2020年2月18日9:45
近畿日本鉄道(近鉄)、三菱総合研究所、オムロン ソーシアルソリューションズ、chaintope、近鉄グループホールディングスは、2020年2月17日から23日まで、ブロックチェーン技術を活用したQRコードのデジタル乗車券の実証実験を行っている。実験開始初日に担当者に話を聞いた。
近鉄日本橋と近鉄八尾で実験実施
ブロックチェーン技術の活用を検証
近鉄等が行うデジタル乗車券の実証実験は、近鉄難波線「近鉄日本橋」駅と近鉄大阪線「近鉄八尾」駅において、関係者約50名を対象に実施している。今回の実験は、総務省の「地域経済の活性化に資するブロックチェーン技術による情報の安全かつ円滑な流通及び『スマートコントラクト』による省力化等の検証、および社会実装に向けた調査研究」の一環として行っている。
近鉄日本橋と近鉄八尾では、自動改札の入口、出口付近の切符投入部にQRコードリーダーを設置。企画乗車券をスマートフォンアプリに搭載したQRコード乗車券に対応させる想定で検証を行っている。関係者は、両駅において、スマートフォンアプリに搭載したQRコード乗車券を実験用の自動改札機にかざし、入出場日時の記録、入出場の可否判断などをチェックしている。
近鉄では、ブロックチェーン技術を活用した電子地域通貨の「近鉄ハルカスコイン」「近鉄しまかぜコイン」の運用を三菱総合研究所と実施している。今回のデジタル乗車券も同様にブロックチェーン技術を活用したものだ。近鉄では、ブロックチェーン技術がもつデータの信頼性や耐改ざん性といった特徴により、権利証明などのセキュリティ面を強化できると期待する。
改札機でQRコードを読み取って、返答を戻す時間は200ミリセカンド(milli second、1,000分の1秒)。これは交通系ICカードよりは遅いが、「QRコードをかざす行為に慣れれば、改札で立ち止まることなく通過できます」と近畿日本鉄道 鉄道本部 企画統括部 営業企画部 課長 廣瀬貴幸氏は話す。17日は近鉄として初の実験ということもあり、QRコードの認識はされるものの、上位システムとの連携が不安定で改札の通過に手間取る部分もあったが、そういった課題を期間中に改善していきたいとした。
実験後は他の鉄道事業者との連携も視野に
企画乗車券のデジタル化を検討
廣瀬氏は「実証実験は23日で終了しますが、関西の鉄道事業者でも実験を行いますので、将来的に連携できればと考えています。近鉄も他の鉄道と接続している路線もあるため、お客様の利便性は高まります」とした。
今回は実証実験用のシステムだが、本格展開時には、タッチのしやすさや、視認性を高めるなど、改札の改良も必要となる。
実証実験後の活用として、「伊勢・鳥羽・志摩スーパーパスポート“まわりゃんせ”」といった企画乗車券をデジタル化し、観光客などがWebで購入する方法などが考えられるとした。すでに交通系ICカードは全国で普及しており、日常的に利用できる環境が整っているため、それがQRコードに置き換わることは想定していない。近鉄にとっては、乗車券のデジタル化により、発券、改札、案内等の業務を効率化できるメリットも挙げられる。さらに、磁気の券売機の仕組みは、改札の紙詰まりが起こることもあり、コストがかかっているため、その解消にもつながるとした。
地域通貨との連携で複合的なサービスも視野に
買い物や移動データを分析しサービス向上へ
将来的には、「近鉄ハルカスコイン」「近鉄しまかぜコイン」の決済機能との一体化も考えられる。近鉄では、「近鉄ハルカスコイン」の2度の実験を行い、その成果を踏まえ、2019年11月11日~1月31日まで伊勢志摩エリアにて「近鉄しまかぜコイン」を商用展開した。「近鉄しまかぜコイン」は、資金決済法の関係もあり半年の運用となったが、「今後は通年で運用できるサービスを展開した上で、交通手段、施設入場券も合わせながら、複合的なサービスを検討していきたいです」と近鉄グループホールディングス 総合企画部 課長 林龍人氏は構想を述べる。
近鉄では、●●Payといった支払い手段の提供だけでなく、発券、移動、施設利用も含めたサービスを一元化できる強みがある。林氏は「人の移動手段と購買データを集約できれば、サービスの向上につなげられるという期待感もあります」とした。近鉄では現在、志摩市と観光地型MaaS(Mobility as a Service)の「志摩MaaS」の実証実験に取り組んでいるが、将来的に連携し、買い物や移動データを即時に分析して、プッシュ通知する仕組みなどを検討していきたいとした。