2015年10月1日7:00
大日本印刷(以下、DNP)は、ソニーのFeliCaを活用したさまざまなサービスを提供することにより、国内を代表するICカードベンダーとしての地位を確立してきた。FeliCaはカードだけでなく、モバイルでも利用されているが、国際標準の「NFC(Near Field Communication)」も含めたモバイルWalletサービスを展開する国内唯一の企業となっている。今後は、NFCの新技術である「HCE(Host Card Emulation)」に対応したサービスとなる「スマートビューロクラウド(仮称)」の提供も予定している。
※国内№ 1 は富士キメラ総研調べ
ICカードでは接触、非接触共に国内No.1
自らFeliCaやNFCのサービスを開拓
DNPは、国内のICカードビジネスを常にリードしてきた。また、国内でデファクトスタンダードとなっているFeliCa製造のライセンスをいち早く取得し、品質の高いカードの製造・発行はもちろん、カードプリンターやシステム機器の開発を行っている。さらには、FeliCaを活用したサービスの提供まで幅広く展開しているのが特徴だ。
「富士キメラ総研の市場調査によると、弊社は国内のICカード市場の41%のシェアを獲得しており、接触および非接触ともに国内№1となっています。当然、FeliCaの製造・発行においても国内№1の地位を確立してきました」(大日本印刷 情報ソリューション事業部 デジタルイノベーション本部 スマートカードサービス部 リーダー 石川勝章氏)
また、FeliCaについては、カードはもちろん、「おサイフケータイ」の機能もあるため、モバイルを活用したソリューションも広く提供している。そして、FeliCaを含む近距離無線通信の国際標準規格である「NFC(Near Field Communication)」への対応もいち早く開始している。
2001年にFeliCaの製造・発行を開始
最先端カードを次々に開発
これまでのFeliCaビジネスの変遷として、2001年3月にソニーと「FeliCa ICカード技術」のライセンス契約を締結。ビットワレットの「Edy」(現楽天Edy)やJR東日本の「Suica」などがスタートした2001年当初から、さまざまなFeliCaカードの製造・発行を行っている。2002年5月には、フルカラーカードプリンター「CX210」を使用したICカード発行システムを開発。2003年3月には、4行エンボス加工が可能なFeliCaカードを開発した。これにより、国際ブランド搭載のクレジットカードとFeliCaの複合カードの発行が可能となった。
2004年には、FeliCa技術方式の非接触インターフェースと接触インターフェースの両方を搭載したデュアルインターフェースカードを開発。これにより、各銀行等ではキャッシュカードにクレジット機能やその他決済機能(電子マネー等)を集約したカードを実現した。同10月から全国の金融機関向けに販売を開始している。従来、1枚のICカードに、FeliCaとJavaCardの両方の機能を搭載する場合、2つのICチップを搭載する必要があったが、両機能を1つのICチップに搭載。これによりFeliCaアプリケーションを接触インターフェースで使用したり、JavaCardアプリケーションを非接触のFeliCaインターフェースで使用することができるようになった。
高セキュリティなオフィス環境を
実現する「SSFC」を設立
2005年2月には、高セキュリティなオフィス環境を実現するため、「SSFC(Shared Security Formats Cooperation)」を主体となって設立した。それまではゲートシステムで使用するICカード、パソコンへのアクセス用ICカードなど一人の社員が複数のICカードを持たざる得ないケースがあったり、セキュリティ関連機器とOA機器が連携された高度な情報セキュリティ体制は実現できていなかった。これを実現可能にしたのがSSFCであり、SSFCのフォーマットに対応したセキュリティ関連機器、OA機器、オフィス什器、ICカードを組み合わせて導入することにより、1枚の社員証ICカードで、オフィスにおけるすべてのセキュリティ関連機器とOA機器を利用できるようになった。
SSFC参加企業は2015年4月現在で233社になっている。
多様なFeliCaサービスをリリース、
用途開発にも注力
2006年11月には、国内で初めてFeliCa一体型ETCカードを開発。車中で利用するETCカードには高い耐熱性が求められるが、製造技術を工夫することで、その要求に応えている。
2007年には、FeliCa機能を搭載した携帯電話(おサイフケータイ)に会員証機能を簡単に追加できるパッケージサービスを開発した。従来のカード同様に、おサイフケータイも会員証として利用したいと考える流通小売企業のニーズに対応し、ダウンロードサーバのASPサービス「モバイルビューロ」と、携帯電話用会員証アプリケーションをパッケージ化している。2007年11月には、ソニーほか複数社とフェリカ事業に関する合弁会社であるフェリカポケットマーケティングを設立。会員証、ポイントカード、電子クーポンなどのサービスを、カード発行後でも追加し、利用することができる「FeliCaポケット」を広める役割を果たしている。
2009年には、FeliCa9KBを搭載し、多様な機能を1枚のICカードに集約できるハイエンドなICカードを開発した。ローエンドでは、ソニーがFeliCaで新しい市場を開拓するために投入した、メモリ容量を抑えた「FeliCa Lite」搭載カードの製造・発行を開始している。
2010年には、カードとは異なった形状のFeliCaを数多く投入。3月、小型非接触IC媒体「Smart-Jacket(スマートジャケット)」をリリース。デザイン性と携帯性に優れ、キーホルダーや携帯電話用ストラップとして利用可能なFeliCaチップを搭載した製品として、幅広い分野で現在も活用されている。
2013年3月には、QUICPayの機能を搭載した、FeliCaカードなどを、申し込んだその場で発行するサービスを開始している。
MKSmart 社と提携し
東南アジア地域の展開強化
2014年3月には、ベトナムのカードおよびビジネスフォームの製造・販売最大手のMKSmart社(MK Smart Joint Stock Company)と、業務・資本提携を行い、東南アジア地域におけるカード事業の競争力の強化を図った。
MKsmart社は、ベトナムで唯一、国際ブランドのクレジットカードの製造・発行者認定を取得し、ベトナムのトップメーカーとして、金融、通信などのICカードを提供している。今後、東南アジア地域では、クレジットカードやプリペイドカード、携帯電話SIMカード、交通乗車券、ETCカードなどのさまざまな用途でのICカードの普及が進み、急速な市場拡大が期待されている。すでに実際、2014年にDNPとMKSmart社の連携によりベトナムの公共交通機関にFeliCaカードを提供している。
DNP FeliCa 開発の歩み
2001年3月 |
【FeliCaライセンス取得】ソニーとFeliCaカード製造のライセンス契約を締結 |
2003年3月 |
【世界初】4行エンボス加工が可能なFeliCaカードを開発(国際ブランドクレジット+FeliCaのハイブリッドカードを実現) |
2005 年2月 |
【FeliCa用途拡大】高セキュリティなオフィス環境を実現する企業連合『 SSFC』 を設立( FeliCaを利用した汎用的なセキュリティ環境を提供) |
2005 年2月 |
【世界初】FeliCa 対応デュアルインターフェイスJava カードを開発。(金融用途とFeliCa の一体化を実現) |
2006 年11月 |
【国内初※】FeliCa 一体型ETC カードを国内で初めて開発(車中利用を考慮した高い耐熱性を実現) |
2007 年11月 |
【FeliCa 用途拡大】ソニーと FeliCa(フェリカ)に関する合弁会社「フェリカポケットマーケティング」を設立 |
2010 年3月 |
【異形状FeliCa 開発】デザイン性や携帯性に優れ「FeliCa 性能検定」も取得した異形状FeliCa「Smart-Jacket」を開発 |
2012 年9月 |
【電子マネーの推進】トランザクション・メディア・ネットワークス社と業務提携し、NFC を活用したシンクライアント型の電子決済システムやポイントシステムなどを提供 |
2013 年2月 |
【リモート発行サービスを提供】QUICPay 機能を搭載したFeliCa カードをリモート発行するサービスを開始 |
2014 年5月 |
【海外展開】ベトナム最大手のカードメーカーMKSmart 社と業務・資本提携。(ベトナムでFeliCa 製造が可能に) |
※国内発は国内特有の事柄のため
さまざまな形状のFeliCa を発行
6KBのFeliCa、FeliCa Lite-Sの発行が進む
このように、国内でさまざまな取り組みを行ってきたDNPだが、ここ数年、FeliCaをキーホルダー、リストバンド、フィギュアなどの形状に仕上げた製品となる「Smart-Jacket(異形状FeliCa)」の発行が伸びているそうだ。最近では、航空会社と連携した尾翼型キーホルダーなどが発行されている。
たとえば、東燃ゼネラルグループのEMGマーケティングとジェーシービーと開発した、FeliCaチップにQUICPay機能を搭載したキーホルダー型デバイス「Speedpass+(スピードパスプラス)」では、DNPが製造・発行業務を担っている。QUICPayの申込情報の生成と発行を、FeliCaチップにリモートで行うことにより、申し込んだその場で発行するサービスを展開している。
また、スターバックスコーヒージャパンでは、iPhoneケース型の「STARBUCKS TOUCH The Cup」を展開しているが、金属対応の遮蔽シートを含めて、読み取り精度の高いケースを提供しているという。
DNPではハイエンドからローエンドまで、さまざまな非接触ICカードを開発しているが、FeliCaカードでは、ICカードとリーダーライター間の相互認証と暗号通信に関し、従来のDES(Data Encryption Standard)暗号方式に加え、よりセキュリティ性の高いAES(Advanced Encryption Standard)暗号方式にも対応した6KBのFeliCaの発行が進んでいるそうだ。このFeliCa6KBはセキュリティに関する国際標準規格であるコモンクライテリア(ISO/IEC 15408)の評価保証レベル「EAL6+」を取得しており、業界最高レベルのセキュリティ性能を保持している。
新規の電子マネーの発行については、複数の事業者が6KBを採用。また、地方の交通系ICカードについても、新規はもちろん既存カードからの切替でも6KBカードの採用が進んでいる。DNPでは10以上の事業者の交通系ICカードを発行している。
また、交通系ICカードには、1枚のカードにポイント・クーポン・スタンプラリーなどの複数サービスを搭載できるFeliCaポケットの機能が搭載されているケースが多い。各地域では、交通系ICカードで、FeliCaポケットの機能を活用した取り組みが行われているそうだ。
さらに、ソニー製ICチップ「FeliCa Lite-S」を搭載し、簡易認証用途向けに機能を限定した低価格な非接触ICカードの発行も好調だ。会員証機能として、流通大手のメンバーズカード、サーバ管理型プリペイドカード、アミューズメント施設などでFeliCa Lite-Sが搭載されたカードが利用されている。セキュリティ面でも、データを読み書きする際の認証機能を任意で設定できるため、第三者によるデータの改ざんを防止することが可能だ。
なお、FeliCaを製造・発行する上でのDNPの強みは、自社でアンテナ設計からカード製造・発行までを一貫して行っている点が挙げられる。このためカードと端末の通信特性をしっかりと把握できたり、カードに関する様々なニーズに対して迅速な対応が可能だ。
国内ICカード市場が飽和状態の中、対前年比の発行は増加
2016年以降もFeliCa は伸びると予測
このように、日本のICカード市場をリードしてきたDNPだが、その成長は現在も加速しているという。石川氏は、「ここ3年間、発行枚数は前年を上回っており、2016年以降も継続的な伸びが続くと思われます」と自信を見せる。2007年の電子マネー元年、2013年の全国交通系ICカード相互利用サービスなどに比べると、大きなトピックはないように感じられるが、電子マネーや交通系ICカードの一定の需要に加え、前述の異形状FeliCaやFeliCa Lite-Sによる会員証やポイントカードへの活用など、次々と新しい市場が生まれているそうだ。FeliCaの誕生により、決済、交通、IDセキュリティ、会員証など便利な機能が次々と登場しているため、今後も新しいサービスを企画しているという。さらに、これらの成功事例の水平展開や前述のMKSmart社との業務提携によりFeliCa製造・発行拠点を海外でも整備し、東南アジアを中心に海外でも幅広いビジネスを展開していきたいとしている。