2025年4月14日8:30
2025年6月3日~5日にわたり、アジア太平洋(APAC)地域最級の流通イベントである「NRF 2025: Retail’s Big Show Asia Pacific (NRF 2025 APAC)」がシンガポールで開催される。米国の全米小売業協会(NRF)とのパートナーシップにより、Comexposiumが主催する。3日間のイベントでは、さまざまな講演者、展示、ショーケースなどが行われる。(池谷貴)
世界最大の流通展示会が昨年からアジア進出
APACは2028年までに世界小売市場の57%を占める?
世界最大級の小売りイベントである「NRF Retail’s Big Show」は2025年1月12~14日までニューヨークで開催された。毎年アジア太平洋地域から2,500人以上が米国・ニューヨークに訪れるという。2024年からはAPACでも開催を開始。今年9月16~18日には、フランス・パリでも開催が予定されている。
APACでは昨年、5,000件の登録を目指していたが、8,600件の登録があり、52か国以上の参加があった。Comexposium APAC担当マネージング・ディレクター Ryf Quail氏は「NRFブランドは多くの小売業者、特に日本の小売業者にとって非常に魅力的です。アジア太平洋地域が一つにまとまって地域のショーを開きたいという強い希望があったことに気づきました」と話す。
NRF 2025 APACでは、3日間の会議を継続し、1万5,000平方メートルの展示会を開催し、1万4000件以上の登録を見込んでいる。APACでNRFを開催する背景として、アジアの地域に有利な経済条件が整っているからだとした。2025年までに経済が4.3%成長し、2020年から2030年の間に34.9億人が中産階級に加わることが予想されている。
「この地域では消費や嗜好がすべて変わるでしょう。しかし最も重要なのは、小売売上高が2023年~28年で24%成長し、世界の小売市場の57%を占めるため、非常に重要なことです」(Quail氏)
日本の小売業者やテクノロジー企業が参加する理由として、まず第一に、日本は小売のリーダーとして、地域のプラットフォームで日本のリーダーたちが意見を発信する必要があるとした。Quail氏は「日本は小売分野で新しいベンチマークとなる革新や技術を設定する先頭を行っています」と述べる。
また、同市場では素晴らしい持続可能性に関するESGの問題が生じている。顧客体験の質が非常に高く、小売業者が顧客に提供する体験も素晴らしいというが、「何より重要なのは、日本が越境展開において地域のリーダーとなったことです」とQuail氏は話す。今後も同地域における国境を越えた拡大は続くため、日本の小売業者にとっては同地域への展開を継続する必要があるそうだ。
テーマ特集は「RETAIL UNLIMITED」
日本語の通訳や翻訳で講演を把握やすく
日本の小売業者は、地域の小売業者と絆やパートナーシップ、コラボレーションを築いている。Quail氏は「私たちにとって重要なのは、日本の小売業者がアジア太平洋市場の潜在能力を引き出す手助けをすることです。今回のテーマ特集は『 RETAIL UNLIMITED(リテール・アンリミテッド)』で、これは私たちが日本の小売業者を含む地域の小売業者に対し、アジア太平洋の巨大な可能性をどう開放できるかを示しています」とした。
国際的なパートナーとのネットワーキングにより、日本の小売技術や日本の小売が海外で自社ブランドの認知度を高める絶好の機会となるとしている。また、国際市場のダイナミクスを理解し、国境を越えた拡張やパートナーシップ、コラボレーションを探ることも重要だ。
日本市場以外で、技術が小売やマーケットプレイスにどのように導入されているかを把握できる。また、東南アジアに目を向けると、サプライチェーンや調達を多様化する機会が非常に重要になってくる。グローバル市場で活躍するブランドなどの知見を得ることで、日本市場に戻り、商業的な利点として活用することが可能となる。
今年のカンファレンスでは、100人以上のスピーカーを迎える。また、11件の基調講演も行われ、地域のリーダーやCEOが参加。また、ブレイクアウトセッションでは、さまざまなテーマに関する実践的なセッションが用意されている。展示会では、300以上の出展社が参加予定だ。さらにネットワーキングなど、アジアのエコシステムの中で新たな連携を築き、探るためのさまざまな方法が用意されている。
今回の日本企業の参加の優位点として、1つは通訳や翻訳を行うことだ。日本の小売業者は、Webサイトやアプリ、セッションをすべて日本語で知ることができる。
なお、今回のNRF 2025 APACでは、アジア地域の小売業者全体に適したコンテンツの作り方について、35人のアドバイザーの意見を基に企画された。これにより、「スピーカーが地域の文脈を理解し、日本の小売業者やアジア太平洋地域の小売業者にとって適切な内容を提供できるようにしています」とQuail氏は話す。韓国、シンガポール、オーストラリア、香港、マレーシア、タイといった企業の講演があり、日本からはサントリーやファミリーマートの講演も行われる。
米国、欧州と異なるアジアの魅力は?
日本企業にとってのアジアの位置づけ
そのほか、Innovators Showcase(イノベーターショーケース)では、世界中の最新の最先端の小売技術を紹介するために企画された。無料セッションは、全42セッションが3つのステージで行われる。さらに、有料となるが、シンガポールマーケットプレイス内の小売ショッピングツアーも実施する。
なお、新設された「NRF CEO Club」は、エンタープライズレベルのリテール事業者のCEOのみが参加できる大規模な招待制プログラムであり、ハイレベルなビジネスマッチングやリテール戦略を議論するための専用プラットフォームなど、約100名のトップエグゼクティブとビジネスリーダーに特別なサービスを提供する。NRF CEO Clubは、リテール業界のリーダーたちが重要な課題に取り組み、新たなビジネス機会を発見できるよう、国境を越えた業界横断的な協力を促進するそうだ。
昨年に続いてNRF 2025 APACアドバイザリーボードメンバーを務めるIBAカンパニー 代表取締役 射場 瞬氏は、「NRFやSHOPTOPとの違いは、多様性です」と説明する。例えば、NRFは米国のトレンドが中心だが、アジアの地場をわかっている人がスピーカーが講演するという。グローバルな視点からアジアの話をする点が特徴だという。また、昨年はユニクロやイオンが登壇し、日本の存在感を示したそうだ。また、日本からの参加者は小売りとメーカーがバランスよく参加していた。日本人は英語に心が折れる人も多いが、同時通訳をするため、詳細まで理解することが可能だ。また、アプリやウェブまで日本語化されるため、より理解しやすくなるそうだ。
エイチ・ツー・オー リテイリング グループCIO兼CDO 執行役員 / NRF2025 APACアドバイザリーボードメンバー 小山 徹氏は、小売業の立場から同展示会は有益だという。今後日本は少子高齢化し、市場が縮小する中で、アジアに進出する企業が増えているが、アジア市場は国によって買い方が違う部分がある。シンガポールはアジアのハブになっており、日本の企業としてアジアを知ることができるという。また、企業の裏側の仕組みに関しても日本の方が進んでいると考えている人もいるかもしれないが、アジアの国の方が進んでいる部分があり、日本の会社にとって課題を改善するヒントになるそうだ。日本の小売業と文化は違うが、コラボレーションできる点もあるとした。