2023年4月12日9:10
ペイパル グロースマーケット担当シニアバイスプレジデント
サンバ・ナタラージャン(Samba Natarajan)
テクノロジーのトレンドは急速に進化しており、消費者の期待も同様に複雑化していくことが予想されます。一方で変わらないのは、決済取引における利便性の追求です。
世界的にインフレが進み、今年は景気後退が予想される中、企業は新たな決済トレンドを把握し、レジリエンスを高めて今後の逆風を乗り切る必要があります。このようなトレンドに乗るための十分な知識を持ち、準備をしてきた企業は、困難な状況に陥ったときでも、それに応じて戦略を転換することができます。
- スマートな消費と環境に配慮した消費の高まりから求められる多様な決済手段
今年は景気後退の影響から、消費者はより保守的になりつつあります。そうした中、世界中の消費者はBNPL(Buy Now, Pay Later)というあと払い決済サービスを受け入れ始めています。日本はその良い例です。ペイパルとPaidyが実施した調査、「日本の未来のお買い物白書」[1]によると、日本でBNPLサービスを利用している回答者は、最もその恩恵を感じる点として、「商品が届いてから支払えるため」(32.4%)を挙げ、その次に「キャッシュバック等のキャンペーン」(25.2%)、「手元に現金がなくても今欲しいものが買える」(20.6%)と回答しています。このように、買い物客に柔軟な支払い方法を提供することで、決済完了率が高まることが期待されます。
一方、若い消費者はサステナブルな消費に対しての意識が高く、購買の意思決定において、社会的、環境的な問題をより強く考慮する傾向があります。ミレニアル世代の4人に3人は、持続可能な製品[2]に対しては、そうでない製品よりも多くの対価を支払うと回答しています。日本では、購買に影響を与える要因として、「持続可能な開発目標(SDGs)」を挙げる消費者が増えており、43.5%の回答者が自分の消費行動において社会的な責任があると思うと回答しています[3]。香港でも同様の傾向が見られ、回答者の61%が環境に配慮した持続可能な製品に対して、より多くの対価を支払いたいと回答しています[4]。
また、サステナブルファッションと高級品を手軽な価格帯で購入したいという需要が加速していることで、中古の高級品を再販するデジタルプラットフォームが数多く誕生しています[5]。サステナブルファッションを求める消費者が増える中、二酸化炭素排出量を削減するという視点で、今ではファストファッションではなく、中古の高級品を購入する人が増えています。ファストファッションからサステナブルファッションという新たな潮流に応えるため、ZaloraのようなブランドはBNPLを含む、柔軟な支払い方法を提供し、高価格帯の商品をより多くの消費者が購入できるように取り組んでいます。BNPLは、デジタルに精通した若い世代と、SDGsを求める彼らの欲求に後押しされ、今後数年間、サステナブルファッションとともに成長し続けると予想されます。
今後、多様な支払い方法ならびに社会的に責任ある購入を促す取り組みは、消費者と事業者の双方に対して、ショッピングに付加価値をもたらすことでしょう。
[1] 「日本の未来のお買い物白書」、PayPal Newsroom
[2] 「持続可能な小売業。Z世代がリードする小売業とは」、Forbes
[3] 「日本の未来のお買い物白書」、PayPal Newsroom
[4] 「持続可能な製品や環境に配慮した製品への、香港の消費者の購買意欲」、Statista
[5] 「Zalora 東南アジア・トレンダー・レポート2022」、p. 67、Zalora
- より統合され、シームレスで、パーソナライズされた決済体験
電子決済は今や商取引のプロセスの中心であり、社会はますますキャッシュレス化が進んでいます。統計によると、世界のキャッシュレス決済額は2020年から2025年にかけて80%以上増加し、アジア太平洋地域はその最前線にあると言われています[6]。
香港では、オンラインショッピングの決済手段としてクレジットカードが最も多く使われていますが、2024年にはオンライン取引の45%がデジタルウォレットでの取引になると予想されています[7]。また、スマートフォンでのデジタルウォレットによる決済は、2025年には全世界のEコマース決済の半分以上を占めると予測されており[8]、決済の主流になると見込まれています。日本では、「ポイ活を意識した決済方法を選ぶ(30.6%)」「スマホでの決済が主流になる(20.9%)[9]」と回答する人が増えているとの調査結果も出ています。東南アジアでは、BNPLや電子マネー(Eウォレット)などの普及により、10人に8人の消費者がデジタル決済を利用しています[10]。
このような市場全体のデジタル化の進展は、モバイル機器での、よりパーソナライズされた決済体験の必要性を高めています。旅行予約プラットフォームで航空券とともに旅行保険商品を販売するといった、既存サービスに金融サービスを組み込むというトレンドは、消費者とのタッチポイント全般で加速していくでしょう。また、個々の消費者に合わせた特別な購買体験は、個人のニーズをより詳細に把握することができることから、顧客とブランドをさらに結びつけることになります。
[6] 「Payments 2025 & beyond」、PwC
[7] 「2021年Eコマース決済の動向レポート。香港カントリーインサイト」、p. 23、JP Morgan
[8] 「グローバル・ペイメント・レポート」、p. 7、FIS
[9] 「日本の未来のお買い物白書」、PayPal Newsroom
[10] 「東南アジアのデジタル消費者。進化の新たなステージ」、Bain & Company and Meta、2022年9月
- Eコマース事業者と消費者の双方に求められる、サイバーセキュリティの脅威から身を守るための積極的な行動
2023年も金融犯罪は脅威であり続けると予想されます。たとえば、香港では2021年に詐欺の件数が2018年の3倍の1万9,000件以上となり、その30%近くがオンラインショッピングに関連しています[11]。シンガポールでは、同国の犯罪防止評議会(National Crime Prevention Council)の報告によると、2022年12月のホリデーシーズンに最も多く発生した犯罪は、フィッシング詐欺で、次いでEコマース詐欺であったと報告しています[12]。これらのことから、データ保護に対するニーズがより高まっています。
悪意ある第三者は、デジタルウォレットの台頭を利用して、オーソライズド・プッシュ・ペイメント(APP)などの犯罪を行う可能性があり、決済ネットワーク全体のサイバーセキュリティがより一層重要になります。また、クロスボーダー取引は、制裁逃れやマネーロンダリングの温床になる可能性があります。これらのリスクを軽減するためには、総力を挙げてこの問題に取り組む必要があり、Eコマース事業者は、大切な顧客や仕入れ先の情報を保護するために、信頼できるセキュリティパートナーをこれまで以上に必要としています。そのため、決済プラットフォームが提供する買い手と売り手の保護制度は、事業者と消費者双方が注目すべきサービスとなります。
[11] 「香港立法会公式議事録」、p. 5194
[12] 「詐欺事件の増加に対処するために官民が協力し、通信事業者、銀行が総出動する」、CAN、2023年1月
Eコマース事業者は、進化する決済トレンドをどのように活用すればよいのか
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