターチェンジフィーの標準料率公開を促すなど、いくつかの政策が効果を上げている。
Mastercard、Union Pay (銀聯)、Visaが
インターチェンジフィー標準料率公開
経済産業省が2022年6月に公表した2021年のキャッシュレス決済比率は32.5%だった。経済産業省商務・サービスグループキャッシュレス推進室長の降井寮治氏は「このままのペースで順調にキャッシュレス決済比率を伸ばすことができれば、政府目標である2025年の4割程度は達成できそうです」と手応えを感じている。
経済産業省では2018年のキャッシュレスビジョンの公表以降、日本のキャッシュレス決済比率の向上へ向けたさまざまな施策を展開してきた。例えば、キャッシュレス・消費者還元事業を実施した際には、決済事業者に対し、手数料に関する参入に係る条件を設けたことにより、手数料の料率の低下に効果があったという。
経済産業省は、2022年3月、20年度、21年度に有識者が議論した「キャッシュレス決済の中小店舗への更なる普及促進に向けた環境整備検討会」のとりまとめを公表した。また、公正取引委員会も、22年4月、「クレジットカードの取引に関する実態調査報告書」を公表している。
クレジットカードや他の決済方法の加盟店管理市場において、加盟店・アクワイアラ間の加盟店手数料の交渉や、アクワイアラ間の競争を促進する観点から、自らがカード発行や加盟店管理を行わない国際ブランドにあっては、日本国内でも、インターチェンジフィーの標準料率を公開することが適当であるなどの考え方を示した。
これらの議論を踏まえ、公正取引委員会と経済産業省では、国際ブランドにおけるインターチェンジフィーの標準料率の公開に向けた取り組みを進めてきた。このほど、Mastercard、Union Pay (銀聯) 及びVisaから、クレジットカードのインターチェンジフィーの標準料率が公開された。降井氏は「公開されたのは昨年11月で、今後、これによる影響をモニタリングしていくことになります」と話す。
口座振替をキャッシュレス決済に
算入した新指標では55%
経済産業省は2022年度、目指すべきキャッシュレス決済の将来像へテーマを移した「キャッシュレスの将来像に関する検討会」で、政府目標の達成へ向けた課題を整理するために消費者向けの実態調査を行う一方、キャッシュレス決済の意義を再度確認した上で、目指すべきキャッシュレスの将来像と現状とのギャップをどう埋めるかを議論している。
検討会の議論の中では、「実際の肌感覚に合うような」新しい指標作りについても、検討を始めている。具体的には、口座振替の部分をキャッシュレス決済として算入する算定式案を俎上に乗せ、参考数値として「55%」を概算比率として弾き出している。銀行振込を入れるという案もあったが、「法人のデータと個人のデータの仕分けが難しい」との意見が多く、個人から法人に対する支払いとしての口座振替を参考数値として算入した。
降井氏は「個人の銀行口座の振替のデータは、全国銀行協会に加盟する一部の大手行だけしか反映していないので、その数字が適切なのかどうかを含めて、引き続き検討する必要があるという意見が大勢です。いずれにしても、政府目標である「キャッシュレス決済比率を2025年までに4割程度」の数字については、従来の算定式に基づいて弾き出した数字で判断していく予定です」と話す。
なお、降井氏は、日本のキャッシュレス決済推進に向けた新たな課題について「これまで、B to Cのキャッシュレス化をテーマに取り組んできましたが、これからはB to Bの決済分野にも目を向ける必要があると考えています。まずは、中小企業のDXを推進するという観点からも有効とされている法人カードの役割について、現状把握に取り組みたいと考えています」とした。
JPQR国際連携の第一弾
インドネシア銀行と協力覚書
このほか、経済産業省では、一般社団法人キャッシュレス推進協議会により策定されたコード決済(QR/バーコード決済)の統一規格「JPQR」の海外展開を加速するため、国際間の協調に取り組んでいる。JPQRは、複数社ある決済QRコードを1つにまとめることで、1枚のQRコード「JPQR」で複数社の決済に対応できるのが特徴。国際協調の第一弾として、経済産業省とインドネシア銀行は2022年12月、「統一QRコード決済分野における協力に関する日本国経済産業省とインドネシア銀行との間の協力覚書」(MOC)に署名した。
覚書では、両国の統一規格に基づくQRコード決済の相互運用や越境決済を推進するため、情報交換や技術協力を行うことに合意した。インドネシアでは、国内の統一規格である「クイックレスポンスインドネシア標準(QRIS)」の普及が進んでいる。MOCの締結により、両国の統一QRコード決済の相互運用に向けた動きが加速し、国内外でのQRコード決済の利便性が向上することが期待されている。
降井氏は「今後、インバウンドの需要も戻ってくることが見込まれます。インドネシアはクレジットカードを持っていない層が一定程度あり、日本国内ではスマホ決済で買い物するシーンが増えてくると思われます。一方で、日本のビジネスパーソンや旅行者がインドネシアにおいて日本のコード決済サービスで支払いできるようになれば、利便性が高まります」と話す。
今後、インドネシアと技術的・法律的な課題を協議しながら、実用化へ向けた調整を進めていく。さらに、経済産業省では、東南アジア各国のQRコード決済統一規格との相互運用を検討しており、東南アジアの他国でも、協調関係の構築を目指す考えだ。