2023年7月24日8:00
長野県松本市に本社を置くアルピコ交通では、長野駅と松本、白馬、野沢温泉、大町・扇沢を結ぶ特急バスおよび高速バス、4路線の定期便全車両に、国際ブランドVisa、JCB、American Express、Diners Club、Discoverのタッチ決済を導入。オーストラリアやシンガポール、北米などから訪れる外国人観光客に好評を得ているほか、日本人の利用も徐々に増加。現在では対象路線における約1割の乗客に利用される決済手段となり、定着している。また2023年5月から約2カ月間の予定で、丸紅とともに、顔認証決済の実証実験を開始。乗客の利便性向上を最優先に、キャッシュレス決済拡大の取り組みを進めている。
欧米人観光客のニーズに対応
5種のタッチ決済を順次導入
アルピコ交通では、2021年12月20日、「長野-白馬線」「長野-野沢温泉線」の特急バス2路線・19台に、Visaのタッチ決済を導入。2022年4月には、「長野-大町・扇沢線」にもVisaのタッチ決済を導入。2023年3月27日には、「長野-松本線」にも利用路線を拡大するとともに、JCB、American Express、Diners Club、Discoverのタッチ決済を追加。現在、この4路線・全車両29台で5種のタッチ決済の利用が可能になっている。
長野駅と県内観光地を結ぶこれらの特急バス、および高速バスは、“インバウンド向け路線”と称されるほど、従来から外国人観光客の利用が多かった。その中でも特にオーストラリア、シンガポール、北米など、タッチ決済が浸透している国からの観光客が多く、乗客の利便性向上のためにタッチ決済の導入が待ち望まれていた。加えてコロナ禍に見舞われたことにより、非接触で安心な決済環境を整備することが急務となり、このタイミングで導入を決めたという。
タッチ決済の利用者は、乗車時にタブレット画面で降車する停留所を選択。カードをタッチして運賃を支払う。バスは山間を走行することも多いが、今のところ通信に支障はなく、問題ない速度で決済が完了しているという。そもそも現金決済と比較すれば、決済にかかる時間は大幅に短縮。アルピコ交通 バス事業部 路線バス営業担当 勝野圭太郎氏は「現金を受け取って数えたりする手間がなくなるだけでなく、画面上の視覚情報を活用してコミュニケーションを取ることができるので、特に外国人のお客様とのやり取りがスムーズになりました」と話す。
コロナ禍が落ち着いて回復の兆しが見られる外国人観光客に加えて、日本人のタッチ決済利用も徐々に増加。現在では対象路線における約1割の乗客がタッチ決済を利用するに至っている。ブランド別で見ると、Visaのタッチ決済が群を抜いて多い。
全国的に見ても高いタッチ決済利用額
今後は銀聯などの導入も視野に
アルピコ交通は三井住友カードとともに、Visaのタッチ決済の導入を推進してきた。アルピコ交通 経営企画室 室長 上嶋圭介氏は、「弊社におけるVisaのタッチ決済の利用額は全国のバス会社の中で多いほうであるという報告を受けています」と打ち明ける。「われわれは、Visaのタッチ決済は、交通のDXだととらえています。使ってみて便利だと感じる利用者が増えていけば、利用率は今以上に上がっていくでしょう」(上嶋氏)
同社では、これまでの一連の施策により、顧客ニーズに応える決済環境の整備はほぼ完了したと考えている。しばらくは現状を維持しつつ、新たな課題が顕在化すれば対策を講じる構えだ。
近々新たな課題として浮上しそうな事象としては、中国人観光客の増加が挙げられる。上嶋氏は、「銀聯、WeChat Pay、Alipayの導入は、今後検討すべきかもしれません」とコメントした。
顔認証決済の実証実験に参加
知見を蓄積し将来に備える
同社は2023年5月10日から7月14日までの予定で、丸紅とともに、「長野-松本線」の一部区間において、顔認証決済の実証実験を行っている。
コロナ禍の生活で自ら顔を画面に映し体温を測る行為に慣れたことによって、顔をかざすことに対する人々の抵抗感は下がっている。上嶋氏は「手ぶらでバスに乗れる顔認証決済は、乗客に対する究極の利便性の提供につながります。まだ区間運賃設定との連動がとれていないため、実証実験終了後すぐのサービス実施とはいきませんが、今後の技術開発に期待しているところです」と話す。
人によって、シーンによって、求められる技術やツールは異なる。同社ではあらゆる事態を想定し、積極的に幅広い知見を収集しておきたいとしている。