2016年11月11日8:35
J-Debitの利用活性化、口座の稼働を高めるサービスとして期待
金融庁に設置されている金融審議会では、現金を小売業のレジなどで引き出すキャッシュアウトサービスの導入に向けた検討がすすめられ、2015年12月22日の「決済業務等の高度化に関するワーキング・グループ」の報告書において、ITの進展等を踏まえた現行制度の見直しとして、「デビットカードを活用したキャッシュアウトサービス」についての報告がなされた。同サービスが実現した場合の効果等について、みずほ銀行に話を聞いた。
J-Debitにより加盟店で預金の引き出しが可能に
預金者保護も課題の一つとして検討
日本電子決済推進機構(日本デビットカード推進協議会)が運営するデビットカードサービス「J-Debit」。みずほ銀行は、当機構の副会長としてJ-Debitを推進している。J-Debitの取扱高は苦戦を強いられているが、「国際ブランドデビットの状況でも分かる通り、クレジットカードに抵抗感を感じる方は依然多く、デビットカードのニーズは根強くあります。加盟店や利用シーンの拡大によりJ-Debitにもまだまだチャンスが潜んでいると考えています」と、みずほ銀行 個人マーケティング推進部 リモートチャネル推進室 早川卓磨氏は話す。
加盟店のレジで預金が引き出すことができるようになるキャッシュアウトサービスについては、海外で一般に普及している事例等を踏まえ、2000年の金融審議会でも構想として挙がっていたが、顧客保護や補償の観点で検討すべき事項があるとされ、また、J-Debitが同年に全国サービス開始したばかりであったこと等から当時は実現しなかった。今回の報告書に基づき、金融庁の規制が緩和されれば、1年ほどでサービスをリリースできるのではないかとみている。
キャッシュアウトの実現に向けた議論では、不正利用の防止に向けた対策も焦点の1つとなった。預貯金者保護法では、ATMが不正利用された場合、一定の条件を満たす場合には銀行が保証しなければならない。J-Debitは預貯金者保護法の対象ではないが、「ATMと同じように加盟店で現金が引き出せるようになれば、補償等の対応も検討していく必要があります」と、早川氏は説明する。万が一、不正利用が発生した際に、イシュア、アクワイアラ、加盟店、利用者など、すべての関係者が緊密に連携して速やかに問題を解決できるような体制を整備しなければならないとのことだ。
キャッシュアウトでも不正利用は起こりにくい?
1万円以下の預金の引き出しが中心に
これまでJ-Debitでは、不正利用は大きな問題となってこなかった。今後、キャッシュアウトサービスがスタートすることになっても、キャッシュアウトを実施する際には、J-Debitのショッピング同様に暗証番号(PIN)を入力する必要が生じ、また、ATMと異なり対面での取引が中心となるため、不正利用は起こりにくいと考えられる。みずほ銀行は、どの加盟店のどの店舗でキャッシュアウトサービスが行われたのかという事実を把握することができれば、キャッシュアウトサービスをスムーズに運用していくことは可能であると考えている。
キャッシュアウトサービスの運用ルールの策定にあたっては、利用者保護の観点から、金融機関と加盟店との間で、加盟店の店舗での利用限度額を定める必要があると考えられるが、「J-Debitの消費者調査のアンケート結果では、キャッシュアウトサービスの希望利用金額帯は1万円以下が多く、また、加盟店としても、オペレーション上、大きな金額の取り扱いには慎重にならざるを得ないと思います。利用限度額は金融機関と加盟店との間で定めた利用限度額の範囲内で、店舗が自主的に設定する形になるのではないかと思いますが、数万円になることが想定されます」と早川氏は話す。
なお、海外には、既にキャシュアウトサービスを導入している国もあるが、その中ではレジに貯まっていく現金をはき出す目的でサービスを導入する加盟店もあるようだ。
加盟店手数料はショッピングと同様に
ATMが少ない地域でのニーズ、新しいニーズの発掘が見込める
また、加盟店の手数料は、ショッピングとキャッシュアウトサービスとで変わらない運用となるだろう。消費者の手数料は明確には定まっていないが、加盟店からすると運用負担があるので、その分を利用者に負担してもらうところもあれば、顧客利便性、他社とのサービス差別化のために費用を加盟店負担にするケースもあるだろう。早川氏は、「手数料については、加盟店の判断で設定できるようになればよいのではないかと思います」と見解を述べる。
みずほ銀行は、キャッシュアウトサービスは、近隣にATMが少ない地域はもちろん、高齢化、サービス高度化の潮流等により病院や宅配事業者など都市部でも潜在ニーズがあるのではないかと考えている。また、端末や電文の構成に手を入れずに進められれば、加盟店側も導入に向けたハードルを下げられるとしている。
「スペースや採算等の問題でATMを設置できない事業者・店舗は少なからずいらっしゃいます。そういった加盟店様にとってキャッシュアウトサービスは、代替手段になり得るのではないかと考えます。今のJ-Debitの仕組みを活かして、加盟店のオペレーションが変わらなくて済むような形でのサービスにしたいと考えており、そのための準備を進めています」(早川氏)
銀行口座の利用活性化の可能性も
決済にかかわるトータルなサービスで顧客利便性を高める
みずほ銀行は、実際にキャッシュアウトサービスの運用が開始されれば、J-Debitの利用が活性化され、ひいては銀行口座の利便性向上にもつながる可能性があると期待している。
同部の若宮氏は最後に、「キャッシュアウトサービスは、お客さまがより便利に銀行口座をご利用頂くことが可能になるサービスの1つとして期待しています。また加盟店様にとっても、顧客の囲い込み等に向けた差別化ツールとしてご利用いただけるのではないかと思います。当行は、今まで以上にお客さまに便利に金融サービスをご利用いただくために、新たなサービスの創出に向けて、引き続き積極的に取り組んでいきます」と意気込みを語った。