2022年4月4日8:00
コロナ禍における在宅需要の増加で成長が続く通販・EC市場の売上高は、ついに10兆円の大台に達した。ECを中心に通販が定着し、伸び率も前年比20%増と大幅に伸張。AI技術を用いた接客やリアルとネットを連動させた施策など、さまざまな工夫も奏功し、市場は活況を呈している。在宅でECの利用回数が増えたこともあり、業界では手軽なクレジットカード不要の後払い決済を強化する動きもみられる。
※初版の通販・EC市場の売上高の記載に誤りがございました。正しくは10兆円となります。
22年の連続成長で
市場規模は10年前の2倍に
毎年8月に公益社団法人 日本通信販売協会(JADMA)が行う発表によると、2020年の通販・EC市場売上高(物販)(表1)は前年度比20.1%増の10兆6,300億円と初の大台に達した。20%を超える伸び率は、調査を開始した1982年度以来初めてとなる。1998年度以来22年間連続して増加が続き、10年前と比べて約2倍の規模に拡大した。巣ごもり需要と一律10万円の特別定額給付金が消費を後押しし、ネットを中心に通販が定着したとみられる。
直近の市場売上高は、2022年1月に発表される業界紙2紙の数値となる。「日本流通産業新聞」が前年比18.0%増の10兆4,033億円(売上高は上位503社合計・増減率は比較可能な191社での算出数値)(表2)、「通販新聞」が同19.1%増の9兆5,755億円(上位300社合計)と、いずれも大幅伸張となった。
主だった成長要因としては、アマゾンなどのECモール系が堅調であることや、家電や家具、食品など、在宅時間を充実させる目的の商品が好調だったことが挙げられる。中でも実店舗を有する企業のEC売上高が好調で、家電は前年比60%増となったヨドバシカメラを筆頭に、ビックカメラや上新電機などが伸びた。家具・雑貨のニトリは同59.2%増、食品のオイシックス・ラ・大地は同40.9%増と目覚ましい伸びを示した。アパレル企業の中では、日常用衣料が人気のユニクロが同17.9%増だった。
ファッションや化粧品は「OMO」や「パーソナル」で訴求
コロナの影響でアパレル・化粧品業界は実店舗が苦戦したが、ECではテクノロジーを使った新たな販売手法を導入する動きが目立った。2021年には多くの企業が店舗スタッフによるパーソナルなスタイリング提案や実店舗とネットを連動させたOMO(Online Merges with Offline)施策を展開し、訴求度を高めている。
アパレル系では、オンワードが4月に「ららぽーとTOKYO-BAY」など3店のOMOストアを相次ぎオープン。自社サイトの商品を最大5点まで店頭に取り寄せて試着できるなど、店舗とサイトを組み合わせた施策を展開している。事前に顧客が指名したスタッフが、店舗でもオンラインでもパーソナルスタイリングを提案するサービスが人気という。
5月にはアダストリアも、自社サイトと連動した初のOMOストアを「ミッテン府中」などに出店。店内に設置した大型デジタルサイネージを通じ、全国の約3,000人から選ばれた人気販売スタッフがコーディネート提案を行う。1対1でスタイリング相談ができる「パーソナルスタイリング」では、事前予約したお気に入りスタッフから自分だけのスタイリングアドバイスを受けられる。試着したい商品をサイトで事前予約したり、ネットで購入した商品を店舗で受け取ったりすることも可能だ。
化粧品系ではAIを使った無料肌診断サービスを導入し、パーソナライズスキンケア商品を販売する動きが加速した。肌の分析結果をもとに個人ごとのスキンケア方法を提案するもので、カウンセリングを自粛している直営店で培ったノウハウをネットで生かしている。
オルビスは4月から、自宅で肌測定ができるIoTデバイスを用いたパーソナライズスキンケアサービスを開始。肌の水分量を測定するセンサーと皮脂量・キメ・毛穴の状態を測定するカメラを搭載し、AI の技術や同社独自の肌理論を用いて肌状態を分析する。測定結果や肌状態に必要なケア情報が専用アプリに届くほか、その人に最適な商品をAIが選択し定期購入形式で届ける仕組みだ。
ファンケルも9月から、質問と顔写真を使ったAIによる肌分析を組み合わせた非接触型のカウンセリングサービスを導入した。肌質や肌状態を測定して分析し、利用者に最適なスキンケア製品を提案。サイトや店舗に誘導し、最適なパーソナル商品を勧める。
D2Cブランドにも広がるOMO展開
2021年には、自ら企画・開発・製造した商品をECで販売するD2C事業者にもOMO展開が広がった。身長155センチ以下の小柄女性向けアパレルを扱うコヒナが5月に都内にオープンした期間限定の「試着専用店舗」は、身長155センチ以下のスタッフが接客やコーディネート提案を実施。商品の在庫は置かず、購入後にその場でオンライン決済して配送する仕組みを取り入れ、期間延長するほど好評だった。
実店舗を持つ百貨店がD2C事業者を呼び込み、OMOストアのスペースを提供するビジネスモデルも目立った。そごう・西武は9月に西武渋谷店にOMOストアを開設し、ファッションやコスメ、雑貨など51のD2Cブランドを誘致。10月には大丸松坂屋もOMO型ショールーミングストアを設け、19のD2Cブランドを招いた。ターゲット層のZ世代やミレニアル世代を視野に、それぞれアプリによるキャッシュレス決済や、人とスマホ機能を組み合わせた接客を盛り込むなど工夫を凝らした。
ファッションEC大手のZOZOもD2Cブランドとの協業プロジェクトに着手し、参加するD2Cブランドを公募。商品企画・生産・販売・物流など事業立ち上げに必要な全工程を、「ZOZOTOWN」のノウハウを使って全面的にバックアップする。10月には13のファッションD2Cブランドとともに、阪急うめだ本店で協業事業初のポップアップストアイベントを開催。OMO展開を通じ、ECとリアルを連動させた世界観の創出につなげるとしている。
後払いの「BNPL」決済サービスに注目が集まる
巣ごもりによりEC利用が増えたことで2021年に注目を集めた決済方法が、クレジットカード不要の後払い決済サービス「BNPL(buy now, pay later)」だ。会員登録すると代金はまとめて翌月払いとなり、ポイントも貯まる。欧米では若年層を中心に利用者が増えていて、日本でもすでにネットプロテクションズがメールアドレスと電話番号だけで利用可能な「atone」を展開。9月には自社が手がける別の後払いサービス「NP後払い」との会員基盤統合などを行い、「atone」のリブランディングを実施した。さらにヤフーやSBペイメントサービスと提携し、7月には「Yahoo!ショッピング」や「PayPayモール」、「LOHACO by ASKUL」に「ゆっくり払い」を導入。「BNPL」を利用した「NP後払い」のシステムとSBペイメントサービスのシステムを組み合わせた決済方法で、支払いは注文から2カ月後と余裕をもった期限を設定している。
「BNPL」については競合も本腰を入れており、9月にはPayPal(ペイパル)が後払い決済「Paidy(ペイディ)」を提供するペイディの全株式を取得すると発表した。「ペイディ」はコンビニなどで1カ月分の購入代金を翌月にまとめて支払う方法をはじめ、銀行振込などにより分割手数料無料で3回払いにできる仕組みを展開している。
2021年はこれら「BNPL」を導入するECサイトが大幅に増加したが、ニーズがあるのはクレジットカードの非保有者だけとは限らない。セキュリティ面のリスク回避や利便性などから、今後はクレジットカード保有者の間でも利用が増えていくとみられる。
カード決済&リテールサービスの強化書2022より