2011年2月14日8:36
アメリカン・エキスプレス:消費者支出の展望(4)
The Me-male
(草食系男子の台頭)
日本の消費者がより健康で長生きするようになった今、男性の人生における優先順位が変化しつつある。それは戦後の仕事中毒の生活から、体と心の健康に気を使うという、女性によく見られる意識の高まりである。この傾向は、今まで女性だけを対象に販売されていた癒し系商品や、リラックス・疲労回復を目的としたサービスを、男性が積極的に受け入れていることにつながっている。
「若い男性の身なりへの気の使い方が、まるで女性のようになってきている傾向がはっきりと見られる」とシェピス氏は述べている。「男性用の口紅、マスカラ、ファンデーションが販売されている。また、ヘアカット代に毎月1万円払っている男性もいる。ここ日本では、確実によりフェミニンな方向に向かっている」
男性の89%は、生活の質を決める要因のトップ5に成功することを挙げず、85%は人生で優先すべきもののトップ5にキャリアを挙げなかった。一方、65%が最も大切なものは健康であると答え、お金を稼ぐことと答えた29%をはるかに超えた。また83%が心身の健康のためにお金をかけるとしている(これは女性と同じ割合である)。
80年代から90年代前半のバブル経済がはじけると、安定した職が減少し、同時にかつてサラリーマンの社会的ステータスを表すものとして扱われていた様々な関連グッズの売上が落ち込んだ。「定職に就けない若い男性たちは情熱を失ってきており、その数は増加している」と中央大学の山田教授は述べている。
「1988年のアジア経済危機の後、定職の数が減っている中、まだ多くの大卒者が就職できずにいる」
男性消費者は、ライフスタイルと心身の健康をより重要視するようになってきた。そして、この傾向は今後10年間でさらに強まるだろう。心身の健康を重視する傾向への移り変わりは政府も認識するところとなり、2010年6月に「イクメンプロジェクト」が開始された。この活動は、より多くの男性が育児に参加するように働きかけ、新米パパには育児休暇や時短勤務を取得できるようにした。
小売業界はこの変化への対応として、これまで女性だけを対象にしていたサービスや商品を男性にも提供している。ギャツビーは男性用美容マスクを発売、WishRoomは男性用ブラジャーまで販売している。Coachは、東京丸の内にある旗艦店を男性向けに改装、伊勢丹は、昨年の夏に男性用の日傘を販売した。
さらに、従来女性らしいとされてきたリラックスできるものや伝統的な行事にも男性は目を向けている。最近では多くの男性が、下町日本橋にある空門などの学校で茶道を学んでいる。ここでは男性向けの茶道教室のほか、三味線や生け花の講座も開かれている。ABCクッキングスクールは、強い要望に応え、男性を受け入れるクラスを始めた。
極端に言えば、この傾向は日本の労働文化や勤労意欲から身を引いた男性の中に自然に現われたのだ。日本の競争的な企業の価値観を、もはや反故にされたものとして否定する若い男性が増えている。彼らの「草食系」ライフスタイルを山田教授は「子どもを持たず、夢、希望、仕事のスキルもない」と特徴づける。
彼らが日本の出生率と経済成長率に及ぼすネガティブな影響は、今後10年間でさらに強くなるだろう。今後10年間で、男性の心身の健康への関心がさらに高まるにつれて、ブランドはその要求を満たす必要がある。そのためには、女性が求めるような、レジャーや余暇の楽しみや心身の健康を意識した男性向けの商品やサービスを提供することが求められるだろう。
トップ3:男性にとっての優先事項
・健康 (66%)
・ 家族と過ごす時間 (48%)
・ パートナーと過ごす時間 (30%)
消費者ケーススタディー
: The Me-male
サワダジュンは30歳の会社員である。東京・渋谷の近くに2人目の子どもの出産を控えた妻と住んでいる。住まいは若いファミリーに人気のエリアだ。
ジュンがもっと若かった頃は、高価な電化製品を買ったり、東京の高級住宅街に住んだりすることに魅力を感じていた。しかし、自分の家族や友人たちと時間を過ごしたいと思うようになってきた。今は、付き合いや外食、ジム通いやゴルフに時間とお金を使って楽しんでいる。時には登山に行くこともある。「仕事第一ですべてを会社に捧げることを期待されて育った昔の世代とは違うと思います」とジュンは言う。
それでもジュンは、残業や週末の接待ゴルフ、長期休暇をとらないなど昔ながらの慣習に従わなければいけないと未だに感じている。「会社で好印象を保ち、同僚より先に出世するには、年功序列制度ということもあって、まだまだ古いやり方に従わなくてはなりません」と言う。しかし、そのような昔の習慣は以前ほど重要ではなくなったと感じている。「時代は少しずつ変わってきています」
ジュンの高級品への関心は薄くなり、「過度に」ではなく必要なものを買うようになった。しかし、彼曰く「お金を無駄にしたくないので」、品質をより重視している。若い世代は、最新のiPhoneや大型テレビを持たなければという社会的なプレッシャーに直面している、とジュンは感じている。「おそらく車に関しても同じでしょう」とジュンは言う。「だって、男は年齢に関係なく、いい車が欲しいですから」