2015年10月29日8:44
海外の注目サービスを紹介
日本では、FeliCa を中心とした非接触IC カードサービスが展開されているが、海外ではどのような決済が行われているのだろうか?ここでは、海外の非接触決済サービスを概観したい。
世界中に広がる国際ブランドのコンタクトレス決済
オーストラリアでは非接触決済が主流に
海外では、Visa やMasterCard といった国際ブランドが展開するEMV技術を用いた非接触IC決済ソリューションが普及の兆しを見せている。Visaの「Visa payWave」やMasterCardの「MasterCard Contactless(MasterCard PayPass)」は、NFCサービスの中で代表的な決済ソリューションとなっており、アメリカ、カナダ、シンガポール、韓国、香港、台湾、オーストラリア、フランス、イギリスなどで利用可能だ。
中でも普及しているのはオーストラリアだ。現在、VisaやMasterCardのクレジットカードを発行する銀行(イシュア)は、コンタクトレス搭載のカードを発行。現地の2 大スーパーマーケットといわれるコールス(Coles)とウールスワース(Woolworths)を筆頭に、カフェやファーストフード、タクシーなどで非接触ICカードによるスピーディーな決済が利用可能だ。イシュアにより基準は異なるが、A100ドル未満はサインレスで支払いが可能で、100ドル以上はタッチ&PINになるそうだ。
また、オーストラリアでは、銀行が発行するキャッシュカードを決済に利用できる「エフトポス(EFTOPS)」が日常的に利用されているが、同カードでもコンタクトレス決済がスタートしている。
オーストラリアでコンタクトレス決済が浸透した理由については、カードへの搭載が進んだことに加え、半数以上の加盟店で実際に利用できることが挙げられる。また、現地の生活者に話を伺ったところ、Visa payWave、MasterCard PayPassといった決済ブランドとしての認知よりも「Tap&Go(タップ・アンド・ゴー)」というイメージが強いということだった。実際、テレビのコマーシャルなどでも「Tap & Go」を訴求しており、簡単にかざすだけで支払いができることをPR している。
なお、オーストラリアでは、決済端末としてインジェニコがトップシェアとなっている。実際、街中でもインジェニコ製の端末を見かけることが多かった。また、インジェニコやベリフォンの端末は、一台の筐体で接触IC カードの取引も非接触の取引も可能となっている。日本における決済時には、非接触決済で支払う場合、店員に支払い手段を告げてから決済を行うが、オーストラリアでは特に非接触の支払いであることは言わなくても、カードをかざせばそのまま支払いが可能だ。
HCE によるモバイルペイメントもスタート
英国でもロンドン五輪以降、非接触決済が加速
また、オーストラリアでは、コモンウェルス銀行、ウエストパック銀行、ANZ(オーストラリア・ニュージーランド銀行)といったトップクラスのイシュアがNFC の非接触決済に取り組んでいる。まだ初期の段階だが、たとえば、コモンウェルス銀行ではNFC のHost Card Emulation(HCE)を利用した決済サービスをトークナイゼーションと組み合わせて提供している。非接触決済が普及している環境ということもあり、NFC においても世界をリードすることができると期待する関係者は多い。
また、英国では、2012 年のロンドン五輪において、会場内の3,000店舗にVisa payWave 端末が導入された。イギリスではVisa payWave対応カードの普及が進んでいるため、非接触決済での利用も多かったそうだ。ロンドンオリンピック閉幕後も発行のカード、決済端末は増加。ヨーロッパはセキュリティに対する概念が強いため、Visa payWaveも速いスピードで浸透しているそうだ。また、ロンドンバスでは、Visa payWaveに加え、MasterCard PayPassでも乗車できるようになっている。
アジアで広がる非接触電子マネー
香港、韓国、台湾、シンガポールなどで展開
●「Octopus」(香港)
香港で発行されているICカードの「Octopus(オクトパス)」は、香港の人口を上回る枚数が発行されている。ソニーの非接触ICカード技術「FeliCa」を採用した最初の事例としても有名だ。Octopusは、1997年に交通乗車券としてサービスを開始。現在は電子マネーとして、コンビニエンスストアやファストフードチェーン、スーパーマーケット、駐車場など、多くのシーンで使用されている、香港唯一の交通系ICカードとなる。さらに、MTR(地下鉄運営会社)のビルの中に入るための鍵として使用できる。 なお、カード型以外にもキーホルダー、腕時計タイプなどが販売されている。また、「ハローキティ」、「ワンピース」、ファッションブランド「Paul Frank(ポールフランク)」、「ちびまる子ちゃん」などのキャラクターとコラボレーションしたカードも発行されている。
●「T-Money」(韓国)
韓国のコリアスマートカード(Korea Smart Card)は、2003 年10 月に設立され、2004 年7月1日から「T-Money」と呼ばれるIC乗車券を発行している。鉄道、バス、タクシー等の交通機関に加え、日本の「Suica」等の電子マネー同様にコンビニエンスストア、ファーストフードなどでの決済にも利用可能だ。ソウル市民のほとんどが使用しており、2004 年7月に新交通カード切り替えを行った。当初は首都圏電鉄と路線バスの乗車カードのみで利用が可能だったが、2004年12月に電子マネーに対応した「スマートTマネー」を投入。コンビニエンスストア、ロッテリア等のファーストフードで利用可能となっている。また、携帯電話やスマートフォンで鉄道乗車などが可能な「モバイルT マネー」のサービスも行っている。
●「悠遊カード」(台湾)
台湾の「悠遊(Easy)カード」は、交通カードとしてサービス開始。現在は、鉄道に加え、バス、駐車場等でも利用されている。また、2009年6月にコンビニエンスストアのセブン- イレブンとの戦略的提携を発表。2010年4月1日より電子マネーでの利用を開始し、現在はコンビニエンスストア、ドラックストア、飲食、スーパーマーケットなどで利用が行われている。
●「icash」(台湾)
「icash」は台湾のコンビニエンスストアのセブン-イレブンで利用できる電子マネー。2004 年に台湾全土のセブン- イレブンで利用を開始した。2007年8月には、発行枚数500万枚を突破。特徴として、台湾はキャラクター好きが多く、観光客なども意識して、デザインカードを数多く発行している。また、公共交通機関の「悠遊カード」と、セブン-イレブンのicashカードが合体した「icash 悠遊カード」が2010年4月1日から発行されている。
●「NETS @ FlashPay」(シンガポール)
Network for Electronic Transfers(Singapore)Pte Ltd(NETS)は、3つの銀行が株主となって運営されており、「NETS」は銀行のキャッシュカードに紐づいたデビットカードとして利用可能だ。シンガポールではクレジットカード以上に生活に密着した決済手段として定着している。NETSは第一世代の接触ICカードに加え、2009年10月からIC乗車券の「EZ-Link」と相互利用が可能な「CEPAS」(Contactless E-Purse Applications-in-Singapore) に基づいた、第二世代の非接触ICカードである「NETS@FlashPay」カードが発行されており、交通機関や少額決済で利用できる。2015年5月現在、約450万枚が発行されているそうだ。
●「EZ-Link」(シンガポール)
「EZ-Link」はシンガポールの交通に利用可能だ。もともとはソニーのFeliCa を利用していたが、政府の推進もあり、NETSと相互利用できる「CEPAS」に切り替わった。また、大手のタクシー会社、コンビニエンスストアやファーストフード店などで電子マネーとしても利用できる。なお、「EZLink」はシンガポール政府が主導するモバイルNFCプロジェクトでも機能が搭載されているが、現状は電子マネーのみで鉄道乗車はできない。